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ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(2017年)

概説

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(Ex Libris: The New York Public Library)』は、ニューヨーク公共図書館(NYPL)を題材にした2017年のアメリカ合衆国のドキュメンタリー映画。監督・脚本はフレデリック・ワイズマン。ワイズマンの41作目の映画。205分。

ニューヨーク公共図書館は、ブルックリン区を管轄するブルックリン公共図書館、クイーンズ区を管轄するクイーンズ公共図書館と並ぶニューヨーク市の3つの公共図書館の1つであり、ブロンクス、マンハッタン、スタテン島を管轄している。

NYPLは公的資金と民間の寄付によって運営されている、官民連携(public private partnership: PPP)を基盤とする民間の非営利団体である。

NYPLは1895年に創設され、マンハッタンの5番街に位置する本館(スティーブン・A・シュワルツマン・ビル)は1911年に竣工した。

NYPLは4つの研究図書館と88館の地域分館で構成される全92館の図書館のネットワークである。書籍、電子書籍、オーディオブック、音楽、映画などの総計5,000万点を超える収蔵品を誇る、世界で4番目に大きい公共図書館である。

NYPLは、電話による質問回答サービスやインターネット接続サービス、雇用支援、子供たちの教育支援、シニア向けのダンス教室などを含む地域密着型の活動が特徴である。

ワイズマンは2015年の秋にNYPLで12週間にわたって撮影した150時間の映像を編集し、205分の映画に仕上げた。

映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』は、NYPLの多岐にわたる活動と多彩なプログラム、司書やボランティアの仕事、スタッフの舞台裏などを撮影した、興味深いドキュメンタリー映画である。

タイトルの「Ex Libris(~の蔵書より)」は本の所有者を示すための成句であり、ラテン語の「ex-librīs」に由来している。

本作はNYPLの内外で撮影された短い場面の連なりによって構成されている。ワイズマンの過去の作品と同様に、本作もナレーションやインタビュー、説明文、解説、音楽を排して観客に映像そのものを体験させる、ワイズマンの独自のドキュメンタリー手法によって制作されている。

イギリスの進化生物学者のリチャード・ドーキンス、イギリスのミュージシャンのエルヴィス・コステロ、アメリカのミュージシャン・詩人のパティ・スミスなどの著名人たちがゲストとして本作に出演している。

作家のタナハシ・コーツ、詩人のユセフ・コムニャカー、スポークン・ワード・アーティストのマイルズ・ホッジズ、イギリスの陶芸家・作家のエドマンド・ドゥ・ヴァールもゲストとして出演している。

本作は、NYPLが移民や貧困層、障害を持つ人々を含むすべての階級・人種・民族に対して開かれた、徹底して公平で平等主義的なコミュニティー・センターであることを示している。彼らの活動は、すべての人に情報を入手し、教育を受け、職業を選択する機会が与えられるべきだという理念に根差している。

本作はNYPLのさまざまな場面を記録することによって、貧富の格差や移民問題、人種差別、情報格差(デジタル・デバイド)などの、デジタル時代の多民族国家としてのアメリカ合衆国が直面している諸問題を浮き彫りにしている。ワイズマンは特にアメリカ合衆国における奴隷制の歴史と黒人差別に対する認識に焦点を当てている。

本作は2017年に第74回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で上映され、FIPRESCI賞(国際映画批評家連盟賞)を受賞した。

本作は2017年にドナルド・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領に就任した後に公開された。その結果として、トランプの反自由主義に抗してアメリカ合衆国における自由と平等のための闘いの伝統を強調する、政治色が濃い映画となった。

映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』予告編

あらすじ(ネタバレ注意)

イギリスの進化生物学者のリチャード・ドーキンスがプログラム「午後の本」のゲストとして登壇する。ドーキンスはアメリカ社会におけるキリスト教原理主義を批判し、無宗教者を擁護する。

司書が電話で質問に答える。「ユニコーンは実は架空の動物です」。司書は質問に関する資料を調べて詳しく説明する。このサービスは「人力グーグル」とも呼ばれている。館内では司書が来館者に彼らが求める情報の探し方について助言している。

NYPL館長のアンソニー・W・マークスが民間の支援者たちに向けて演説する。マークス館長は官民連携の重要性を訴え、インターネット接続環境の整備、情報格差(デジタル・デバイド)の縮小、コンテンツのデジタル化などの取り組みについて語る。

