概説
『巨人と玩具』は、第二次世界大戦後の高度経済成長期の日本を舞台に製菓業界の三大企業間の宣伝競争を描いた、1958年の日本の風刺ドラマ/コメディー映画である。開高健の同名の小説(1957年)の翻案である。監督は増村保造。製作は大映。主演は川口浩、高松英郎、野添ひとみ。カラー。ワイドスクリーン(シネマスコープ)。95分。
解説
物語は、ワールド製菓の宣伝部課長の合田竜次(高松英郎)、同部の新入社員の西洋介(川口浩)、島京子という名の少女(野添ひとみ)の3人の人物を中心に展開する。
合田はメディアを使って京子を人気者に仕立て上げ、ワールド製菓のキャラメルの宣伝に利用する。
『巨人と玩具』の原作は、1957年に文芸雑誌『文學界』に掲載された開高健の短編小説である。この小説は「経済小説」のジャンルにおける初期の作品であり、1950年代に酒造会社の壽屋(現在のサントリー)の宣伝部に勤めていた開高の体験を反映している。
映画『巨人と玩具』は、大量生産と大量消費、営利主義、広告の氾濫、メディアによる大衆操作などによって特徴づけられる現代資本主義における人間性の喪失を戯画的に風刺した前衛的なモダニズム映画であり、シニカルなダーク・コメディー映画である。
本作のスタイルは、鮮やかな色彩、目まぐるしく展開する物語、早口でまくし立てるマシンガントークのような台詞が特徴である。
本作の題材は広告業界を風刺したフランク・タシュリン監督のアメリカのコメディー映画『ロック・ハンターはそれを我慢できるか?』(1957年)に類似している。
無名だった京子が突然有名人になるエピソードは、エリア・カザン監督のアメリカ映画『群衆の中の一つの顔』(1957年)に類似している。
本作で合田は宇宙服をワールド・キャラメルの宣伝に使うというアイデアを思い付くが、この設定は1957年のソ連による世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げによって起こった当時の宇宙ブームを反映している。
現在の視点から見ると、本作は1960年代以降の現代社会の趨勢を先取りした予見的な映画のように思える。
本作には、高度経済成長を支えた日本固有の企業システム(終身雇用と年功序列)に対する批判的な視点も含まれている。本作における合田は、1960年代末以降に「モーレツ社員」と呼ばれた、滅私奉公型の仕事中毒のサラリーマンの典型として描かれている。
本作は日本での公開時は興行的に失敗に終わったが、日本の映画雑誌『キネマ旬報』の1958年度のベスト・テン(日本映画部門)で10位にランク付けされ、その後、国内外の批評家筋から傑作として高く評価されるようになった。
アロービデオ(UK/US)は2021年に本作の復元版をBlu-rayで発売した。
あらすじ(ネタバレ注意)
同業他社のアポロ製菓、ジャイアンツ・キャラメル・カンパニーと熾烈な販売競争を繰り広げているワールド製菓は、主力商品であるキャラメルの売り上げの低迷に悩まされていた。
ワールド製菓の重役たちは宣伝部に、次の特売で競合他社を出し抜くための新しい宣伝のアイデアを考え出すように指示する。
合田は出世のために部長の娘と結婚し、若くして課長になった38歳の敏腕の宣伝マンだった。宣伝部の新入社員の西は合田を上司として尊敬していた。
西はライバル会社のジャイアンツ・キャラメル・カンパニーの宣伝部で働いている大学時代の友人の横山と再会する。横山はもう一つのライバル会社のアポロ製菓の宣伝部で働いている倉橋雅美に西を紹介する。西は倉橋と恋愛関係になる。
西は横山と倉橋からライバル会社の宣伝戦略に関する情報を入手しようとする。
合田はタクシー会社で事務員として働いている18歳の労働者階級の少女、島京子に出会う。京子は愛嬌のある笑顔と虫歯が特徴の個性的な娘だった。
合田は京子を人気者に仕立て上げてワールド・キャラメルの宣伝のためのトレード・キャラクターとして利用する計画を立てる。
合田は宇宙服をワールド・キャラメルの購入者向けの景品にするというアイデアを思い付く。一方、ジャイアンツはポケットモンキーやウサギ、モルモット、リスなどの生きた動物をキャラメルの景品にしようとしていた。
合田はマスメディアを使って京子をモデルとして売り出す。合田は写真家の春川に撮らせた京子の写真を週刊誌に載せ、京子をラジオ番組やファッションショーに出演させる。京子はメディアの人気者になる。
西は合田の指示で京子のマネージャーの仕事を始める。京子は西に恋心を抱く。
合田は京子にワールドの広告モデルとしての専属契約を結ばせる。京子は宇宙服を着て光線銃を持った姿でワールド・キャラメルのTVコマーシャルやポスター広告に出演する。
三社間で特売の宣伝合戦が始まる。アポロが「乳母車からご婚礼までの生活資金」を景品にしたため、アポロのキャラメルが好調な売れ行きを見せる。
京子は西に愛を告白するが、倉橋を愛している西は京子を拒絶する。京子は西のもとを去り、新しいマネージャー兼恋人を見つける。
アポロの川崎工場が火災で全焼し、アポロはキャラメル製造の停止を余儀なくされる。ワールドはこの機会を利用して利益を得るためにキャラメルを増産し、合田は販売促進のために小売店の接待の仕事もするが、ワールド・キャラメルの売り上げは低迷を続ける。
精神安定剤と覚醒剤を常用しながら狂ったように働き続ける合田は心身共にボロボロになり、吐血するようになる。
西は倉橋に結婚を申し込むが、倉橋は仕事を続けたいという理由で西のプロポーズを断る。
合田は京子に販売促進のために宇宙展に出演してほしいと頼むが、京子は合田の依頼を断る。京子は虫歯を治療して歌手兼ダンサーとしての活動を始めていた。
合田は西に、京子と肉体関係を持って京子を説得しろと命じる。西は京子が出演しているナイトクラブを訪れる。京子は舞台でエキゾチックな歌を歌い、部族の衣裳を着たバックダンサーとともに踊る。西は楽屋で京子と会うが、京子は西を冷たくあしらう。西は友人の横山がジャイアンツを辞めて京子のマネージャー兼恋人になっていたことを知る。
ワールドの事務所に戻った西は合田に説得が失敗したことを報告する。西は自分の仕事に幻滅し、合田に対する尊敬の念を失っていた。西は合田と口論し、辞職を申し出る。
合田は血を吐きながら、宇宙服を着て街頭でワールド・キャラメルの宣伝をしようとする。会社への忠誠心と仕事への幻滅の板挟みで自暴自棄になった西は合田を殴り倒し、宇宙服を着て銀座の街をさまよい歩く。