概説
『ファスター・プシィキャット!キル!キル!』(英語原題: Faster, Pussycat! Kill! Kill!)は、ラス・メイヤー監督の1965年のアメリカ合衆国のエクスプロイテーション映画である。
カリフォルニア州の砂漠を舞台に、殺人や誘拐、強盗などの犯罪を犯す3人のゴーゴーダンサーを描いている。
監督・編集はラス・メイヤー。
脚本はラス・メイヤーとジャック・モラン。
製作はラス・メイヤーとイヴ・メイヤー。
製作会社はイヴ・プロダクションズ。
配給はRMフィルムズ・インターナショナル。
出演はトゥラ・サターナ、ハジ、ロリ・ウィリアムズ、スーザン・バーナード。
撮影はウォルター・シェンク。
音楽はポール・ソーテル、バート・シェフター。
モノクロ。スタンダードサイズ。83分。
あらすじ
映画はナレーター(ジョン・ファーロング)による前口上で始まる。ナレーターは女性の肉体に潜む暴力について警告を発する。
ナイトクラブでゴーゴーダンサーとして働いている3人の女、ヴァーラ(トゥラ・サターナ)、ロージー(ハジ)、ビリー(ロリ・ウィリアムズ)がスポーツカーを飛ばしてカリフォルニア州の砂漠にやって来る。
3人の中ではヴァーラがリーダー格だった。ヴァーラは空手の達人だった。
3人はスリルを求めて高速のチキンレースをする。
3人は車のタイムトライアルをしようとしていた若いカップルのトミー(レイ・バーロウ)とリンダ(スーザン・バーナード)に出会う。
ヴァーラの提案で3人組とトミーは車のスピードを競う。その後、ヴァーラはトミーと殴り合いの喧嘩を始める。
ヴァーラはトミーの首を折ってトミーを殺害する。
ヴァーラはリンダに薬を飲ませてリンダを拉致する。
3人組は砂漠の小さな町でガソリンスタンドに立ち寄り、そこで車椅子に乗った老人(スチュアート・ランカスター)とその息子(デニス・ブッシュ)を見かける。息子は筋肉質だが知的発達が遅れており、「ベジタブル(野菜)」と呼ばれていた。
ガソリンスタンドの従業員(ミッキー・フォックス)によると、老人は駅のプラットフォームで若い女性を助けたときに列車事故で障害を負い、多額の和解金を砂漠にある自宅の近くのどこかに隠しているという。
ヴァーラは老人から金を奪う計画を立てる。3人組はリンダを連れて車で老人を自宅まで追跡する。
老人は長男のカーク(ポール・トリンカ)、次男の「ベジタブル」とともに牧場の近くの家で暮らしていた。
老人が駅のプラットフォームで若い女性を助けて列車事故に遭った時、その女性は老人を置き去りにして次の列車に乗った。それ以来、老人は若い女性に対して強い憎しみを抱くようになり、女性に対する復讐心に取りつかれていた。
老人の家族は3人組とリンダを発見する。
老人は女性に対する復讐心を満たすためにリンダを襲う計画を立てる。
老人は3人組とリンダを昼食に招待する。
昼食の後、ヴァーラは老人が金を隠した場所を探るためにカークを誘惑しようとする。
リンダはビリーが酔いつぶれた隙に逃げ出す。
老人は次男にリンダを捕えさせる。
父親に愛想を尽かしたカークはリンダを連れて立ち去る。
ビリーはヴァーラとロージーを置いて一人で家に帰ろうとするが、ヴァーラはビリーの背中にナイフを投げつけてビリーを殺害する。
車に乗ったヴァーラとショットガンを持った老人が殺し合いを始める。
解説
『ファスター・プシィキャット!キル!キル!』は1965年にロサンゼルスで初公開された。当時の宣伝コピーは「女性の暴力の頌歌(Ode to the Violence in Women)」だった。
本作は女性が主人公のアクション映画の最も初期の作品の1つであり、女性による暴力を描くことによって性別役割(ジェンダーロール)の固定観念を打ち破った、当時としては画期的な映画である。
本作は公開当時は商業的にも批評的にも失敗に終わったが、その後、カルト・クラシックとして高く評価されるようになった。
本作は胸の大きい女性を性的な対象として描いたセクスプロイテーション映画であるが、メイヤーの他の多くの作品と同様に、女性を男性よりも強いものとして描いている。
暴力的で残忍な悪党としてのヴァーラ役を演じたトゥラ・サターナの存在感と、サターナ本人が演じたアクションシーンが本作の見どころである。サターナは実際に合気道や空手などの格闘技を学んでいた。
映画監督・作家のジョン・ウォーターズは著書『Shock Value』(1981年)の中で「『ファスター・プシィキャット!キル!キル!』は疑いの余地なくこれまでに作られた最高の映画だ。おそらく今後作られるどの映画よりも優れている。」と述べた。
本作は女性の主人公を性的な対象としてだけではなく暴力の主体としても描いているため、フェミニズムや女性の権利拡大の観点から再検討されている。
フェミニストの映画評論家のB・ルビー・リッチは、1970年代に本作を観た時は女性を物のように扱った搾取的で女性蔑視的な映画として一蹴したが、1990年代初頭に本作をビデオで見直した際には本作をクィアカルチャーの文脈で再評価し、本作についての長い論説文を『ヴィレッジ・ヴォイス』紙に寄稿した。
映画監督のクエンティン・タランティーノは自身の映画『デス・プルーフ』(2007年)のクレジットで本作に言及し、メイヤーに謝辞を捧げている。
RMフィルムズ・インターナショナルは2015年に本作のブルーレイを発売した。