概説
『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』は、1986年よりスクウェア・エニックス(旧エニックス)から発売されている日本のコンピュータRPGシリーズ、『ドラゴンクエスト』の第11作である。オリジナル版は2017年に日本で発売された。
ゲームデザイン&シナリオは堀井雄二、キャラクターデザインは鳥山明、音楽はすぎやまこういちが担当しており、過去の作品と同様のメインスタッフによって制作されている。
前作『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』(2012年)はリアルタイム戦闘のMMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)だったが、『XI』は第1作『ドラゴンクエスト』(1986年)から第9作『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』(2009年)までの過去作品と同様の、ターン制の戦闘による1人用のRPGという本来のシステムに戻っている。
2017年に本作のオリジナル版が日本のゲーム雑誌『ファミ通』のクロスレビューで満点(40/40点)を獲得した。
レビュー収集サイト『メタクリティック(Metacritic)』によると、『XI』は「おおむね好意的な評価」を受けている。
2020年9月までで本作の全世界での販売本数が600万本を突破した。
リリース履歴
オリジナル版は2017年に日本でニンテンドー3DS、PlayStation 4(PS4)のソフトとして発売された。
同年に台湾と香港で繁体字中国語版がPS4のソフトとして発売された。
2018年にオリジナルのPS4版をベースに北米・ヨーロッパ向けにローカライズしたインターナショナル版『Dragon Quest XI: Echoes of an Elusive Age』がPS4、Microsoft Windows(Steam)のソフトとして発売された。
インターナショナル版をベースにして新要素を加えたNintendo Switch移植版『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S(Dragon Quest XI S: Echoes of an Elusive Age – Definitive Edition -)』が2019年に世界同時発売された。
『S(Definitive Edition)』(以下11S)は2020年にPS4、Microsoft Windows/Steam、Xbox Oneに移植された。
各バージョンの主な特徴
オリジナル版
PS4版はUnreal Engine 4を使用して制作された、フォトリアルな背景とセルシェーディングされたリアルな頭身のキャラクターを含む高精度の美麗な3Dグラフィックが特徴。
3DS版では3D(約3頭身のキャラクターを含むポリゴン描画)と2D(ドット絵)のモードを自由に切り替えられる。
インターナショナル版
インターナショナル版は5カ国語(英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語)のテクストと英語の音声、一人称視点モード、4K解像度対応などの追加要素を含んでいる。
主人公がフィールドでダッシュできる。
新たなしばりプレイ(上級プレイヤー向けのハードモード)「楽な戦いは経験値なし」「すべての敵が強い」が追加された。
11S(Definitive Edition)
日本語のキャラクターボイスが追加された。
グラフィックは3Dと2Dのモードを、音楽はオリジナルのシンセサイザー音源とオーケストラ版を、キャラクターボイスは英語と日本語を、それぞれ切り替えることが可能。
一部のパーティーメンバーの幕間劇的なサイドストーリーが追加された。
3DS版にのみ実装されていた、過去のドラクエシリーズの世界を訪れることができるサイドクエストのエリア(時渡りの迷宮、ヨッチ村の冒険の書の世界)が、完全2Dのグラフィック(ドット絵)とファミコン風のBGMによるレトロなスタイルのエリアとして追加された。
バトルスピードが「ふつう」「はやい」「超はやい」の3段階から選べるようになった。
新たな乗り物モンスターが追加された。
以前の3Dモードではフィールド移動中は主人公だけが表示されていたが、11SではパーティーメンバーやゲストNPCが主人公の後ろについてくるようになった。
フォトモードが追加された。旅の途中でいつでも好きな場所でパーティーメンバーと写真を撮ることができる。
しばりプレイ「戦闘から逃げられない」が削除され、新たなしばりプレイ「超恥ずかしい呪い」「町の人にウソをつかれる」「主人公がやられたら全滅」が追加された。
「見た目装備」機能によって、パーティーメンバーの装備を変えずに見た目(衣装)だけを変更できる。
裏ボスを倒した後に出現する「真の裏ボス」が追加された。
一人称視点モードが削除された。
オリジナルのPS4版とインターナショナル版にのみ実装されていたサイドクエストのボウガンアドベンチャーが削除された。
総評
『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』は、シリーズで初めて完全3Dのグラフィックを導入した『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』(2004年)以降のドラクエシリーズの正統的な進化形であり、ドラクエシリーズの30年の歴史の集大成とも言える傑作である。
