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奇跡の丘(1964年)

『奇跡の丘(Il vangelo secondo Matteo)』は、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督・脚本による1964年のイタリアの映画。新約聖書の『マタイによる福音書』に基づいてナザレのイエスの生涯を描いている。モノクロ。言語はイタリア語。137分。

ユダヤのベツレヘムのヨセフは、婚約者のマリアが聖霊によって懐妊したことを知る。主の天使の宣託に従って、ヨセフはマリアと結婚し、生まれた息子をイエスと名付ける。

エルサレムでは、ユダヤ人の王の誕生を恐れたヘロデ大王が、ベツレヘムの2歳以下の男児をすべて殺害することを命じるが、ヨセフの一家は主の天使の宣託に従ってエジプトに逃れる。

ヘロデ大王の死後、ヨセフの一家はイスラエルに戻り、イエスはガリラヤで成人する。イエスはヨルダン川で洗礼者ヨハネによって洗礼を授けられる。

イエスは荒野で悪魔の誘惑に抗いつつ40日間の断食を行う。その後、イエスは宣教を始める。

イエスは漁師の兄弟のペトロとアンデレ、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟のヨハネを含む12人を弟子にする。

イエスは12人の使徒とともに、群衆に向かって教えを説き、人々の病気を治しながら、ガリラヤを巡り歩く。大勢の群衆がイエスに付き従う。

ヘロデ大王の息子のヘロデ・アンティパスによって捕えられ、投獄されていた洗礼者ヨハネは、ヘロデの妻ヘロデヤとその前夫ピリポの娘サロメの要望によって斬首される。

イエスは弟子たちに、自分がエルサレムで長老や祭司長、律法学者たちによって殺され、3日後に蘇ることを予言する。

エルサレムにやって来たイエスは宮殿の中庭に入り、そこで商品を台から払い落として売買している人々の仕事を妨害し、「あなた方は私の家(祈りの家)を強盗の巣窟にしている」と言う。

イエスは群衆に向かって演説し、律法学者やパリサイ人たちの偽善を批判する。

使徒たちとの最後の晩餐の席で、イエスは「あなた方のうちの一人が私を裏切るだろう」と述べる。

イエスの予言の通りに、使徒の一人のイスカリオテのユダが、銀貨30枚と引き換えにイエスを祭司長たちに売る。イエスはピラト総督に引き渡される。ユダは自分が犯した罪を悔いて首吊り自殺をする。

イエスはゴルゴタの丘で十字架に磔にされて殺害される。

イエスの墓の前でイエスの老母マリアと使徒たちが嘆き悲しんでいると、主の天使が現れ、「彼は死から蘇り、あなたたちより先にガリラヤに向かっている。そこに行けば彼に会える」と伝える。

映画『奇跡の丘』の挿話と台詞は、マタイ福音書のテクストに厳密に基づいている。

無神論者であり共産主義者であったパゾリーニは、本作で、イエスを偶像化・美化せずにマタイ福音書のテクストを忠実に映像化することにより、ナザレのイエスを、古代ローマ帝国とユダヤ教権力が支配する社会に反抗した、一種の革命家として描いている。このようなイエス像は、マタイ福音書の第10章の、「私が地上に平和を投じるために来たなどと思うな。平和ではなく、剣を投じるために来たのだ。」というイエスの言葉に象徴されている。

本作はイタリアのネオレアリズモの手法によって製作されており、ドキュメンタリーあるいはシネマ・ヴェリテのような撮影技法も用いられている。

出演者の大半は非職業俳優である。スペインの学生で共産主義の活動家のエンリケ・イラソキがイエスを演じ、その他のキャストは主に本作が撮影されたバリーレ、マテーラ、マッサフラの地元民である。キャストには、エンツォ・シチリアーノ、アルフォンソ・ガット、ナタリア・ギンズブルグ、フアン・ロドルフォ・ウィルコックなどの著名な知識人(作家、詩人)たちも含まれている。パゾリーニの実母のスザンナがイエスの老母マリアを演じ、若き日の哲学者ジョルジョ・アガンベンが使徒ピリポを演じている。

本作のスコアは、アルゼンチン系イタリア人の作曲家ルイス・バカロフのオリジナルの楽曲と、バッハ(『ミサ曲 ロ短調』、『マタイ受難曲』、『ヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調』)、モーツァルト(『フリーメイソンのための葬送音楽』、『弦楽四重奏曲のためのアダージョとフーガ ハ短調』)、プロコフィエフのカンタータ『アレクサンドル・ネフスキー』、バッハ『音楽の捧げもの』の『6声のリチェルカーレ』のアントン・ヴェーベルンによる管弦楽用編曲、『ミサ・ルバ』(ラテン語ミサ曲をコンゴの子供たちの聖歌隊用に編曲した曲)の「グロリア」、アフリカ系アメリカ人の霊歌『時には母のない子のように(Sometimes I Feel Like a Motherless Child)』(アメリカのフォークシンガーのオデッタによる歌唱)、ブラインド・ウィリー・ジョンソンのゴスペル・ブルース曲『ダーク・ウォズ・ザ・ナイト(Dark Was the Night, Cold Was the Ground)』、ロシアのマルクス主義者、革命家の葬送行進曲『同志は倒れぬ』などを含むさまざまなスタイルの楽曲で構成されている。

本作は第25回ヴェネツィア国際映画祭(1965年)で審査員特別賞を受賞した。

GOSPEL ACCORDING TO ST MATTHEW