概説
『バッタ君町に行く(Mr. Bug Goes to Town)』は、『ベティ・ブープ』(1932–1939年)、『ポパイ』シリーズ(1933–1942年)、『スーパーマン』(1941–1942年)などのアニメーション作品で知られるフライシャー・スタジオが制作した1941年のアメリカ合衆国の長編アニメーション映画である。
ニューヨーク市のマンハッタンを舞台に、安全な居住地を探すバッタのホピティと仲間の昆虫たちの冒険の物語をミュージカル・コメディーとして描いている。
製作はマックス・フライシャー。監督はデイブ・フライシャー。配給はパラマウント映画。テクニカラー。78分。
プロットの概要
旅を終えたバッタのホピティは、ソングライターのディック・ディケンズが妻のメアリーと暮らしているバンガローの庭の外側の「低地」と呼ばれている草地に帰ってくる。ホピティは恋人のハニー(ミツバチ)と再会する。ハニーはハチミツ店を営むバンブル氏の娘だった。
ホピティは、低地のフェンスが壊れて通行人たちが近道として通り抜けるようになったために、低地での生活が人間たちに脅かされていることを知る。
ホピティは昆虫たちが安全に暮らせる場所を探そうとするが、ハニーとの結婚をもくろむC・バグリー・ビートル(カブトムシ)は、子分のスワット(ハエ)とスマック(蚊)を使ってホピティの計画を妨害する。
解説
本作は当初、モーリス・メーテルリンクのエッセイ『蜜蜂の生活』(1901年)の映画化として企画されたが、映画化権が取得できなかったため、現代を舞台にしたオリジナルの物語として制作された。
本作のタイトルはフランク・キャプラ監督の映画『オペラハット(Mr. Deeds Goes to Town)』(1936年)のタイトルのパロディーである。
本作のオープニングでは、「セットバック撮影方式」または「ステレオプティカル・プロセス」と呼ばれるフライシャー独自の技法(巨大な回転する円形のミニチュアセットを背景として用いてセル画を撮影し、奥行き感と視差効果を生み出す撮影技法)が使用されている。
本作では擬人化された昆虫キャラクターの視点から物語が語られている。人間の登場人物はロトスコープによって写実的に描かれているが、人間の世界は昆虫たちを取り巻く環境の一部に過ぎず、人間の顔は画面にはまったく映らない。
『バッタ君町に行く』は不遇の傑作である。本国アメリカでは、本作は他のフライシャー作品と比べると不当に過小評価されてきた。
本作は興行的な成功を収めた『ガリバー旅行記』(1939年)に続いてフライシャー・スタジオが制作した2作目の長編映画であるが、1941年12月5日の先行上映のわずか2日後に日本が真珠湾を攻撃し、太平洋戦争が始まった。
パラマウントは1942年2月に本作をカリフォルニアとニューヨークで公開した。イギリスでは1942年1月に『Hoppity Goes to Town』というタイトルで公開された。パラマウントは第二次世界大戦後の1946年に本作を『Hoppity Goes to Town』として再公開した。本作は興行的には失敗に終わり、フライシャー・スタジオが制作した最後の長編映画となった。
ウォルト・ディズニー・プロダクション製作の『白雪姫』(1937年)などの1930年代後半から1940年代にかけてのアメリカの初期の長編アニメーション映画は、今観てもその質の高さと完成度に驚かされるが、本作もアニメーションの質は極めて高い。特に大勢のキャラクターがドタバタと動き回る複雑な群衆シーンは圧巻である。
昆虫たちが建設中の超高層ビルを頂上を目指してよじ登ってゆく最後のシーンが本作の見どころである。
1989年にリパブリック・ピクチャーズによって本作のVHSとレーザーディスクが『Hoppity Goes to Town』として正式に発売された。
2008年にレジェンド・フィルムズは本作のDVDを『Bugville』というタイトルで発売した。
日本では第二次世界大戦後の1951年に本作が初めて劇場公開された。
日本では本作はフライシャー作品の愛好者として知られる宮崎駿やその他のアニメーション制作者たちによって高く評価されている。
日本では2009年に三鷹の森ジブリ美術館の配給で本作が劇場で再公開され、2010年にウォルト・ディズニー・ジャパンによってDVDが発売された。
2012年にターナー・クラシック・ムービーズ(TCM)はニューヨーク近代美術館が所有するオリジナルの35mmのプリントを基にしたバージョンをTVで初放映した。