シナリオがよく練られていて思わず引き込まれる。主人公の冒険と並行して先代勇者にまつわる伝説の裏に隠された真実が徐々に明らかになってゆく、歴史ミステリー的なストーリー展開が特徴である。
ゲームとしての難易度はそれほど高くないので初心者もストレスなくストーリーを楽しむことができる。しばりプレイ機能を使って難易度を上げることもできる。
『XI』は予備知識がなくても楽しく遊べるゲームだが、シリーズの30周年記念作品であるため、過去作品への参照やオマージュを数多く含んでいるのが特徴である。
往年のドラクエプレイヤーは、ヨッチ村のサイドクエストで過去のドラクエシリーズのノスタルジックな雰囲気を味わうことができる。
11SはNintendo Switchのスペックに合わせて再調整されているため、オリジナルのPS4版やインターナショナル版と比較するとグラフィックの質が劣化しているのが残念だが、キャラクターボイスと大オーケストラの音楽によって臨場感と没入感が増している。
『XI』は非リアルタイムのターン制バトルや経験レベルシステムなどのドラクエシリーズの伝統的なシステムを継承した1人用の古風なRPGであるが、「プレイヤー自身がゲームの主人公になりきり、ゲーム内の世界の出来事を体験する」ドラクエシリーズの本来の面白さを、美麗なグラフィックと広大なフィールド、魅力的なキャラクター、没入型のストーリー、感動的な音楽とともに、存分に満喫させてくれる。
『XI』の本編は、第1部(16年後)、第2部(異変後)、第3部(時間遡及後)の3部構成となっている。
主人公がある悲劇を未然に防ぐために過去に時間を遡り、歴史の改変を試みる第3部の物語展開については賛否両論がある。
物語は第2部で完結しているように見えるため、第3部を蛇足と感じる人もいるだろう。
第3部の物語展開は、新海誠のアニメ映画『君の名は。』(2016年)と同じく、2011年の東日本大震災後の日本人の心情、つまり、実際に起こった大災害をなかったことにしたいという現実否認の願望を反映しているように思われる。
しかし、主人公が過去を改変することによって勇者の神話が再創造され、『XI』の世界が『ロト三部作』と呼ばれるドラクエシリーズの最初の3作品につながってゆく第3部の物語展開には、歴史改変SFのような面白さがある。
あらすじ(ネタバレ注意)
物語の舞台は、命の大樹によって生み出された世界、ロトゼタシア。
プロローグ
16年前、ユグノア王国の王妃は左手に不思議な紋章が刻まれた男児(主人公)を産んだ。
王国は魔物の大群に襲撃される。王妃は赤子をデルカダールの王女に託す。王女は赤子を抱えて逃げるが、魔物に追い付かれて川に落ち、赤子を手放してしまう。王国は魔物によって滅ぼされる。
川に流された赤子はイシの村の老人、テオによって発見される。主人公はテオの娘のペルラに養子として引き取られ、村で育つ。
16年後(第1部)
ペルラは成人の儀式を終えた主人公に、主人公が伝説の英雄である「勇者」の生まれ変わりであることを告げ、デルカダール王に謁見するようにと指示する。主人公はデルカダール城を訪れるが、王は主人公を「悪魔の子」と呼んで地下牢に放り込む。
主人公は地下牢で盗賊の青年、カミュと出会う。2人は地下牢から脱獄する。デルカダールの将軍、グレイグは2人を追跡する。
2人は聖地ラムダ出身の魔法使いの双子の姉妹、ベロニカとセーニャと出会う。姉妹から闇を打ち払う力を持つという命の大樹の話を聞いた2人は、姉妹とともに大樹への旅に出る。
大樹を探す旅の道中で、旅芸人のシルビア、武闘家のマルティナ、謎の老人のロウの3人が仲間に加わる。
一行はついに空に浮かぶ命の大樹を発見し、主人公は大樹に封印されている勇者のつるぎを手に取ろうとする。
その時、邪悪な魔道士のウルノーガに取りつかれたデルカダール王が臣下である軍師のホメロスとグレイグを引き連れて現れる。ウルノーガの手下であるホメロスは主人公の一行とグレイグに襲いかかり、制圧する。
王の身体からウルノーガが姿を現す。ウルノーガは勇者のつるぎを奪って魔王の剣へと変化させ、大樹の力を吸収する。大樹は空から落下し、世界は暗黒の時代に突入する。
異変後(第2部)
大樹の崩壊後、主人公は自分がなぜか他の仲間たちとはぐれて海底王国ムウレアにいることを知る。女王のセレンから世界の惨状を知らされた主人公は、ウルノーガを倒すために再び旅に出ることを決意する。
主人公はイシの村に帰還する。イシの村は王とグレイグに率いられたデルカダール兵たちによって「最後の砦」として半要塞化されていた。グレイグは主人公と和解し、主人公の旅の仲間に加わる。
主人公はパーティーの残りのメンバーと再会するが、聖地ラムダで、大樹の崩壊時にベロニカが仲間たちを救うために命を落としたことを知る。
主人公の一行は新しい勇者のつるぎを鋳造し、天空魔城でホメロスとウルノーガを倒す。大樹は力を取り戻し、世界は再び光で満たされる。
その後、「忘れられた塔」を訪れた一行は、そこで時の番人からベロニカを復活させる方法についての話を聞く。時の番人は、主人公だけが過去に戻ってウルノーガが勇者のつるぎを奪う前にウルノーガを倒すことによって、ベロニカの命を救うことができると話す。主人公は仲間たちに別れを告げ、過去の世界へと旅立つ。
時間遡及後(第3部)
大樹の崩壊の直前に戻った主人公は、聖地ラムダでベロニカを含む仲間たちと再会する。主人公は仲間たちとともに再び大樹に登り、ホメロスを倒して勇者のつるぎを手に入れる。
一行はデルカダール城で、グレイグと協力して王に取りついていたウルノーガを倒す。しかし、「大いなる闇」と呼ばれる新たな敵、邪神ニズゼルファが復活し、主人公と仲間たちはニズゼルファとの最終決戦に臨む。