概説
『ぼくのエリ 200歳の少女(Låt den rätte komma in)』は2008年のスウェーデンのホラー映画である。1980年代初頭のストックホルム郊外を舞台に、少年と子供の吸血鬼の恋愛を描いている。ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの同名の小説(2004年)が原作。リンドクヴィストは脚本も担当している。監督はトーマス・アルフレッドソン。114分。
あらすじ
1982年、12歳の少年オスカー(カーレ・ヘーデブラント)はストックホルム西部の郊外のブラッケベリの集合住宅で母のイヴォンヌ(カリン・バーグクィスト)と暮らしていた。
オスカーはコンニという名の少年をリーダーとするクラスメートたちから日常的にいじめを受けていた。オスカーはポケットにナイフを忍ばせて持ち歩き、夜は復讐を想像したり、殺人やオカルト現象に関する新聞や雑誌の記事の切り抜きを収集したりして過ごしていた。
オスカーは時折、離婚した父のところに遊びに行っていたが、友人が遊びに来ると息子と遊ぶのをやめて酒を飲み始める父に不満を抱いていた。
オスカーは、年老いた男ホーカン(ペール・ラグナー)とともに最近隣に引っ越してきた、少女のような外見の子供、エリ(リーナ・レアンデション)と知り合う。
ホーカンは、吸血鬼であるエリのために人間の血液を採集していた。
ホーカンは林道で少年を襲い、少年を逆さ吊りにして血液をポリタンクに集めるが、犬を連れた少女たちが近づいてきたため、タンクを置いたまま逃走する。
ある晩、エリはヨッケという名の男を襲い、首に噛み付いて血を吸い、首を折って殺す。
猫を多頭飼育している引きこもりの男、イェースタはそれを自宅から目撃するが、警察に事情聴取されることを嫌ったイェースタは警察に通報しない。
ホーカンはヨッケの死体を湖に遺棄する。
翌日、イェースタは近隣住民たちと事件の現場を訪れる。彼らはそこで血の痕を発見する。住民の1人のラッケは、親友だったヨッケを殺した犯人に復讐することを決意する。
オスカーは、ルービックキューブをエリに貸したことがきっかけで徐々にエリと親しくなる。2人は集合住宅の壁越しにモールス信号でメッセージのやり取りを始める。
オスカーが学友からいじめを受けていることを知ったエリは、オスカーに自分が手伝うからやり返せと言う。エリに勇気づけられたオスカーは、スポーツセンターで体育教師の指導のもとで放課後のトレーニングを始める。
エリはオスカーに、自分は女の子じゃないと言うが、オスカーはエリに惹かれてゆく。
ホーカンは学校の更衣室で少年を逆さ吊りにして血液を採取しようとするが、少年の友人たちに見つかりそうになる。ホーカンは濃塩酸を自分の顔にかけ、身元不明のままで殺人未遂容疑で逮捕される。
エリは病院にいるホーカンを訪れる。ホーカンは首をエリに差し出す。エリはホーカンの血を吸う。ホーカンは7階の窓から飛び降りて死ぬ。
エリはオスカーの部屋に行き、2人は一晩をともに過ごす。オスカーはエリにガールフレンドとして付き合ってほしいと言う。エリは承諾する。
オスカーを含む学校の生徒たちがアイススケートをしに湖にやって来る。コンニはオスカーに、氷の下で泳いでもらうと言う。オスカーは金属の棒でコンニの頭を叩く。コンニは耳から血を流して泣き叫ぶ。その時、生徒たちが氷漬けになっているヨッケの死体を発見する。
オスカーはエリを秘密の地下室に案内し、お互いの血を混ぜることによって血の契りを結ぶことを提案する。オスカーはナイフで手を切る。エリは床に滴り落ちたオスカーの血を我慢できずに舐めてしまい、部屋から逃走する。
ある晩、エリはラッケのガールフレンドのヴィルギニアの首に噛み付いて血を吸おうとするが、それを発見したラッケはエリを蹴り飛ばす。エリは逃走する。
イェースタの家を訪れたヴィルギニアは、イェースタが飼っている多数の猫に噛み付かれ、病院に搬送される。
オスカーはエリの家を訪ね、エリに吸血鬼なのかと尋ねる。エリは人間の血を飲んで生きていると答え、ずっと前から12歳だと言う。
ヴィルギニアは病室で看護師に窓のブラインドを上げてと頼む。看護師がブラインドを上げると、ヴィルギニアは日光を浴びて炎に包まれる。
オスカーが1人で家にいる時にエリが訪ねてくる。エリはオスカーに家に入っていいかと聞く。オスカーが曖昧な返事をしたため、家に入ったエリは目や耳や頭頂部から血を流し始める。オスカーはあわててエリに入ってもいいと言う。
エリはバスルームで体の血を洗い流す。オスカーはエリの男性器が切除(去勢)されていることを発見する。
翌日、ラッケはエリの家に侵入し、浴槽の中で寝ているエリを発見する。ラッケはエリをナイフで刺し殺そうとする。それを見ていたオスカーはラッケにやめろと怒鳴る。エリは目を覚まし、ラッケの首に噛み付いて血を吸い、ラッケを殺す。
エリはオスカーを抱きしめて、ありがとうと言う。エリは血の付いた唇でオスカーにキスをする。その後、エリは町から姿を消す。
翌日、コンニとその兄のジミーに率いられたいじめっ子たちは、オスカーに仕返しをするため、オスカーをスポーツセンターのスイミングプールに誘い出す。
オスカーがプールでトレーニングをしている時、いじめっ子たちは教師をプールの外に出すために火災を起こす。ジミーは、水中で3分間息を止めなければナイフで目を抉り出す、とオスカーを脅す。オスカーはジミーに水中に沈められて溺死しそうになる。その時、エリが突然現れ、オスカーを助けるためにいじめっ子たちに襲いかかる。
解説
リンドクヴィストの原作小説は、社会的孤立、離婚、アルコール依存症、学校でのいじめ、ペドフィリア(小児性愛)、殺人などの社会問題を扱い、スウェーデンでベストセラーになった吸血鬼小説である。
原題『Låt den rätte komma in(Let the Right One In)(正しき者を中に入れよ)』は、イングランドのシンガーソングライター、モリッシー(Morrissey)の曲「Let the Right One Slip In」(1997年)に由来しており、吸血鬼は招かれなければ家に入ることができないという民間伝承に基づいている。
映画版は2人の主人公の恋愛関係に焦点を当てている。ショッキングな場面を含む恐ろしいホラー映画であり、社会から疎外された子供たちの恋物語を描いた感動的な恋愛映画でもある。
本作は2008年のトライベッカ映画祭でベスト・ナラティブ賞(最優秀作品賞)を受賞し、2008年のゴールデン・ビートル賞(スウェーデンの映画賞)で5冠を獲得するなど、多数の賞を受賞している。
マット・リーヴス監督の2010年の映画『モールス(Let Me In)』は、本作のリメイクである。