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荒野の千鳥足(1971年)

概説

『荒野の千鳥足(Wake in Fright)』は、オーストラリアの奥地の架空の町を舞台に、酒と賭博で身を滅ぼす学校教師の物語を描いた1971年の心理ドラマ映画である。ケネス・クックの小説『Wake in Fright』(1961年)が原作。オーストラリア、イギリス、アメリカ合衆国の共同制作。監督はテッド・コッチェフ。109分。

あらすじ

中産階級の若い男ジョン・グラント(ゲイリー・ボンド)は、シドニーにロビンという名の恋人がいたが、ニューサウスウェールズ州西部の奥地の人里離れた居住区ティブンダに単身赴任して小さな学校の教師として働くことを余儀なくされており、そのことに不満を抱いていた。

クリスマス休暇をロビンと過ごすため、ジョンは列車でシドニーに帰ろうとする。シドニーへ帰る途中で、ジョンは地元民から「ヤバ」という愛称で呼ばれている鉱山町、ブンダンヤバで一泊する。

ジョンがヤバの酒場に入ると、そこでは大勢の男たちがビールを浴びるように飲んでいる。ジョンはそこで地元の警察官のジョック・クロフォード(チップス・ラファティ)と知り合い、ジョックとビールを大量に飲む。

ジョックはジョンをステーキ店に案内する。ステーキを食べているときに、ジョンはクラレンス・”ドク”・タイドン(ドナルド・プレザンス)という謎の男に出会う。

ステーキ店の隣にはツーアップ(2枚のコインを投げるギャンブル)の違法な賭博場があった。ギャンブルで大金を稼げば現在の境遇から抜け出せると考えたジョンは、ツーアップで金を賭け続け、全財産を失ってしまう。

無一文になりヤバから動けなくなったジョンは、酒場でビールを飲んでいるときに、鉱山管理者のティム・ハインズと知り合い、ティムの家に招かれる。ジョンはティムの家で、ティムの成人した娘のジャネット(シルヴィア・ケイ)と、ティムの友人で鉱山労働者の二人、ディック(ジャック・トンプソン)とジョーに出会う。ドクもティムの家にやって来て、ティム、ディック、ジョー、ドクは夜通しビールを飲み続ける。ジャネットはビールで酔ったジョンを誘惑しようとする。

翌日の午後、ジョンはドクが住んでいる小屋で二日酔いの状態で目覚める。ドクはカンガルーの肉を食べながら、自分は医者だが、アルコール依存症で放浪癖があり、シドニーでは開業できないのでヤバで暮らしている、と語る。ドクによると、ジャネットはドクを含む不特定多数の男たちと性交渉を持っているという。

ジョンはドク、ディック、ジョーに誘われて、夜通しビールを飲みながら砂漠でカンガルーを殺す血なまぐさい狩りに参加する。

解説

『荒野の千鳥足』は、12月のオーストラリアの暑さと砂漠の砂埃、ビールの酩酊感、ブンブン飛び回る大量のハエ、カンガルーの血の臭いで満たされた、素敵なクリスマス映画である。

本作はニューサウスウェールズ州の鉱山町ブロークンヒルとシドニーでロケーション撮影された。

本作は1971年のカンヌ国際映画祭で世界初上映された。批評家筋からは高く評価されたが、本国オーストラリアでは興行的には失敗に終わった。

本作はマスターネガが行方不明になったため、長い間ほとんど観ることが不可能な映画だった。2004年に本作の編集担当のトニー・バックリーがピッツバーグのCBSの保管施設で35ミリのネガプリントを発見し、復元版が2009年にカンヌで再上映され、世界各国で劇場公開された。

オーストラリアのシンガーソングライター・作家・脚本家のニック・ケイヴは、本作を「オーストラリアを描いた、現存する最高の、そして最も恐ろしい映画」と評した。

映画『荒野の千鳥足』予告編