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情婦(1957年)

概説

『情婦』(英語原題: Witness for the Prosecution(検察側の証人))は、ビリー・ワイルダー監督、タイロン・パワー、マレーネ・ディートリヒ、チャールズ・ロートン、エルザ・ランチェスター出演の1957年のアメリカ合衆国の法廷ミステリー映画である。

ロンドンを舞台に、裕福な未亡人の殺害事件に関わった3人の人物、容疑者のレナード・ヴォール(タイロン・パワー)、ヴォールの妻のクリスティーネ(マレーネ・ディートリヒ)、ヴォールの法廷弁護士のウィルフリッド・ロバーツ卿(チャールズ・ロートン)のドラマを描いている。

アガサ・クリスティの同名の戯曲(1953年)の映画化作品である。

製作はアーサー・ホーンブロウ・Jr。

脚本はラリー・マーカス、ビリー・ワイルダー、ハリー・カーニッツ。

撮影はラッセル・ハーラン。

音楽はマティ・マルネック。

制作会社はエドワード・スモール・プロダクションズ。

配給はユナイテッド・アーティスツ。

モノクロ。116分。

あらすじ

1952年のロンドン。

心臓発作で入院していた法廷弁護士のウィルフリッド・ロバーツ卿は、専属看護婦のミス・プリムソール(エルザ・ランチェスター)に付き添われて退院する。ミス・プリムソールは付きっきりでウィルフリッド卿を監視し、ウィルフリッド卿の健康を管理しようとする。

裕福な未亡人のエミリー・ジェーン・フレンチ夫人(ノーマ・ヴァーデン)が殺害される。夫の死後、フレンチ夫人は家政婦のジャネット・マッケンジー(ウナ・オコナー)と暮らしていた。

フレンチ夫人の知人のレナード・ヴォールがフレンチ夫人の殺害の容疑をかけられる。

ヴォールは退役軍人で現在は無職だった。ヴォールは第二次世界大戦の末期にイギリス空軍の一員としてハンブルク郊外に駐留していた時に知り合ったクリスティーネという名のドイツ人女性と結婚していた。

ヴォールはウィルフリッド卿に弁護を依頼する。

ヴォールは無実を主張するが、フレンチ夫人が遺言書でヴォールを遺産相続人として指名していたことが明らかになり、ヴォールはフレンチ夫人の殺害容疑で逮捕される。

ヴォールの妻のクリスティーネがウィルフリッド卿を訪れ、ヴォールのアリバイを証言する。クリスティーネはウィルフリッド卿に、自分は東ドイツに住むドイツ人男性と結婚しており、本当はヴォールの妻ではないと言う。

ウィルフリッド卿は医師から刑事事件を担当しないようにと警告を受けていたが、ヴォールの弁護を引き受ける。

ウィルフリッド卿は拘置所のヴォールと面会する。ヴォールは1945年にドイツのナイトクラブで女優だったクリスティーネと初めて会った時のことを話す。

オールド・ベイリー(中央刑事裁判所)でヴォールの公判が開かれる。

マイヤーズ検事(トリン・サッチャー)は、主任警部のハーン(フィリップ・タング)、フレンチ夫人の家政婦のジャネット・マッケンジー、ジェフリーズ巡査を検察側の証人として召還し、ヴォールに不利な証拠を積み重ねるが、ウィルフリッド卿はヴォールを巧みに弁護する。

公判の3日目にクリスティーネが検察側の証人として召還されたため、ウィルフリッド卿は驚く。クリスティーネはヴォールに不利な証言をする。

マイヤーズ検事は、ヴォールが殺害事件の約1週間前にブルネットの女性を伴って旅行代理店を訪れ、豪華客船の旅について問い合わせていたことを明かす。

その日の夜、ウィルフリッド卿はコックニー訛りで話す謎の女から連絡を受ける。女はウィルフリッド卿に、クリスティーネがマックスという名の恋人に宛てて書いた手紙を提供する。

その手紙には、クリスティーネが嘘の証言をしてヴォールに殺人の罪を着せればマックスと結婚できる、と書いてあった。

ウィルフリッド卿は最終弁論でクリスティーネの手紙を証拠として提示する。ヴォールは無罪を勝ち取る。クリスティーネは偽証罪で逮捕される。

その後、クリスティーネはウィルフリッド卿に事の真相について語り始める。

解説

原作の『検察側の証人』は、クリスティが1925年に『裏切り者の手(Traitor’s Hands)』というタイトルで発表した自身の短編小説を舞台劇に翻案したものである。この劇は1953年にロンドンで、1954年にニューヨーク(ブロードウェイ)で、それぞれ上演された。

ワイルダーは本作にコメディーの要素を導入し、クリスティの法廷ミステリーの傑作をワイルダー流の娯楽映画に仕立てている。

ウィルフリッド卿の専属看護婦のミス・プリムソールは本作のために作られたオリジナルのキャラクターである。ロートンの妻のエルザ・ランチェスターがミス・プリムソール役を演じ、第15回ゴールデングローブ賞で映画部門の助演女優賞を受賞した。

1954年のブロードウェイ公演でフレンチ夫人の家政婦のジャネット・マッケンジーを演じたウナ・オコナーが本作で同じ役を再演した。

タイロン・パワーは次作の『ソロモンとシバの女王』(1959年)の撮影中に心臓発作で急死したため、本作がパワーの最後の映画となった。

本作は結末の二重のどんでん返しで知られている。映画の最後でナレーターが以下の告知を行っている。

「この劇場の管理者は、まだ映画を見ていない友人たちにもっと楽しんでもらうために、 『検察側の証人』の結末の秘密を誰にも漏らさないことを推奨しています。」

ナイトクラブでのヴォールとクリスティーネの出会いの回想シーンは、ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督、マレーネ・ディートリヒ主演の映画への参照を含んでいる。クリスティーネのズボン姿は映画『モロッコ』(1930年)に由来している。クラブの名前「Die blaue Laterne(青いランタン)」は映画『嘆きの天使』(1930年)への参照である。

ナイトクラブの回想シーンで、クリスティーネ役のディートリヒがラルフ・アーサー・ロバーツ作曲の1912年の歌「真夜中のレーパーバーンで(Auf der Reeperbahn nachts um halb eins)」の英語ヴァージョンの「情婦の歌(I May Never Go Home Anymore)」を歌っている。「情婦の歌」は1958年にロンドン・レコードからEPとして発売された。ディートリヒは1950年代から1970年代初頭にかけては主に歌手として活動していた。

アメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)は2008年に「10ジャンルのトップ10(AFI’s 10 Top 10)」のリストで本作を法廷ドラマ部門の第6位に選出した。