言語切替

アリス(1988年)

概説

『アリス(Něco z Alenky)』は、ルイス・キャロルの児童小説『不思議の国のアリス』(1895年)が原作のシュールなダークファンタジー映画である。チェコスロバキアのプラハ生まれのアニメーション作家・映画監督のヤン・シュヴァンクマイエルが脚本・監督を担当した。シュヴァンクマイエルの長編デビュー作である。

オリジナルのチェコ語のタイトル『Něco z Alenky』は、「アリスの何か」という意味。

実写とストップモーション・アニメーションを組み合わせて制作されており、アリス役を演じた少女のクリスティーナ・コホウトヴァー以外の主な登場人物はすべて人形である。

チェコスロバキア、スイス、イギリス、西ドイツの共同制作。86分。

あらすじ

アリスが部屋の中で退屈していると、ガラスケースの中の白ウサギのぬいぐるみが突然動き出す。白ウサギはタキシードを着てガラスを破り、頻りに懐中時計を見て時間を気にしながら外に出る。

白ウサギは荒野にある机の引き出しの中に消える。白ウサギを追って机の引き出しの中に飛び込んだアリスは、無生物が生き物のように動き回る、不思議な世界に迷い込む。

アリスが瓶に入ったインクを飲むと小さな人形の姿に変わり、タルトを食べると元の姿に戻る。アリスは大きくなったり小さくなったりを繰り返しながら、白ウサギと追いかけっこをする。

白ウサギはアリスをメイドと間違えて、家からハサミを持ってこいと命令する。アリスは白ウサギの家に入り、ハサミを見つけるが、バリケードで封鎖して家の中に立てこもる。白ウサギは動物の骸骨のような奇妙な仲間たちとともにアリスを家から追い出そうとする。アリスは家から逃げ出す。

白ウサギはアリスを、標本の瓶で埋め尽くされた貯蔵室に閉じ込めるが、アリスは鍵を見つけてそこから脱出する。

アリスは靴下のイモムシが這い回っている部屋に入る。室内にある机の引き出しから白ウサギが現れて、机の上のハサミを取って引き出しの中に消える。

アリスは木製の操り人形の帽子屋とぜんまい仕掛けの三月ウサギがお茶会を開いている部屋にやって来る。帽子屋は、お茶を一杯飲み終わったら隣の席に移るという一連の動作を機械的に繰り返す。三月ウサギは懐中時計にバターを塗る。帽子屋は帽子の中から白ウサギをひっぱり出す。

白ウサギを追って、アリスは演劇のセットのような紙製の庭に迷い込む。紙でできた平面のハートの女王とトランプの軍隊が庭にやって来る。軍隊のジャックの二人が剣で戦い始める。女王が白ウサギにジャックたちの首をはねろと命令し、白ウサギはハサミで二人の首を切り落とす。

女王はアリスをクロッケーに誘う。アリスはクロッケーをするが、マレットとボールが生きたニワトリとハリネズミに変わってしまう。

アリスは女王のタルトを食べた罪で裁判にかけられる。法廷で、王と女王はアリスに死刑を宣告し、アリスの首を切れと命令する。

解説

『アリス』は、シュルレアリストであるシュヴァンクマイエルが、不条理文学としてのルイス・キャロルの原作を独自の不気味で奇怪な世界観によって翻案し映像化した、悪夢のような映画である。万人向けの映画ではないが、快と不快が入り交じったような、不思議な魅力を持った映画である。

本作は1989年のアヌシー国際アニメーション映画祭で長編部門のグランプリを受賞した。

ヤン・シュヴァンクマイエル監督作『アリス』予告