ジェローム・パーク分館ではボランティアが子供たちの学習を支援する教育プログラムを実施している。

歴史家のルドルフ・ウェアが自著について語る。ウェアはイスラム教と奴隷制を関連付ける誤った通説を批判し、セネガルの聖職者たちの奴隷化について話す。

ブルーノ・ワルター講堂のピアノコンサートでピアニストのキャロリン・エンガーがアーロン・コープランドの「田舎道を下って(Down a Country Lane)」(1962年)を演奏する。

ブロンクス・ライブラリー・センターで就職支援プログラム「ジョブ・エキスポ」が開催されている。ニューヨーク市消防局、建設現場で働く女性、米国国境警備隊、NYPLのテクコネクト(TechConnect: 技術訓練プログラム担当部署)、米国陸軍、モリス・ハイツ医療センターを含むさまざまな職種の人材採用担当者たちがそれぞれの仕事について説明する。

幹部たちの会議で、マークス館長は教育施設としてのNYPLのために市の予算を最大化する意向を示す。主任司書のメアリー・リー・ケネディは持続可能性を考えることの必要性について語る。渉外担当主任のキャリー・ウェルチは民間の寄付の重要性について語る。

「ピクチャー・コレクション」では、来館者は膨大な数の写真、絵、印刷物を無料で閲覧できる。担当者が高校生たちに画像が題材別にファイリングされていることを説明し、「アンディ・ウォーホルはここからたくさん盗んだ」と付言する。

『パストラミ・オン・ライ(Pastrami on Rye: An Overstuffed History of the Jewish Deli in America)』(2015年)の著者として知られる作家のテッド・マーウィンが、ニューヨークのユダヤ系移民の第2世代と文化センターとしてのユダヤ人のデリ(惣菜店)についてスライドショーを使って説明する。

エルヴィス・コステロがプログラム「NYPLライブ」にゲストとして出演する。コステロは父のロス・マクマナスが1963年にBBCの「ロイヤル・バラエティー・ショー」でジョー・ロス・オーケストラとともにフォークソングの「天使のハンマー(If I Had a Hammer)」を歌った時の映像を観客に見せ、自身の歌と政治と民主主義の関係について語る。

幹部たちが会議で、地域におけるデジタル・アクセスとデジタル・インクルージョンのための「アンカー機関」としてのNYPLの役割について討議する。

詩人のユセフ・コムニャカーがプログラム「午後の本」にゲストとして出演する。コムニャカーはジェイムズ・ボールドウィンの言葉を引用し、詩の表面下の政治性について語る。

チャイナタウンの近くの分館では、中国系の住民たちが講師の指導のもとでコンピューターの操作技術を学んでいる。

アンドリュー・ハイスケル・点字・録音本図書館では、ボランティアが来館者に点字の読み方と打ち方を教えている。

障害を持つ人々のための居住支援の説明会が開かれる。視覚障害のある担当者が、住宅を見つけることが困難な障害者のための支援制度について説明する。

ミッド・マンハッタン・ライブラリーで、主任運営役員のアイリス・ウェインシャルがスタッフにオランダの建築家のフランシーヌ・ホウベンを紹介する。ホウベンは本館(スティーブン・A・シュワルツマン・ビル)の改修のために選ばれた建築事務所、メカノーのクリエイティブ・ディレクターである。ホウベンは、図書館は本のためのものでも本の置き場所でもなく、人のためのものだ、と言う。

ニューヨーク市を拠点とするクラシックの室内楽グループ、ダブル・アンタンドル・ミュージック・アンサンブルがブロンクス・ライブラリー・センターでコンサートを行う。

ショーンバーグ黒人文化研究センターで展覧会「ベールを脱ぐビジョン: 黒い想像力の錬金術(Unveiling Visions: The Alchemy of the Black Imagination)」が開催されている。

ブルーノ・ワルター講堂でスポークン・ワード・アーティストのマイルズ・ホッジズが詩の朗読を行う。

幹部たちが会議で、行政との関係作りの戦略について討議する。

地域の住民たちが読書会に参加し、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『コレラの時代の愛』(1985年)について話し合う。

幹部たちが会議で、デジタル問題にいかに取り組むかを討議する。

NYPLの本館に隣接するブライアント・パークで、人々が本を読んだり地面に寝そべったりしてのんびりと過ごしている。

学者と作家のためのドロシー&ルイス・B・カルマン・センターで、演劇作品の手話通訳者のキャンディス・ブロッカー・ペンがワークショップを行う。2人のボランティアがアメリカ独立宣言(1776年)の前文の一節を2つの異なった感情(「怒り」と「懇願」)を込めて朗読する間に、ブロッカー・ペンは2つの非常に異なった感情表現の手話通訳を実演する。朗読テクストはトーマス・ジェファーソンが奴隷制に対する非難を盛り込んだために大陸会議によって削除された部分から採られている。

