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不滅の女(1963年)

概説

『不滅の女』(フランス語原題: L’Immortelle)は、主に1950年代から1960年代にかけての「ヌーヴォー・ロマン」の小説で知られるフランスの小説家・映画監督のアラン・ロブ=グリエが監督と脚本を手がけた1963年の映画である。

ロブ=グリエが脚本を手がけた『去年マリエンバートで』(1961年)の後に公開された、ロブ=グリエの初監督作品である。

トルコのイスタンブールを舞台に、フランス人の男と謎の女の奇妙な関係を、非時系列的な語りや非連続のショットの連なりなどの実験的な手法で描いている。

フランス、イタリア、トルコの共同制作。モノクロ。101分。

あらすじ

フランス人の男、「N」(ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ)は、トルコのベイコイで臨時の教師として働いていた。Nはフランス語しか話せなかった。

夏季休暇中にイスタンブールを訪れたNは、港でフランス語を話す美しい女性、「L」(フランソワーズ・ブリオン)に出会う。Lの傍らには、サングラスをかけて2匹の黒い犬を連れた男、「M」(グイド・チェラーノ)がいた。NはLに帰り道を訪ねる。LはNを自分の白い車に乗せ、家まで送る。

Nは間借りしている部屋で、同僚とその友人たちを招いてパーティーを催し、Lをパーティーに招く。Lは「ラーレ(Lale)」(トルコ語で「チューリップ」の意)と名乗るが、本名ははっきりせず、自身の身元を明かそうとしない。

NとLは親しくなり、一緒にイスタンブールの街を散策し、グランバザールや宮殿、東方正教会、イスラム教のモスク、ボスポラス海峡、テオドシウスの城壁、イスタンブールの地下宮殿などの観光地を巡り歩く。

Lはトルコ語やギリシャ語を話せるが、それらが分からないふりをしている。

その後、NはLと性的な関係を持つ。Nの頭の中で、Lと官能的なベリーダンサーのイメージが重なる。

NとLの周囲にMが頻繁に現れる。Mは2人を監視しているように見える。

ある日、NはLとイスラム教の墓地で待ち合わせるが、Lは待ち合わせ場所にやって来ない。その後、LはNの前から姿を消す。

NはLを捜す。NはLに会った人々にLについて尋ねるが、トルコ語が分からないため、Lの居場所に関する手掛かりを見つけることができない。

ある晩、NはLに街中で再会する。LはNを自分の車に乗せる。NはLに失踪の説明を求めるが、Lは曖昧な返答をする。

Lが車を運転していると、Mが連れていた2匹の犬のうちの1匹が突然路上に現れる。Lは犬を避けようとしてハンドルを切り、車は並木に衝突する。Lは死亡し、Nは右手を負傷する。

NはパーティーでLと話していた女性、カトリーヌ(カトリーヌ・ロブ=グリエ)と偶然再会する。カトリーヌはNに、Lが女性を誘拐して人身売買を行う秘密組織と関わりがあったことを仄めかす。

NはLの面影を追い求めて街をさまよう。Nは古物市でLの車を発見する。Nはその車に乗り込み、車を走らせる。路上にMの犬が突然現れる。Nは犬を避けようとしてハンドルを切る。

解説

『不滅の女』は、現実と幻想が交錯する幻惑的な作風と、時空の迷宮における永遠=反復としての愛という主題において『去年マリエンバートで』に類似しているが、全編が時間的・空間的な連続性を欠いた非連続のショットの連なりで構成されており、『去年マリエンバートで』よりも実験的な作品となっている。

本作はいくつかの異なった解釈が可能である。まず第一に、すでに死んでいてもはや現実には存在しないが故に記憶の中で不滅となっている女性に対する不可能な愛の物語として解釈することが可能である。

第二に、本作は実際にイスタンブールでロケーション撮影されてはいるが、本作ではイスタンブールが観光客向けの絵はがきのような紋切り型のイメージとして描かれ、想像上の風景のような虚構性が強調されているため、映画内で起こった出来事はすべてNの妄想であり、Nのオリエンタリズムと性的な強迫観念によって駆動された夢にすぎなかった、と捉えることも可能である。

本作は1962年にフランスでルイ・デリュック賞を受賞し、1963年に第13回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に出品された。

映画『不滅の女』予告 出演:フランソワーズ・ブリオン/ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