概説
『ロボットカーニバル』はA.P.P.P.が製作し、1987年に発売された日本のOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)である。8人のアニメーターと漫画家の大友克洋が「ロボット」を共通のテーマとして制作した短編アニメーション映画をオムニバス形式で収録しており、「OPENING」と「ENDING」に挟まれた短編7本で構成されている。90分。
1980年代の日本のOVA黎明期に作られた傑作の1つである。娯楽的なものから芸術的なものまで多岐にわたる作風の多彩さと、凝りに凝ったアニメーションによるゴージャスな映像が特徴である。
国内での発売時は大きなヒットにはならなかったが、国内外のアニメ愛好家たちから芸術的なフィルムとして高く評価されている。
Discotek Media(アメリカ合衆国)は2021年に『ロボットカーニバル』の4K修復版をUltra HD Blu-rayで発売した。
OPENING / ENDING
- 監督・シナリオ・絵コンテ: 大友克洋
- キャラクターデザイン・原画: 福島敦子
- 美術: 山本二三
「OPENING」は、無数の人形のようなロボットと「ROBOT CARNIVAL」というロゴを載せた移動要塞のような巨大な機械が砂漠にやって来て集落の人々を攻撃し、彼らの住居を踏み潰しながら砂漠を走り抜けてゆく様を描いたシュールなコメディー映画である。
「ENDING」は「OPENING」の後日譚。
当時の大友はアニメ映画『AKIRA』(1988年)の準備に入っていたため、絵コンテを描き上げてから後の制作作業のほぼすべてを福島と山本に任せている。
福島が手がけた大友的なキャラクターデザインとリアルでダイナミックな作画が見どころである。
福島は本作の制作の前に、アニメ映画『グリム童話 金の鳥』(1987年)で画面構成と原画を、オムニバスアニメ映画『Manie-Manie 迷宮物語』(1987年)の「ラビリンス*ラビリントス」でキャラクターデザイン、作画監督、原画を、それぞれ担当していた。
フランケンの歯車
- 監督・シナリオ・キャラクターデザイン: 森本晃司
- 美術: 池畑祐治
研究所でマッドサイエンティストの老人が自作のロボットに命を吹き込んで起動させようとする。ロボットがゆっくりと立ち上がる。
「フランケンの歯車」はロベルト・ヴィーネの『カリガリ博士』(1920年)やフリッツ・ラングの『メトロポリス』(1927年)などのドイツ表現主義映画に影響を受けたレトロなスタイルのスチームパンクSF映画である。
森本は当時、『幻魔大戦』(1983年)や『カムイの剣』(1985年)などのアニメ映画の原画に代表されるようなトリッキーな作画スタイルで知られていた。
本作は大友克洋やなかむらたかしに影響を受けた綿密な描写と滑らかなアニメーションが特徴である。
老人のオーバーアクションや揺れながら立ち上がるロボット、宙を舞う機械部品などの事物のダイナミックな動きが細かく描かれている。
DEPRIVE
- 監督・シナリオ・キャラクターデザイン: 大森英敏
- 美術: 松本健治
少女が異星の侵略者に捕らわれる。少女を奪い返すため、作業用アンドロイドが自らを人間型の戦闘用ロボットに改造し、敵と戦う。
「DEPRIVE」は、『新造人間キャシャーン』(1973–1974年)や『破裏拳ポリマー』(1974–1975年)などのタツノコプロ制作のヒーローアクションアニメシリーズへのリスペクトを基にしたアクションアニメ映画である。
大森は当時、『聖戦士ダンバイン』(1983–1984年)や『重戦機エルガイム』(1984–1985年)などのサンライズ制作のロボットアニメシリーズの作画監督の1人として知られていた。
プレゼンス
- 監督・シナリオ・キャラクターデザイン: 梅津泰臣
- 作画協力: 寺沢伸介、二村秀樹
- 美術: 山川晃
人間そっくりのロボットが人間と暮らしている世界が舞台。
一人の男がイギリスに似たヨーロッパ風の国で妻と娘と一緒に暮らしていた。
母親の愛情を知らずに育った男は妻に女性的なものを求めていたが、男まさりのキャリアウーマンである妻は彼の期待には応えてくれなかった。
女性的なものに対する欲求を満たすために、男は森の中の小屋にひそかに作った少女型のガイノイド(女性型ロボット)を隠していた。