ロング・アイランド・シティのライブラリー・サービス・センターで印刷物をデジタル化のために撮影する作業が行われている。

大量の返却物が半自動化されたシステムとベルトコンベアによって仕分けされ、各分館に移送される。

パークチェスター分館で分館スタッフが、10代の若者をいかにして図書館に呼び込むか、数学関連の蔵書やプログラムをいかに充実させるか、といった地域の課題について、主任司書のケネディを交えて討議する。

ジョージ・ブルース分館で、自宅にインターネット接続環境がない人々のためのWi-Fi(無線LAN)によるインターネット接続用機器の無料貸し出しサービスについて担当者が説明する。

ある分館では地域住民のためのプログラムの1つとしてシニア向けのダンス教室が開かれている。

ウェストチェスター・スクエア分館で、テクノロジーツールを使用した学童向けのプログラム「イノベーション・ラボ」が開催されている。子供たちがロボット制作の実習を行っている。

ショーンバーグ黒人文化研究センターで90周年の祝賀会が開かれる。館長のカリール・ジブラン・ムハマドが、「図書館は民主主義の柱」(小説家のトニ・モリスン)、「雲の中の虹」(回想録作家・詩人・公民権運動活動家のマヤ・アンジェロウ)という2人の黒人女性芸術家の言葉を引用して挨拶する。

読み聞かせ教室では母親や保護者に付き添われた未就学児たちが司書と一緒に童謡「ゆかいな牧場(Old MacDonald Had a Farm)」を歌う。

英米文学のアーカイブ「バーグ・コレクション」で来館者たちがウィリアム・S・バロウズやW・B・イェイツについて調べている。

幹部たちが会議で深刻化するホームレス問題について討議する。

「プリント・コレクション(版画室)」で司書が来館者たちにアルブレヒト・デューラーの『犀』(1515年)やレンブラントの自画像について解説する。

各分館のスタッフが集まって会議を開く。男性スタッフが行政や地域団体への積極的な関与の必要性について語る。女性スタッフが仕事の全体像を視野に入れることの重要性を強調する。

アンドリュー・ハイスケル・点字・録音本図書館で、ウラジーミル・ナボコフの『闇のなかの笑い(Laughter in the Dark)』(『カメラ・オブスクーラ』の1938年の英訳版)のオーディオブックの録音が行われている。

ジェファーソン・マーケット分館で女性の講師がカール・マルクス、社会学者で南部のイデオローグのジョージ・フィッツヒュー、エイブラハム・リンカーンを参照しながらアメリカ合衆国における奴隷制と労使問題について講義する。

2015年に回想録『Mトレイン』を出版したパティ・スミスがプログラム「NYPLライブ」にゲストとして出演し、ジャン・ジュネへの共感を語る。

施設担当ディレクターが今年度と来年度の予算について報告する。

幹部たちが会議で書籍購入の予算配分の方針について討議する。電子書籍か紙の本か。ベストセラーか推薦図書か。一般蔵書か研究蔵書か。

NYPLのスタッフがディナーパーティーの準備を行う。

評議会の委員との会議でボランティアの男性がショーンバーグ・センターの蔵書について説明し、アフリカ系アメリカ人として初めて詩の本を出版した詩人のフィリス・ホイートリーについて話す。

幹部たちが集まって記念撮影を行う。

作家のタナハシ・コーツがプログラム「NYPLライブ」にゲストとして出演し、マルコムXへの尊敬の念を表しながら自著について語る。「我が家ではマルコムXはジーザスでした」。

幹部たちが来年の準備について話し合う。NYPLのマークス館長は資金獲得のために政治指導者へのメッセージが必要だと言う。

ショーンバーグ・センターのムハマド館長がハーレム地区のマコームズ・ブリッジ分館を訪れ、地域住民とアフリカ系アメリカ人が直面している諸問題について話し合う。彼らはアメリカの教育出版社のマグロウヒル社が教科書で奴隷制の歴史を歪曲していることを批判する。

イギリスの陶芸家・作家のエドマンド・ドゥ・ヴァールがプログラム「NYPLライブ」にゲストとして出演し、磁器の歴史を扱った自身のノンフィクション『白い道(The White Road)』(2015年)を朗読する。グレン・グールドが録音したJ・S・バッハの『ゴルトベルク変奏曲』(1955年版)の冒頭が流れる。