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ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン(1975年)

概説

『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン(Jeanne Dielman, 23, quai du Commerce, 1080 Bruxelles)』は、一人の主婦の日常生活を実験的な手法で描いた、1975年のフランス・ベルギー合作のドラマ映画である。監督・脚本はシャンタル・アケルマン。主演はデルフィーヌ・セリッグ。201分。

あらすじ

本作は、ベルギーのブリュッセルでアパートの一室に10代の息子シルヴェインと住んでいる中年の未亡人、ジャンヌ・ディエルマン(デルフィーヌ・セリッグ)の日常生活を、火曜日から木曜日までの三日間にわたって描いている。

ジャンヌは毎日、スケジュールに従って日課をこなしている。朝、息子の靴を磨く。朝食を取る。息子を学校へ送り出す。室内を片付ける。隣人の赤ちゃんを預かる。郵便局でお金を預ける。昼食を取る。食料品を買う。カフェでコーヒーを飲む。家計簿を付ける。午後、息子が学校に行っている間に、自宅で売春婦として男性客と性交する。入浴する。夕食の準備をする。息子の帰宅後、息子と夕食を取る。ラジオを聴きながら息子のセーターを編む。新聞を拾い読みする。息子のベッドを整え、就寝する。

彼女にとっては、売春も日々の日課の一つにすぎなかった。

そんなある日、夕食用のジャガイモを焦がしてしまう。買い置きのジャガイモが残り一つしかない。靴磨き用のブラシや洗ったばかりのスプーンを床に落としてしまう。郵便局に行くと、郵便局は閉まっている。カフェのいつも座る席に見知らぬ女性が座っている。赤ちゃんが泣き止まない。自分で作ったカフェオレがおいしくない。息子のコートのボタンが一つなくなっていたので、同じ型のボタンを買おうとするが、どの店にも売っていない。その種の些細な出来事によって、彼女の生活の秩序が、少しずつではあるが失われてゆく。

解説

『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』は1975年のカンヌ国際映画祭の監督週間にて初上映された。

本作は監視映像やリアルタイムのライブカメラのような固定カメラで撮影された長回しのショットによって構成されており、クローズアップや切り返し、主観ショットは使われていない。ラジオから流れる曲を除いて、BGMはない。台詞は少ない。カット割りや時間の省略といった通常の映画的な手法と劇的な要素を排した実験的な映画である。長尺の映画(3時間超)であるが、観客を退屈させない、濃密な映画体験をもたらす作品である。

本作は2022年にイギリスの映画雑誌『サイト&サウンド』の批評家による「史上最高の映画」の投票で第1位にランク付けされた。

Jeanne Dielman – Veal Cutlets