概説
『シュトロツェクの不思議な旅(Stroszek)』は、老人と娼婦とともにベルリンからアメリカ合衆国のウィスコンシン州に移住した大道芸人を描いた、1977年のドイツの悲喜劇的なドラマ映画である。監督・脚本・製作はヴェルナー・ヘルツォーク。主演はブルーノ・S、エーファ・マッテス、クレメンス・シャイツ。116分。
あらすじ
ベルリンの大道芸人、ブルーノ・シュトロツェク(ブルーノ・S)が刑務所から出所する。刑務所長はアルコール依存症のために犯罪を犯したブルーノに飲酒をやめるようにと忠告するが、ブルーノは刑務所を出てすぐにバーに行き、ビールを飲む。
バーで娼婦のエーファ(エーファ・マッテス)が2人の男と揉めている。男たちはエーファの元売春斡旋業者で、彼らに借金を返せないエーファは彼らから虐待を受けていた。ブルーノは行き場のないエーファを自分のアパートに住まわせる。
ブルーノのアパートは、ブルーノがいない間は隣人の小柄な老人、シャイツ氏(クレメンス・シャイツ)が管理をしてくれていた。
エーファの居場所を突き止めた売春斡旋業者の2人組は、ブルーノのアパートに押し入り、エーファとブルーノに暴行を加える。
ブルーノは刑務所で知り合った医師に悩みを相談する。医師はブルーノに定職に就くようにと忠告し、ブルーノを励ますために産科病棟で未熟児を見せる。
シャイツ氏はウィスコンシン州に引っ越して甥のクレイトンと一緒に暮らす計画を立てていた。ブルーノとエーファはシャイツ氏とともにドイツを離れてウィスコンシン州に引っ越すことを決意する。
エーファは建設現場のトルコ人労働者を相手に売春をして旅費を稼ぐ。
3人はニューヨーク市を観光した後、中古車を購入し、シャイツ氏の甥のクレイトンが住んでいるウィスコンシン州のレイルロード・フラッツ(架空の町)に車で向かう。
ブルーノはクレイトンとその助手の先住アメリカ人とともに自動車修理工場で整備工として働き始め、エーファはトラック・ストップのレストランでウェイトレスとして働き始める。
ブルーノとエーファは銀行でローンを組んでプレハブのトレーラーハウスを購入し、草原地帯のトレーラーハウスで一緒に暮らし始める。
レイルロード・フラッツでは1人の農夫が大型のトラクターとともに行方不明になっていた。クレイトンはその農夫が地元のどこかの湖の底に沈められていると信じており、毎週末、金属探知機を使って凍った湖で農夫を捜索していた。
シャイツ氏はフランツ・メスマーが提唱した「動物磁気」の計測に成功したと思い込み、あちこちで生体磁気を計測して回る。
ブルーノとエーファは住宅ローンの支払いに困り、エーファは再び売春を始める。
エーファがブルーノと同じ部屋で寝るのをやめたため、ブルーノはエーファに対して不満を募らせる。
アメリカに来れば金持ちになれると期待していたブルーノは、厳しい現実に直面し、アメリカでの生活に失望する。
エーファはブルーノの元を去り、バンクーバーに向かうトラックの運転手2人と駆け落ちする。ブルーノは酒浸りの日々を送る。
ブルーノが住宅ローンを支払えないため、ブルーノのトレーラーハウスは銀行に差し押さえられ、競売にかけられる。
シャイツ氏はアメリカ人たちが自分たちに対して陰謀を企てていると思い込む。陰謀を阻止するため、ブルーノとシャイツ氏は猟銃を持って銀行を襲撃しようとするが、銀行は閉まっている。2人は隣の理髪店で32ドルを強奪し、銀行の通りを隔てた真向かいのスーパーマーケットで食料品を買う。シャイツ氏は警官に逮捕される。ブルーノは凍った七面鳥を持って逃走する。
ブルーノは職場のガレージに戻り、レッカー車に乗って逃走する。
ブルーノがノースカロライナ州の町チェロキーに辿り着いた時、車が故障する。ブルーノはサンドイッチ店の脇で車を止め、店でドイツ語を話すビジネスマンに自分の身の上話をする。
ブルーノは車を始動させ、エンジンルームに火が付いた状態でぐるぐる周回する車を駐車場に放置する。
ブルーノは娯楽施設を通り抜けて通りを隔てた向かい側のスキーリフトに向かう。ブルーノはリフトを起動させ、凍った七面鳥と銃を持ってリフトに乗る。山の中のリフト上で銃声が鳴り響く。
ブルーノがスキーリフトに向かう途中で作動させたコイン投入式のアトラクションで、ニワトリが踊り、アヒルが太鼓を叩き、ウサギがおもちゃの消防車を走らせる。
警察官が「トラックが燃えている、リフトに男が乗っている。リフトを止めるスイッチが見つからない、踊っているニワトリを止められない。電気技師を呼んでくれ」と無線で連絡する。
解説
『シュトロツェクの不思議な旅』は、ヘルツォークが監督した『カスパー・ハウザーの謎』(1974年)でカスパー・ハウザー役を演じたブルーノ・Sを主役にした奇妙なアートフィルムである。
本作におけるブルーノ・シュトロツェクの人物設定には、ブルーノ・S本人の経歴が反映されている。
『シュトロツェクの不思議な旅』は、主に1960年代後半から1970年代にかけて「ニュー・ジャーマン・シネマ」と呼ばれた映画群の中でも異色の作品である。映画評論家のロジャー・イーバートは2002年に本作を「これまでに製作された最も奇妙な映画の1つ」と評している。
本作には意思の疎通や相互理解の不可能性を強調する場面が多い。ブルーノ、エーファ、シャイツ氏の3人には共通点が何もなく、話が噛み合わない。ドイツ語しか話せないブルーノは、英語を話すエーファがいないとアメリカ人とコミュニケーションができない。
『シュトロツェクの不思議な旅』は、その悲喜劇的な両義性が特徴である。社会に適応できない人間の悲劇を描いた映画だが、ナンセンスなユーモアに満ちあふれたコメディー映画でもある。本作が提示する人生の無意味さは、哀しくもありユーモラスでもある。
本作は1977年のタオルミナ国際映画祭で審査員特別賞を、1978年のドイツ映画批評家協会賞で最優秀作品賞を、それぞれ受賞した。