概説
『吸血鬼ノスフェラトゥ(Nosferatu – Eine Symphonie des Grauens)』は、ブラム・ストーカーのゴシック・ホラー小説『吸血鬼ドラキュラ』(1897年)を非公式に映画化した1922年のサイレントのドイツ表現主義ホラー映画である。
舞台はイギリスからドイツに変更され、登場人物の名前もドイツ語の名前に変更されている。
監督はF・W・ムルナウ。94分。
あらすじ
1838年の北ドイツの架空の港町ヴィスボルクが舞台。
トマス・フッター(グスタフ・フォン・ヴァンゲンハイム)は雇用主の不動産業者クノックから、フッターの自宅の向かいにある屋敷を購入しようとしているオルロック伯爵(マックス・シュレック)に会いにトランシルヴァニアに行くようにと命じられる。
フッターは妻のエレンを友人で船主のハーディングとその妹に託し、トランシルヴァニアへの旅に出る。
カルパティア山脈の近くの宿屋に泊まったフッターがオルロック伯爵の名前を口にすると、地元の人々はひどく怯える。
翌日、フッターは山の中の城に住んでいるオルロック伯爵を訪れるが、オルロック伯爵は禿げ頭で鷲鼻、ギョロ目、尖った耳、ネズミのような尖った前歯、鉤爪のような長い指の爪を持つ不気味な男だった。
解説
本作はサイレント映画およびドイツ表現主義映画の初期の傑作であり、美しさと禍々しさを湛えた芸術的な吸血鬼映画である。オルロック伯爵(ノスフェラトゥ)の異様な外見と、ネズミを媒介にしてペストを蔓延させる吸血鬼という独自の設定が特徴である。
技術的な面での特徴としては、ロケーション撮影の多用、クロスカッティング、白黒反転、ストップモーション撮影などの技術の使用が挙げられる。
本作を製作した映画スタジオのプラナフィルムは、ブラム・ストーカーの作品の著作権を所有していたストーカーの未亡人のフローレンスの許可を受けずに『吸血鬼ドラキュラ』を映画化したため、フローレンスはプラナフィルムを著作権侵害で訴えた。1924年に裁判所はプラナフィルムに本作の現存するすべてのプリントの破棄を命じたが、少数のプリントが生き残り、その後、映画史上の重要作として評価されることになった。
2005年から2006年にかけて、スペインの映画監督でムルナウ映画の世界的権威であるルチアーノ・ベリアトゥアが、シネマテーク・フランセーズ所蔵の1922年の染色のナイトレート・フィルムを基にして本作の復元作業を行った。
ヴェルナー・ヘルツォーク監督のホラー映画『ノスフェラトゥ』(1979年)は本作のリメイクである。
E・エリアス・マーヒッジ監督の『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000年)は、『吸血鬼ノスフェラトゥ』の主演俳優のマックス・シュレックが実は本物の吸血鬼だったという話を描いたメタフィクション的なホラー映画である。
ロバート・エガース監督の2024年のアメリカ映画『ノスフェラトゥ(Nosferatu)』は1922年版の映画のリメイクである。