言語切替

5時から7時までのクレオ(1962年)

概説

『5時から7時までのクレオ(Cléo de 5 à 7)』は、アニエス・ヴァルダが脚本・監督を手がけたフランス・イタリア合作のドラマ映画である。癌の検査結果を待つ1時間半の間、死の恐怖とともにパリをあてもなくさまよう若いポピュラー歌手を描いている。モノクロ(一部カラー)。90分。

解説

『5時から7時までのクレオ』は、フランス・ヌーヴェルヴァーグの左岸派映画の初期の傑作として有名な作品である。

本作はパリの実在の場所でロケーション撮影されたドキュメンタリー風のドラマ映画である。カメラは約1時間半の間、パリをさまよい歩く一人の女性をほぼリアルタイムで追っている。

冒頭の占いの場面でタロットカードが映るショットだけがカラーで撮影されており、それ以外はすべてモノクロである。

映画の音楽はミシェル・ルグランが作曲した。ルグランは作曲家のボブ役で出演もしている。

本作では、クレオは自分が歌手としての役割を人形のように演じることを強いられていると感じており、そのことによって本来の自分であることから疎外されていると感じている。そのためにクレオにとっては人生に意味を見いだすことが困難になっている。またクレオは、自身も兵士として戦場で死の恐怖に直面しているアントワヌを除いて、自分が感じている死の恐怖と不安を他の人々と共有することができない。この観点から見ると、本作は実存主義の主題、すなわち、本来的に孤独な存在であるほかない個人が抱える「実存的不安」を反映していると考えることができる。

本作は1962年のカンヌ国際映画祭に出品された。

クレオが友人のドロテと映写室で観る短編映画(1分半)は、アニエス・ヴァルダ監督の1961年の短編映画『マクドナルド橋のフィアンセ(Les Fiancés du pont Mac Donald ou (Méfiez-vous des lunettes noires))』(5分)の抜粋である。この短編映画には、ジャン=リュック・ゴダール、アンナ・カリーナ、サミー・フレイ、ジョルジュ・ド・ボールガール、ダニエル・ドロルム、イヴ・ロベール、アラン・スコット、ジャン=クロード・ブリアリ、エディ・コンスタンティーヌが出演している。

Cleo from 5 to 7 / Cléo de 5 à 7 (1962) – Trailer

あらすじ(ネタバレ注意)

1961年6月21日午後5時、ポピュラー歌手のフロランス・”クレオ”・ヴィクトワール(コリンヌ・マルシャン)は占い師にタロットカードで未来を占ってもらう。クレオは午後6時半に医師から癌の検査結果を聞く予定だった。占い結果は死を暗示する不吉な予兆を示し、クレオは嘆き悲しむ。

クレオはカフェで家政婦のアンジェール(ドミニク・ダヴレイ)と会う。クレオはタロットカード占いの結果をアンジェールに話し、もし癌だったら自殺すると言う。

クレオはアンジェールとともに帽子屋に立ち寄り、季節外れの黒の毛皮の帽子を買う。

クレオとアンジェールはタクシーで帰宅する。2人は女性のタクシー運転手と会話をする。

クレオの恋人のジョゼ(ホセ・ルイス・デ・ヴィラロンガ)がクレオの家を訪れる。クレオは病気のことをジョゼに話さない。ジョゼは仕事が忙しいため早々に立ち去る。

作曲家のボブ(ミシェル・ルグラン)と作詞家のモーリス(セルジュ・コルベール)がクレオの新曲のリハーサルのためにクレオの家にやって来る。

ボブがピアノを弾き、クレオは新曲を歌う。曲が気に入らず、自分の仕事に不満を募らせたクレオは、彼らを家に置き去りにして一人で外に出る。

カフェに行く途中で、クレオは大道芸人がカエルを生きたまま飲み込み、吐き出すのを見る。

クレオはカフェのジュークボックスで自分の歌の一つを再生するが、誰も音楽に意識を向けていないように見える。

クレオはヌードモデルの仕事をしている旧友のドロテ(ドロテ・ブランク)に会うために彫刻のアトリエを訪れる。

ドロテは恋人の映写技師のラウル(レイモン・コシュティエ)の車にクレオを乗せて、ラウルに35ミリフィルムを届けるために映写室に向かう。車の中で、クレオはドロテに自分が癌かもしれないことを話す。

クレオとドロテは映写室でサイレントの短編コメディー映画を観る。

クレオとドロテはタクシーに乗る。ドロテを彼女のアパートで降ろした後、クレオはモンスリ公園でタクシーを降りる。

クレオは川の上の橋の近くで、アルジェリア戦争から休暇で帰還中の兵士のアントワヌ(アントワーヌ・ブルセイエ)に出会う。アントワヌはお喋りな男で、しきりにクレオに話しかけてくる。

アントワヌは、3週間の休暇を終えたところで、今夜帰隊すると語る。

クレオはアントワヌに、自分が癌かもしれないことを話す。アントワヌは、自身の戦場での死の恐怖について語る。

アントワヌはクレオに、自分と一緒にバスで病院に行って検査結果を聞いたらどうかと提案する。

クレオとアントワヌはバスに乗ってピティエ=サルペトリエール病院に行く。バスの中で2人はとりとめのない会話をする。

病院で医師はクレオに癌を宣告し、2か月の放射線治療が必要だと告げる。クレオは検査結果を希望を持って受け止める。アントワヌは涙を流すが、クレオは恐怖から解放され、奇妙な幸福感を抱く。