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アンナ・マグダレーナ・バッハの日記(1968年)

『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記(Chronik der Anna Magdalena Bach)』は、フランスの映画監督、ジャン=マリー・ストローブとダニエル・ユイレが製作・監督した1968年の西ドイツ・イタリア合作の映画。モノクロ。94分。

後期バロック期のドイツの作曲家・音楽家、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)の後半生を、ロベール・ブレッソンに似たミニマルな作風で描いた美しい伝記映画。バッハの後妻のアンナ・マクダレーナ・バッハ(クリスティアーネ・ラング)が、夫の演奏風景を中心に、夫の後半生─ケーテン時代(1717年-1723年)とライプツィヒ時代(1723年-1750年)─を自身の語りとともに回想する。

元音楽家でドイツの指揮者ハンス・ドレヴァンツの夫人のクリスティアーネ・ラングがアンナ・マクダレーナ役を演じている。

本作は主に、ほぼ固定されたカメラで撮影された演奏場面のショットの積み重ねと画面外のナレーションによって構成されている。台詞があるシーンは少ない。

本作で語られる伝記的事実は、バッハの息子のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハとバッハの弟子の一人のヨハン・フリードリヒ・アグリコーラが書いたバッハの『故人略伝』(1754年)と、手紙や公文書などのその他のテクストに厳密に基づいている。

本作のタイトルは、イギリスの作家エスター・メネルが書いた創作の伝記『The Little Chronicle of Magdalena Bach』(1925年)に由来しているが、映画の内容はメネルの本とは無関係である。

本作は、1960年代後半当時の研究水準の限界を示してはいるが、バッハが生きた時代の音楽の演奏風景を、当時の楽器や衣装を用いて、時代考証に則して忠実に再現することを試みた音楽映画でもある。

ストローブは、「音楽を伴奏としてでも解説としてでもなく、美学的な素材として用いて映画を作りたいという発想」(『フィルムクリティーク』、1966年)が本作の出発点だったと語っている。

本作には、1970年代以降にピリオド楽器を用いた古楽のオーセンティックな演奏の開拓者として広く知られるようになった二人の音楽家が出演している。オランダの鍵盤楽器奏者・指揮者のグスタフ・レオンハルトがバッハを演じており、オーストリアの指揮者・チェロ奏者のニコラウス・アーノンクールがアンハルト=ケーテン侯レオポルトを演じている。

本作の演奏シーンの撮影のために、当時のヨーロッパの主要な古楽器演奏家たちが総動員されている。本作では、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(ニコラウス・アーノンクール指揮)がケーテンの宮廷の楽団を、バーゼル・スコラ・カントルム器楽合奏団(アウグスト・ヴェンツィンガー指揮)がライプツィヒの聖トーマス教会の楽団を、それぞれ演じている。

本作では、『ブランデンブルク協奏曲第5番』(BWV1050)、『ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ第2番』(BWV1028)、『マタイ受難曲』(BWV244)、『ゴルトベルク変奏曲』(BWV988)、『カンタータ第82番《われは満ち足れり》』(BWV82)、『音楽の捧げもの』(BWV1079)などを含むバッハの楽曲25曲が抜粋されている。

『アンナ・マグダレーナ・バッハの日記』は、観客にまるで当時のバッハの生演奏に立ち会っているかのような臨場感のある体験を提供するという点で、バッハの音楽の愛好者にとっては貴重な映画である。

Chronicle of Anna Magdalena Bach | Official Trailer