ガイノイドは独自の人格を獲得する。男はガイノイドを破壊し、小屋に放置する。
数十年後、老人になった男の前にガイノイドが再び現れる。
「プレゼンス」は、極度に細かい作画とリアルな表現を含む芸術的で美しい映像が特徴である。当時の手描きアニメーションの技術の限界に挑戦したようなフィルムである。
梅津は当時、TVアニメシリーズ『機動戦士Ζガンダム』(1985–1986年)のオープニングやOVA『メガゾーン23 PART II 秘密く・だ・さ・い』(1986年)のキャラクターデザインなどに代表されるようなリアルで緻密な作画で知られていた。
STAR LIGHT ANGEL
- 監督・シナリオ・キャラクターデザイン: 北爪宏幸
- 美術: 島崎唯
10代の少女が女の子の友人とロボットをモチーフにした遊園地を訪れる。友人は少女に恋人を紹介するが、友人の恋人は少女にネックレスをあげてキスをした男だった。
少女は泣きながら走り去る。夢の世界に入り込んだ少女は、そこで遊園地でロボットの扮装をして働いていた青年に出会う。
青年は甲冑を着た騎士のようなロボットスーツを身に付けて悪のロボットと戦う。少女は青年のおかげでショックから立ち直る。
「STAR LIGHT ANGEL」は、思春期の少女の心象風景を描いたおとぎ話のようなファンタジー映画である。a-haの「テイク・オン・ミー(Take On Me)」(1984年)のようなミュージック・ビデオに似たフィルムである。
北爪は当時、『機動戦士Ζガンダム』の作画監督を務めた後、TVアニメシリーズ『機動戦士ガンダムΖΖ』(1986–1987年)のキャラクターデザインを担当していた。
CLOUD
- 監督・シナリオ・キャラクターデザイン: マオラムド(アニメーターの大橋学の別名)
- 原画: 大橋学
- 動画: 大橋初根、大橋志歩
- 美術: マオラムド
ロボットの姿をした少年がうつむきながら歩き続けている。少年の背後で雲が天使、嵐、爆発、キノコ雲などのさまざまな事象に形を変える。
「CLOUD」は大橋学が1979年に自費出版した絵本『雲と少年』を基にしたアートフィルムである。
ロボットの少年の心象風景を映像詩として描いている。アニメーションはスクラッチボードやエッチングのような画風で描かれている。
大橋は当時、TVアニメシリーズ『宝島』(1978–1979年)のオープニング/エンディング、アニメ映画『ボビーに首ったけ』(1985年)の作画監督、アニメ映画『グリム童話 金の鳥』(1987年)のキャラクターデザイン・作画監督などの仕事で知られていた。
明治からくり文明奇譚 〜紅毛人襲来之巻〜
- 監督・シナリオ: 北久保弘之
- キャラクターデザイン: 貞本義行
- メカニックデザイン: 前田真宏
- 作画協力: 毛利和昭、森山ゆうじ、川名久美子
- 美術: 佐々木洋
舞台は明治時代初期(19世紀)の日本。
英語を話すマッドサイエンティスト、ジャン・ジャック・ヴォーカーソンIII世が巨大ロボット「我が愛しのティンカーベル号」を操縦し、日本征服のために江戸を襲撃する。
青年三吉と4人の仲間たちは、港祭りのために作られた巨大な人型ロボット(からくり御輿)「陸蒸気弁慶號」を操縦し、ヴォーカーソンIII世と戦う。
「明治からくり文明奇譚 〜紅毛人襲来之巻〜」は2つの巨大ロボットの戦いを描いたコミカルで娯楽的なスチームパンクSF映画である。
北久保は本作の制作の前に成人指定のOVAシリーズ『くりいむレモン』(1984–1987年)の第4作「POP CHASER」(1985年)で初監督を務めていた。
ニワトリ男と赤い首
- 監督・シナリオ・キャラクターデザイン: なかむらたかし
- 美術: 沢井裕滋
深夜の東京・新宿で、機械類が魔術師のようなロボット(ニワトリ男)によってロボットの魔物に変えられ、ロボットの魔物たちの饗宴が始まる。
それを目撃した酔っぱらいの男が、ニワトリ男に執拗に追いかけ回される。
「ニワトリ男と赤い首」は、なかむらたかしがウォルト・ディズニーやフライシャー・スタジオの影響下でキャラクターの流麗な動きを追求した、悪夢のようなダーク・ファンタジー映画である。
なかむらは当時、『幻魔大戦』の原画やTVアニメシリーズ『未来警察ウラシマン』(1983年)のキャラクターデザインなどの仕事で知られていた。