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下女(1960年)

『下女(하녀)』は、1960年の韓国のサイコスリラー/家庭内ホラー映画。ブルジョワの音楽家が家政婦と性的関係を持ったことにより、家政婦によって音楽家の家庭が崩壊させられる恐怖の物語を描いている。製作・監督・脚本はキム・ギヨン(金綺泳)。モノクロ。111分。

本作は、音楽家のキム・トンシク(キム・ジンギュ)が自宅で妻(チュ・ジュンニョ)と、ソウルのクムチョン(衿川)で雇用主と性的関係を持ったメイドが殺害されたという新聞記事について話している場面で始まる。

結末の場面は映画の冒頭の続きとなっており、本筋は物語内物語として語られている。

トンシクは女性の従業員が働いている寄宿舎付きの紡織工場で音楽部の教師、合唱団のピアノ伴奏者として働きながら、妻と長女のエスン、息子のチャンスン(アン・ソンギ)と新築の二階建ての家で暮らしていた。

エスンは足が麻痺しているために松葉杖を使ってリハビリ中だった。

自宅の増築費をまかなう必要があるため、キム夫人はミシンを使って裁縫の内職をしていた。キム夫人は過労で病気になる。

ある日、女性工員のカク・ソニョンがトンシクに恋文を送る。トンシクは舎監にソニョンのことを相談する。舎監はソニョンを三日間の停職処分にする。ソニョンは工場を辞めて帰郷する。

ソニョンのルームメイトだったチョ・キョンヒ(オム・エンナン)はキム家でトンシクからピアノのレッスンを受け始める。

キム夫人は夫に、家が大きすぎて家政婦がいないと家事は無理だと訴える。

トンシクはキョンヒに家政婦を探してくれないかと頼む。キョンヒは工場で清掃作業員として働いているミョンスク(イ・ウンシム)をキム一家に紹介する。ミョンスクはキム家の家政婦として働き始める。

キム夫人は三人目の子供を妊娠する。キム夫人は二人の子供を連れて帰郷し、トンシクは自宅でメイドと二人きりになる。

ソニョンが自殺する。トンシクとキョンヒはソニョンの故郷でソニョンの葬式に出席する。

その夜、キョンヒはトンシクの家でトンシクへの愛を告白する。家族との生活を守りたいトンシクはキョンヒを拒絶する。メイドは二人のやりとりを盗み見する。

キョンヒが帰った後、メイドはトンシクを誘惑し、トンシクはメイドと肉体関係を持ってしまう。

キム夫人と子供たちが家に帰ってくる。トンシクはメイドとの関係を隠し通そうとするが、メイドはトンシクにトンシクの子供を妊娠していると告げる。

トンシクは妻にメイドと姦通して妊娠させたことを告白する。キム夫人はそれを聞いてショックを受ける。

キム夫人はメイドに家の階段から落ちて流産するように指示する。メイドは階段から落ちて胎児は死亡する。

キム夫人は男児を出産する。

ある日、トンシクの息子のチャンスンがメイドに水を持ってこいと言う。メイドはチャンスンにコップの水を飲ませてから、殺鼠剤を入れたと嘘をつく。チャンスンはパニック状態になり、階段から転落して死亡する。

トンシクはメイドを警察に付き出そうとするが、メイドはトンシクの家で起きたことを全部工場に知らせると脅す。

夫が職を失って家族が路頭に迷うことを恐れたキム夫人は、何でも望みのものを与えるから事件のことは口外しないでくれとメイドに頼む。メイドはトンシクが欲しいと言う。

こうして、キム一家とメイドの主従関係が逆転する。

メイドは毎晩、キム夫人が階下の部屋でミシンを使って仕事に励んでいる間、二階の部屋でトンシクとベッドを共にする。

キム夫人はスープに殺鼠剤を入れてメイドを毒殺しようとするが、メイドが殺鼠剤を砂糖水と入れ替えていたために失敗する。

ある晩、キョンヒがキム家を訪れる。キョンヒがピアノを弾いているとメイドが部屋に入ってきて、キョンヒを追い出そうとしてキョンヒの上胸部を包丁で刺す。キョンヒは傷から血を流しながら逃げ去る。

メイドはトンシクに殺鼠剤を飲んで一緒に死んでくれと頼む。メイドとトンシクは殺鼠剤を入れた水を飲んで心中する。

『下女』は、フリッツ・ラング作品などのドイツ表現主義映画やハリウッドのメロドラマ映画からの影響をうかがわせるモダンなスタイルが特徴である。

『下女』は朝鮮戦争(1950–1953年)からわずか7年後に撮影された。四月革命(1960年)と5・16軍事クーデター(1961年)の間の第二共和国期の1960年に公開され、韓国で観客動員数10万人を記録するヒット作となった。

当時の韓国では、工業化と近代化を背景として、物質主義や拝金主義などの新しい価値観が台頭し、韓国の伝統的な文化や制度に対して破壊的に作用していた。本作はそのような社会状況を反映している。

本作に登場するキム家の住宅は近代化とアメリカナイズされた生活様式の象徴である。キム夫妻は富への欲望に取りつかれた中産階級の人々の典型として描かれている。キム家の階段は社会階層における上昇と転落を象徴する舞台装置として用いられている。また、メイドのキャラクター設定においては性的な欲求が上位中産階級の生活を手に入れたいという野心と結び付けられている。

本作は1997年に釜山国際映画祭で開催されたキム・ギヨン作品の回顧展をきっかけとして世界的に高く評価されるようになった。

ウェブサイト『Koreanfilm.org』は本作を「韓国映画史上のトップ3の1つ」と評している。

キム・ギヨンの映画、『火女(화녀)』(1971年)と『火女 ’82(화녀’82)』(1982年)は『下女』のリメイクである。この三作品は「メイド三部作」と呼ばれている。

ジョゼフ・ロージー監督の映画『召使(The Servant)』(1963年)は、雇い主と使用人の主従関係の逆転という題材において本作に類似している。

韓国映像資料院は2008年にマーティン・スコセッシのワールド・シネマ・ファウンデーションの支援を受けて本作の復元を行った。

イム・サンス監督の2010年の韓国映画『ハウスメイド(하녀)』は本作のリメイクである。

ポン・ジュノ監督の2019年の韓国映画『パラサイト 半地下の家族(기생충)』は本作の強い影響下で制作された映画である。

下女(韓国映画1960年/日本語字幕付き) 하녀(1960)김기영