言語切替

TITANE/チタン(2021年)

概説

『TITANE/チタン(Titane)』は、ジュリア・デュクルノーが脚本・監督を務めた2021年のドラマ映画である。長編デビュー作『RAW 〜少女のめざめ〜』(2016年)でカンヌ国際映画祭の「パラレル・セレクション」部門のFIPRESCI賞(国際映画批評家連盟賞)を受賞したデュクルノーの長編第2作である。

フランスを舞台に、子供の頃の交通事故によって頭蓋骨にチタン製のプレートを埋め込まれた女性、アレクシア(アガト・ルセル)と、10年前に息子が行方不明になった孤独な消防署長のヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)の奇妙な関係を描いている。

フランスとベルギーの共同制作。108分。

プロットの概要

自動車に対して性的な執着を抱いているアレクシアは、両親と暮らしながら、アンダーグラウンドなモーターショーでダンサーとして働いていた。アレクシアは残忍な連続殺人犯でもあった。

アレクシアは車と性交した後に妊娠し、膣からモーターオイルが分泌され始める。

アレクシアは殺人容疑で指名手配され、逃亡する。

10年前に7歳の時に姿を消した少年、アドリアン・ルグランの外見が自分に似ていることを知ったアレクシアはアドリアンになりすまし、アドリアンの父親のヴァンサンと暮らし始める。ヴァンサンはアレクシアを自分の息子として扱う。

アレクシアはヴァンサンに対して愛情を感じ始める。ヴァンサンもアレクシアが自分の息子ではないことを知りながらもアレクシアに対して愛情を注ぐ。2人は無条件の愛で結ばれる。

解説

『TITANE/チタン』は連続殺人犯を描いた犯罪スリラー映画であり、人間と機械(自動車)の異種交配を描いたボディ・ホラー映画であり、純愛を描いた感動的なドラマでもある、不思議な映画である。

本作は女性主人公の身体の変容をボディ・ホラー映画の形式で描いている。映画は後半で、生物学的な血縁関係のない2人の人物、アレクシアとヴァンサンの純愛を描いた感動的なドラマへと変化する。

デュクルノーの過去作品と同様に、本作も身体性、すなわち精神によって制御できない人体の物質性に対するデュクルノーの執着によって駆動された作品である。

対物性愛(オブジェクトフィリア)または機械性愛(メカノフィリア)の一種としての自動車に対する性的なフェティシズムや人間と機械の融合といった本作の題材には、自動車の衝突事故に対する性的なフェティシズムを扱ったJ・G・バラードの小説『クラッシュ』(1973年)とデイヴィッド・クローネンバーグが監督したその映画化作品(1996年)からの影響が見られる。

人体の金属化のモチーフは、塚本晋也監督の映画『鉄男』(1989年)を想起させる。

アレクシアが人間と機械の融合のような赤子を出産する最後の場面では、カール・リヒター指揮(1958年)によるJ・S・バッハの『マタイ受難曲』が宗教的で荘厳な雰囲気を盛り上げている。

本作は2021年に第74回カンヌ国際映画祭で世界初上映され、パルムドールを受賞した。

『TITANE/チタン』本予告 4.1公開

あらすじ(ネタバレ注意)

アレクシアは少女の頃に自動車事故で頭部を損傷し、右側頭骨にチタン製のプレートを埋め込まれた。アレクシアはその頃から自動車に対して性的な執着を抱いていた。

成人したアレクシアは両親と暮らしながら、アンダーグラウンドなモーターショーでダンサーとして働いていた。

ある晩、モーターショーでエロティックなダンスを披露したアレクシアが帰宅しようとしている時に、男性ファンがアレクシアに言い寄ってきて無理やりキスをする。アレクシアは金属製のヘアピンで男を刺殺する。その後、モーターショーでアレクシアがモデルを担当した車(ローライダー)が自力でアレクシアに近づいてくる。アレクシアはその車と性交する。

最近数週間で数人の男女を殺害した連続殺人犯のニュースがTVで報道されている。

あるホームパーティーに参加したアレクシアは、そこで同僚のジュスティーヌ(ギャランス・マリリエ)と性交する。

アレクシアはバスルームで自分の膣からモーターオイルが分泌されていることに気付く。妊娠検査薬の結果は陽性を示す。アレクシアはヘアピンで中絶を試みるが失敗する。

アレクシアはジュスティーヌと他の2人の客を殺害し、帰宅して血の着いた毛布を燃やす。火が家屋に延焼する。アレクシアは両親を寝室に閉じ込めて逃亡する。アレクシアは殺人容疑で指名手配される。

アレクシアは10年前に7歳の時に姿を消した少年、アドリアン・ルグランの外見が自分に似ていることを知る。アレクシアは髪を切り、胸と妊娠中の腹にテープを巻き、鼻を折ってアドリアンを装う。

アレクシアは警察に出頭し、自分がアドリアンだと主張する。警察はアレクシアを、アドリアンの父親である消防署長のヴァンサンに引き合わせる。警察はヴァンサンにDNA鑑定を勧めるが、ヴァンサンはそれを拒否し、アレクシアを自分の息子として認知して家に連れて帰る。

ヴァンサンはアレクシアを自分の消防署で見習いの消防隊員として働かせる。アレクシアは一言も喋らずにアドリアンのふりをし続ける。

ある日、ヴァンサンはアレクシアに高齢女性の心肺蘇生を行わせ、スペインのポップ・デュオ、ロス・デル・リオのダンス曲『恋のマカレナ』(1993年)を歌って心臓マッサージのリズムを教える。

消防隊員の1人のライアン(ライ・サラメ)は署長の息子のアドリアンが指名手配犯に似ていることに気付く。ライアンはヴァンサンにアドリアンの正体について話そうとするが、ヴァンサンはライアンに、息子のことは喋るなと言う。

ヴァンサンは老いた身体にステロイドを注射して体力を維持しようとしていたが、肉体の衰えを止めることができない。

ヴァンサンの前でアドリアンを演じ続けることに困難を感じたアレクシアは消防署からの脱走を考えるが、ステロイドの過剰摂取で不整脈を起こして死にかけているヴァンサンを発見し、ヴァンサンと一緒に暮らすことを決意する。

ヴァンサンと長い間別居しているヴァンサンの元妻が自分の「息子」に会いにやってくる。アレクシアの妊娠中の女性の身体を見た元妻はアレクシアが息子のアドリアンではないことに気付くが、元妻はアレクシアにヴァンサンの面倒を見てくれと頼む。

ヴァンサンはアレクシアが女性で自分の息子ではないことを知っていたが、アレクシアに「お前が誰であれ、お前は俺の息子だ」と告げて、アレクシアを自分の息子として扱い続ける。

消防署のパーティーで、消防隊員たちがアレクシアに音楽に合わせて踊れと促す。アレクシアは消防車の上でエロティックなダンスを踊り、消防隊員たちは困惑する。パーティーの後で、アレクシアは消防車と性交する。

アレクシアの出産が近づいてくる。アレクシアはヴァンサンに自分の本名を明かす。ヴァンサンはアレクシアの出産を手伝う。ヴァンサンはチタニウムの背骨が露出した赤ん坊を取り上げる。アレクシアは息絶える。ヴァンサンは赤ん坊に「俺はここにいる」と何度も言い聞かせる。