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花様年華(2000年)

概説

『花様年華』(かようねんか、中国語原題: 花樣年華、英題: In the Mood for Love)は、ウォン・カーウァイ(王家衛)脚本・製作・監督の2000年の恋愛ドラマ映画である。

1960年代のイギリス領香港を舞台に、お互いの配偶者同士が不倫関係にある男女の秘められた恋を描いている。

主演はマギー・チャン、トニー・レオン。

撮影はクリストファー・ドイル、リー・ピンビン。

編集はウィリアム・チャン。

音楽はマイケル・ガラッソ。

言語は広東語、上海語。

香港とフランスの共同制作。98分。

2000年にカンヌ国際映画祭でプレミア上映された。

あらすじ

1962年の香港。商社で社長秘書として働いているスー・リーチェン(マギー・チャン)は夫とともに上海出身の人々が住むアパートの貸部屋に引っ越す。

同じ日に新聞編集者のチャウ・モーワン(トニー・レオン)が妻とともにその隣の部屋に引っ越してくる。

スーの夫のチャンは日系企業で働いており、海外出張で家にいないことが多かった。

チャウの妻は夜勤でいつも帰りが遅いため、チャウは部屋で独りになることが多かった。

スーとチャウはお互いの配偶者が不倫関係にあることに気付く。

スーとチャウは親密な時間を共有し始める。

新聞小説の連載を始めたチャウは、スーに執筆の手伝いを依頼する。

スーとチャウはプラトニックな関係を保っていたが、ホテルの部屋で逢瀬を重ねるうちに互いに恋愛感情を抱き始める。

仕事のためにシンガポールへの移住を決意したチャウは、スーに一緒に行かないかと誘う。

チャウはホテルでスーを待つ。スーはチャウと同行することを決意しホテルに向かうが、スーがホテルに着いたのはチャウが香港を発った後だった。

翌年(1963年)、シンガポールにやって来たスーはチャウの職場に電話をかけるが、電話に出たチャウに対してスーは無言になる。その後、チャウは自分の部屋で灰皿に口紅のついたタバコが置かれているのを発見し、スーが自分の部屋に来ていたことを知る。

その夜、チャウは同僚のピンに、昔の時代の秘密の封じ込め方(秘密を抱えた者は山の中の木に穴を作り、そこに秘密をささやいて土で塞ぐ)を話して聞かせる。

3年後(1966年)、スーはかつての大家のスエン夫人(レベッカ・パン)を訪れる。スエン夫人はアメリカに移住しようとしていた。スーはスエン夫人にアパートの部屋を借りられるかどうかを尋ねる。

香港に戻ったチャウはかつての大家のクウ家を訪ねるが、クウ一家はフィリピンに移住していた。チャウが新しい家主に隣家のスエン一家について尋ねると、家主は今は女性が息子と住んでいると答える。チャウはスーに会うことなく香港を後にする。

1966年、カンボジアに旅行したチャウはアンコール・ワットを訪れる。チャウは遺跡の穴に何かをささやき、草で塞ぐ。

解説

『花様年華』は既婚者同士の果たせぬ恋を追憶として描いた、ロマンティックで美しい映画である。

ラウ・イーチョン(劉以鬯)の小説『對倒』(1993年)について

映画『花様年華』は、上海出身で香港拠点の作家、ラウ・イーチョン(劉以鬯)の小説『對倒』(1993年)から着想を得ている。

チョウ・シュアン(周璇)の歌「花樣的年華」(1946年)について

本作の中国語の原題『花樣年華』は「花のように美しい期間」を意味する。このタイトルは中国の歌手・女優のチョウ・シュアン(周璇)の歌「花樣的年華」(1946年)に由来している。この歌は映画『长相思(ソーヴィニヨン・ブラン)』(1946年)でチョウが歌った歌である。

映画『花様年華』にはこの曲がラジオから流れる場面がある。

ウォンは2000年にこの曲を使用した短編映画『花樣的年華』も監督している。

ウォン・カーウァイの3部作について

1960年代が舞台のウォンの3つの映画、『欲望の翼』(1990年)、『花様年華』(2000年)、『2046』(2004年)は一般的には3部作として捉えられている。

『欲望の翼』でスー・リーチェンという名の女性の役を演じたマギー・チャンが『花様年華』で同名の女性の役を演じている。

『欲望の翼』のラストシーンでギャンブラーとして登場したトニー・レオンが本作では主役を演じている。

本作でチャウが借りるホテルの部屋の番号は「2046」である。「2046」は香港における「一国二制度」が終わる年を意味する。

本作のスタイルについて

本作は、鮮やかな色彩と息を呑むような映像美、非線形の語り、「窃視」的なカメラワーク、夢のような雰囲気、スローモーションの多用、などが特徴である。

本作の主要なショットはスーとチャウの秘密の関係に関する追憶の中の情景で構成されている。彼らの配偶者の顔は画面には一度も映らない。

スーの上海風のチャイナドレス(旗袍・チーパオ)の衣裳デザインがゴージャスで印象的である。

スーとチャウがタクシーの中で肩を寄せ合い、スーが今夜は帰りたくないと言うシーンがある。スーがその夜にチャウと肉体関係を持ち、チャウの息子を産んだと解釈することもできるが、2人の間に何が起こったかは映画の中では描かれていない。

音楽について

サウンドトラックはマイケル・ガラッソのオリジナルの映画音楽と、映画『夢二』(1991年)のテーマ曲(梅林茂作曲)、ナット・キング・コールが歌う「キサス・キサス・キサス」(1947年)その他のラテン音楽曲、レベッカ・パンが歌う「ブンガワン・ソロ」(1940年)などの挿入曲を含んでいる。

受容

本作は、2000年のカンヌ国際映画祭の男優賞(トニー・レオン)とフランス映画高等技術委員会賞(クリストファー・ドイル、リー・ピンビン、ウィリアム・チャン)、2000年のヨーロッパ映画賞のスクリーン・インターナショナル賞(非ヨーロッパ映画賞)、2000年のモントリオール・ヌーヴォー・シネマ映画祭の最優秀長編作品賞、2001年のセザール賞の最優秀外国語映画賞、2002年の全米映画批評家協会賞の外国語作品賞と撮影賞(クリストファー・ドイル、リー・ピンビン)などを含む多数の賞を受賞した。

本作は2022年にイギリスの映画雑誌『サイト&サウンド』の批評家による「史上最高の映画」の投票で第5位にランク付けされた。

4Kデジタル修復版

クライテリオン・コレクションはリマジネ・リトロヴァータ(イタリア)と共同で35ミリのオリジナルネガを元に本作の4Kデジタル修復版の制作を行った。

4Kデジタル修復版は2022年に世界各国で劇場公開され、クライテリオン・コレクションからUltra HD Blu-rayとデジタル配信で発売された。