あらすじ(ネタバレ注意)
旅を終えたバッタのホピティは、ソングライターのディック・ディケンズが妻のメアリーと暮らしているバンガローの庭の外側の「低地」と呼ばれている草地に帰ってくる。ホピティは恋人のハニー(ミツバチ)と再会する。ハニーはハチミツ店を営むバンブル氏の娘だった。
低地のフェンスが壊れて通行人たちが近道として通り抜けるようになったために、低地での生活は人間たちによって脅かされていた。
人間が低地に投げ捨てたマッチの火がレディバグ夫人(テントウムシ)の家に燃え移り、レディバグ夫人は火事で家を失ってしまう。
C・バグリー・ビートル(カブトムシ)は人間が侵入してこない高地(庭の噴水塔)に住んでいた。以前からハニーとの結婚を望んでいたビートルは、低地の問題をハニーと結婚するための好機として利用しようとする。
ビートルは子分のスワット(ハエ)とスマック(蚊)に低地の状況を監視させる。
ビートルはバンブルに、ハニーとの結婚の申し入れについて再考してほしいと頼む。ビートルはバンブルに、自分がハニーと結婚すれば3人で高地で安全に暮らせると言う。バンブルは、娘には意中の相手が他にいるようだとほのめかしてビートルの申し入れを断る。
ビートルはたばこの吸い殻を転がしてバンブルのハチミツ店を燃やそうとするが、失敗する。
その夜、ホピティはハニーとナイトクラブでショーを観たりダンスをしたりして楽しいひとときを過ごす。
低地の住民たちはどこか安全な場所に引っ越すことを決意する。
ホピティはバンブルを連れて新しい居住地を探しに出かける。彼らはディケンズ家の庭がきれいで居住に適していることを発見する。
その夜、低地の住民たちは家財道具を持って庭に引っ越す。
翌朝、スプリンクラーの水で庭が水浸しになり、昆虫たちは洪水で流されてしまう。昆虫たちは低地に戻る。
低地の住民たちはホピティのせいでひどい目にあったと思い、ホピティに対して冷たい態度を取る。
意気消沈したホピティはディケンズ家の庭にやって来る。家の中でディケンズがピアノを弾きながら自作の曲「We’re the Couple in the Castle(僕らは城の恋人)」を歌っている。
ディケンズは売れないソングライターだった。ディケンズ夫妻は自宅の差し押さえの危機に直面していた。
ホピティはディケンズが、自宅が差し押さえられる前に音楽出版社が曲を買って小切手を送ってくれれば低地の庭の壊れたフェンスを直せる、と言うのを聞く。
ホピティは低地の住民たちに、フェンスが修繕されるというニュースを伝える。
郵便配達人が小切手の入った出版社からの封書をディケンズ家に届ける。ビートルはスワットとスマックに封書を盗ませて、壁の隙間に隠させる。
フェンスがいつまでたっても修繕されないため、低地の住民たちはホピティを嘘つき呼ばわりする。
ディケンズの自宅が差し押さえられ、「近代超高層ビル建設予定地」という立て札が立てられる。
ビートルは、彼らの居住地に超高層ビルが建設されて低地だけでなく自分の地所も破壊されるということを知りながら、ハニーとの結婚を条件に低地の住民たちに自分の地所を譲ると言う。
ホピティはビートルの策略に気付くが、ビートルはホピティをディケンズ夫妻の小切手が入った封筒の中に閉じ込める。
ハニーは低地の住民たちのためにビートルと結婚することを余儀なくされる。
ビートルとハニーの結婚式が開かれている時に超高層ビルの建設が始まる。昆虫たちの居住地は破壊され、昆虫たちは建設現場で逃げまどう。
封筒から脱出したホピティはビートルとその子分たちからハニーを奪回する。
ディケンズとメアリーが建設現場にやって来る。ホピティは2人が、小切手が手に入っていればビルの屋上に庭付きの小別荘が建てられたのに、と言うのを聞く。
ホピティは小切手が入った封書をディケンズ夫妻に届けようとするが、2人は立ち去る。封書は郵便配達人によって拾われる。
ホピティはディケンズ夫妻が屋上に庭を造ってくれることを信じて、低地の住民たちを超高層ビルの頂上へと導く。
5000ドルの小切手が新居に住むディケンズ夫妻に届けられる。ディケンズが書いた曲はレコード化されて大ヒットする。
ビルの屋上でホピティと低地の住民たちはディケンズ夫妻によって建てられたきれいな庭付きのペントハウスを発見する。
虫の少年のアンブローズがビルの屋上から見下ろしながら、「下にいる人間たちをご覧よ、まるで小さな虫がたくさんいるみたいだ」と言う。