概説
『地球の静止する日(The Day the Earth Stood Still)』は、第2次世界大戦後の冷戦と核の脅威を歴史的背景として、高度に発達した科学技術を保有する異星人とのファーストコンタクトを描いた、1951年のアメリカ合衆国のSF映画である。20世紀フォックス製作。監督はロバート・ワイズ。脚本はハリー・ベイツの短編小説『主人への告別』(1940年)を部分的に下敷きにしている。音楽はバーナード・ハーマンが作曲した。モノクロ。92分。
あらすじ
円盤型の宇宙船がワシントンD.C.の競技場に着陸する。警察とアメリカ陸軍が周囲を取り囲む中、人間そっくりの異星人(マイケル・レニー)が、ゴートと呼ばれるロボットとともに宇宙船から現れる。英語でメッセージを伝えようとした異星人は兵士によって銃撃され、負傷する。ゴートはレーザーのような光線を発して軍隊の銃や戦車を溶かす。
クラトゥと名乗る異星人はウォルター・リード陸軍病院に収容される。クラトゥは大統領秘書のハーレー氏(フランク・コンロイ)に、すべての地球人に重要なメッセージを伝えたいので世界各国の代表者たちを召集してほしいと依頼するが、ハーレー氏はクラトゥに、国家間の対立のためにそれが実現不可能であることを告げる。
他の方法を探るために病院から脱走したクラトゥは、ジョン・カーペンターという偽名を使って下宿屋に住み着く。その下宿屋には、ヘレン・ベンソンという名の若い未亡人(パトリシア・ニール)が息子のボビーと住んでいた。
ボビーから「世界一頭がいい人」である科学者のバーンハート教授(サム・ジャッフェ)のことを聞いたクラトゥは、バーンハートに自分の正体を明かし、他の惑星の人々がロケットと原子力を開発した地球人に対して危惧を抱いていること、地球人が核軍備競争をやめない限り、地球は滅ぼされる運命にあることを説明する。
クラトゥは、すべての地球人に警告を伝えるために、バーンハートに世界各国の代表的な科学者たちを召集してほしいと依頼する。バーンハートはクラトゥの要求を承諾し、地球人にクラトゥの話が真実であることを信じさせるために、クラトゥの力を見せてみたらどうかと提案する。
翌日クラトゥは、病院や飛行中の航空機などの必要不可欠なものを例外として、地球上のすべての電気設備への電力供給を30分間停止させる。電力供給の停止中に、クラトゥはエレベーターの中でヘレンに自分の正体と目的を明かし、自分の身元を秘密にしておいてほしいと頼む。
ペンタゴン(アメリカ国防総省)はクラトゥの示威行動を地球に対する攻撃と見なし、クラトゥの逮捕命令を出す。
ヘレンの求婚者のトム・スティーヴンス(ヒュー・マーロウ)は、クラトゥの部屋でダイヤモンドのような鉱石を発見する。トムはそれを宝石商に調べさせて、それが地球外の物質であることを突き止める。ヘレンはトムにクラトゥの身元を秘密にしておいてほしいと頼むが、トムはペンタゴンにクラトゥの居場所を通報する。
クラトゥ逮捕のために軍のトラック隊が出動する。クラトゥとヘレンはタクシーで逃走する。クラトゥはヘレンに、自分の身に何か起こったら、ゴートのところに行って「クラトゥ・バラダ・ニクトゥ」と唱えろと言う。
クラトゥは軍によって射殺される。宇宙船の前で立ったまま静止していたゴートが動き出し、2人の警備兵を光線で消し去る。ヘレンはゴートに近づき、「クラトゥ・バラダ・ニクトゥ」と唱える。
解説
『地球の静止する日』は、国際連合を基軸とする国際協調と集団安全保障、軍事的抑止力論の立場から、冷戦期の国家間の核軍備競争を批判的に捉えたSF映画である。
本作では、カーペンター(大工)という名前や受難と復活のエピソード、生と死を支配する者としての「全能の霊(the almighty spirit)」という概念などに示されているように、主人公のクラトゥとイエス・キリストの類似性が暗示されており、本作をキリスト教におけるイエス・キリストの物語の隠喩として解釈することもできる。
テルミンなどの電子楽器を使用したバーナード・ハーマンによる音楽は当時としては革新的だった。
スコット・デリクソン監督、キアヌ・リーブス主演の2008年の映画『地球が静止する日(The Day the Earth Stood Still)』は、本作を翻案したリメイク作品である。