概説
『ヘカテ』(フランス語原題: Hécate, maîtresse de la nuit)は、ダニエル・シュミット監督の1982年のフランス・スイス合作のドラマ映画である。
ポール・モランの小説『ヘカテの犬たち(Hécate et ses chiens)』(1954年)を原作としている。
古代ギリシア神話に登場する女神ヘカテへの崇拝をモティーフにして、1930年代の北アフリカで既婚女性に魅了されたフランスの外交官の偏執的な恋愛を描いている。
105分。
あらすじ
第2次世界大戦中の1942年のスイス、ベルンで、フランス大使館主催のパーティーに出席したフランスの外交官のジュリアン・ロシェル(ベルナール・ジロドー)は、かつて自分が愛したある女性のことを思い出す。
第2次世界大戦前の1936年、ジュリアンはフランスの植民地支配下のモロッコのフェズに領事館員として赴任し、フランス領事のヴォーダブル(ジャン・ブイーズ)の下で働き始める。
ある晩、パーティーに出席したジュリアンは、クロチルド・ド・ワトヴィルという名の謎めいた女性(ローレン・ハットン)と知り合う。
ジュリアンはクロチルドと親密になり、一緒に食事や乗馬を楽しむ。その後、2人は性的な関係を持つようになる。
クロチルドはアメリカ人で、夫のワトヴィル大佐はシベリアで任務に就いていると噂されていたが、クロチルドは一切自分のことを話さなかった。
ジュリアンは、自分にとっての理想の女性のように思われるクロチルドの魅力に取りつかれて仕事が手につかなくなる。しかしその一方で、秘密を明かそうとしないクロチルドに対して苛立ちを募らせ、彼女を自分のものにすることができずに苦悩する。
レストランで食事中に、クロチルドはジュリアンに、地元の少年イブラヒムとの性的な関係をほのめかす。ジュリアンは嫉妬に狂って激怒する。クロチルドはジュリアンに、秘密を見せると言って娼館に案内する。そこでは少年少女たちが売春をさせられていた。
クロチルドはジュリアンの前から姿を消す。クロチルドを探し求めて、ジュリアンは町や砂漠をさまよい歩く。
ジュリアンは自宅で入浴しているクロチルドを発見する。ジュリアンはクロチルドに、君は何者なんだと詰め寄る。クロチルドは、自分は「あなたが望んだ女」だと答える。
ジュリアンはクロチルドを追い回し続けるが、クロチルドはジュリアンを無視する。怒りにかられたジュリアンは、クロチルドの家でイブラヒムをレイプする。
少年に対する性的暴行によって、ジュリアンはシベリアに左遷される。ジュリアンはシベリアでクロチルドの夫のワトヴィル大佐に出会い、ワトヴィルも自分と同じくクロチルドへの愛によって傷ついた男であることを知る。
1942年のスイス、ベルンで、回想から我に帰ったジュリアンは、パーティー会場で以前と変わらぬ姿のクロチルドと再会する。
解説
『ヘカテ』は、現実には存在しないが故に永遠に到達不可能な理想の女性の幻影を追い求める男の夢のような体験を描いた、耽美的な恋愛映画である。
本作はその主題と設定において、アラン・ロブ=グリエ監督の『不滅の女』(1963年)やマルグリット・デュラス監督の『インディア・ソング』(1975年)に類似している。
本作は、妖艶な官能性と、酩酊を誘うような映像美が特徴である。
ウィンナ・ワルツのオーケストラ・テーマが流れる中で、バルコニーでジュリアンがクロチルドを背後から抱擁する場面が印象的である。
本作は第33回のベルリン国際映画祭に出品された。