概説
『手錠のまゝの脱獄（手錠のままの脱獄）』（英語原題: The Defiant Ones）は、互いに鎖で繋がれた黒人と白人の2人の囚人の脱走を描いた1958年のアメリカ合衆国のドラマ映画である。主演はトニー・カーティスとシドニー・ポワチエ。監督はスタンリー・クレイマー。モノクロ。96分。
あらすじ
アメリカ南部で嵐の夜、鎖で繋がれた囚人たちを移送中のトラックがフェンスを越えて転落し、2人の囚人、黒人のノア・カレン（シドニー・ポワチエ）と白人のジョン・”ジョーカー”・ジャクソン（トニー・カーティス）が脱走する。
カレンの右手首とジョーカーの左手首は29インチの長いシャックル（2つの輪を鎖で結んだ拘束具）で繋がれていた。2人は人種的偏見のために互いに憎み合っていたが、鎖を外すことができないため、協力して一緒に逃げることを余儀なくされる。
保安官のマックス・ミュラー（セオドア・ビケル）は、武装警官隊を率いる州警察のフランク・ギボンズ警部（チャールズ・マッグロー）、ブラッドハウンドとドーベルマンを連れた捜索犬トレーナーのソリー（キング・ドノバン）、民間のボランティアの集団と協力してカレンとジョーカーの捜索を開始する。
ジョーカーはノースカロライナ州のパインヴィルに逃げることを望んでいたが、カレンが人種差別の根強い南部を嫌ったため、2人は汽車に飛び乗ってオハイオ州に行くために北に向かう。
2人は協力して川を渡り、沼地でカエルを殺し、焼いて貪り食う。
カレンとジョーカーは食料と鎖を壊す道具を入手するためにテレピン油の工場の近くの集落に立ち寄る。2人は雑貨店に忍び込むが、住民たちに捕えられる。
住民の1人のマック（クロード・エイキンス）は2人にリンチを加えて殺そうとするが、「ビッグ・サム」と呼ばれている大きな男（ロン・チェイニー・ジュニア）がマックを制止する。カレンとジョーカーは住民たちに縛られて監禁される。
翌朝、自らもかつては鎖に繋がれた囚人だったビッグ・サムは、手首の傷を示し、2人を密かに解放する。
北に向かっている途中で2人は口論を始め、殴り合いの喧嘩になる。その時、猟銃を持った少年が現れる。カレンは少年から銃を奪う。ビリーと名乗るその少年は、母親と丘の上の農家に住んでいると言う。2人はビリーに家まで案内させる。
ビリーの家では、夫が家族を捨てて家出したために、ビリーの母（カーラ・ウィリアムズ）が孤独な生活を送っていた。
カレンとジョーカーはビリーの母に食事を出させて、ハンマーを使って鎖を壊す。
ビリーの母は2人に、明日の午後、汽車が鉄橋を渡ると教える。
ジョーカーは手首の傷の感染症で気を失って倒れる。ビリーの母はベッドの横でジョーカーを看病し、ジョーカーと一晩をともに過ごす。ビリーの母はジョーカーに惹かれていた。
翌朝、ビリーの母はカレンに、沼地を抜ければ鉄道線路に辿り着けると教える。カレンは1人で沼地に向かう。
ビリーの母はジョーカーに、車があるので車で一緒に逃げようと言う。ジョーカーは、ビリーの母がカレンの口を封じるためにカレンが危険な底なし沼で死ぬように誘導したことを知る。カレンに対して友情を抱き始めていたジョーカーは怒ってビリーの母に掴みかかる。ビリーはジョーカーを銃で撃ち、ジョーカーは肩を負傷する。ジョーカーはカレンを追って沼地に向かう。
カレンに追い付いたジョーカーは、カレンに沼地が危険であることを教える。
保安官のミュラーが率いる捜索隊が2人の近くに迫ってくる。ギボンズ警部は2人を殺すためにドーベルマンを放とうとするが、ミュラーはそれを止める。
2人の男は近づいてくる貨物列車に向かって走る。カレンは車両に飛び乗り、ジョーカーに手を差し伸べる。ジョーカーはカレンの手を握り締めるが、カレンはジョーカーを引っ張り上げることができず、2人とも地面に落ちてしまう。
解説
『手錠のまゝの脱獄』は、初期の公民権運動を歴史的な背景として人種間の寛容さの必要性を説いた、メッセージ性の強い映画であるが、脱獄アクション映画またはバディムービーとしても楽しめる娯楽的な映画である。
人種差別が根強く残っていた当時の南部で黒人と白人が鎖で繋がれるという本作の非現実的な設定は、人種間の対立のテーマを寓話的な物語として提示するために導入されている。
本作の脚本担当の1人のネドリック・ヤングは第2次大戦後の赤狩りでハリウッドのブラックリストに載っていたため、変名のネイサン・E・ダグラスとしてクレジットされている。
本作でカレンが歌っている歌は、ケンタッキーの民謡を基にしたW・C・ハンディ作曲、クリス・スミス作詞のブルース曲「Long Gone」（1920年出版）である。
本作は、第31回アカデミー賞で撮影賞（白黒）と脚本賞を受賞し、1958年のベルリン国際映画祭で銀熊賞の男優賞（シドニー・ポワチエ）を受賞するなど、多数の賞を受賞した。
デイヴィッド・ローウェル・リッチ監督のアメリカのTV映画『新・手錠のままの脱獄（The Defiant Ones）』（1986年）とケヴィン・フックス監督のアメリカ映画『F.L.E.D./フレッド（Fled）』（1996年）は、本作のリメイクである。
