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奇跡(1955年)

概説

『奇跡(Ordet)』は、カール・テオドア・ドライヤー監督の1955年のデンマークのドラマ映画である。

デンマーク語の原題『Ordet』は「御言葉」を意味する。

デンマークの農村を舞台に、プロテスタントの二つの教派の対立を歴史的背景として、信仰生活におけるドラマを描いている。

デンマークのルター派の牧師・劇作家・詩人のカイ・ムンクの同名の戯曲(1925年)が原作。

モノクロ。126分。

あらすじ

舞台は1925年のユトランド半島デンマーク領の農村。20世紀初頭のこの地域では、プロテスタントの二つの教派、グルントヴィー派と内国伝道派(内的使命派)が対立していた。グルントヴィー派が現世を肯定的に捉えているのに対して、内国伝道派は現世の生活を死後に幸福になるための苦行のようなものとして捉えていた。

妻を亡くしたモーテン・ボーオン(ヘンリク・マルベア)はグルントヴィー派を信仰しており、村で農場を経営していた。モーテンには3人の息子がいた。長男のミッケル(エミール・ハス・クリステンセン)は信仰心を持っていなかった。ミッケルと妻のインガー(ビルギッテ・フェザースピル)の間には2人の娘がいた。インガーは3人目の子供を妊娠中だった。次男のヨハンネス(プレベン・レアドーフ・リュエ)は神学とセーレン・キルケゴールを研究していたが、ある出来事によって正気を失い、自分がナザレのイエスの再来であると信じ込んで農場を徘徊していた。三男のアナス(カイ・クリスティアンセン)は、仕立屋のペーター(アイナー・フェザースピル)の娘のアンネ・ペーターセン(ゲアダ・ニールセン)と愛し合っていた。ペーターは地域の内国伝道派の指導者だった。

アナスはペーターに、アンネと結婚させてほしいと申し出るが、ペーターは教派の違いを理由に結婚の申し込みを拒絶する。

モーテンはペーターを説得して結婚を許諾させるためにアナスを連れてペーターを訪れる。ペーターは自宅で内国伝道派の集会を開いている。モーテンはペーターが考えを変えるように説得を試みるが、議論は教派間の論争に発展する。

モーテンは電話でインガーの容体が急変したという連絡を受ける。ペーターは神罰としてインガーの死を望むと言う。ペーターの言葉に激怒したモーテンは、ペーターに「地獄に落ちろ」と言う。

医師は、インガーの命を救うために赤ん坊を中絶することを余儀なくされる。ヨハンネスはインガーの長女に、インガーは亡くなるが、その後、自分がインガーを生き返らせると言う。その夜、インガーは急死する。ヨハンネスは、「あなたがたはわたしの行く所に来ることはできない。」(『ヨハネによる福音書』第13章33節)という書き置きを残して姿を消す。

ボーオン一家は自宅でインガーの葬儀を執り行う。ペーターが妻とともにボーオン家にやって来る。ペーターはモーテンに謝罪し、アンネとアナスの結婚を許可すると言う。

ヨハンネスが自宅に帰ってくる。ヨハンネスは正気を取り戻している。インガーの開かれた柩の前で、インガーの長女はヨハンネスの手を取り、お母さんを生き返らせてと頼む。ヨハンネスは、死者を蘇らせる御言葉をお与え下さいとイエス・キリストに呼びかけ、インガーに、イエス・キリストの御名において、起き上がれと命じる。

解説

『奇跡』は、20世紀初頭のユトランド半島の農村の日常生活におけるドラマを、室内劇(Kammerspiel/カマースピル)の形式を用いてリアルに描いた映画である。緻密に計算された構図とライティングによる、絵画や彫刻のような芸術的な映像が際立っている。ホームドラマやシチュエーション・コメディー、神学論争、奇蹟劇の要素を融合させたような、異色の映画である。

本作は、1955年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を、1956年のゴールデングローブ賞で最優秀外国語映画賞を、それぞれ受賞している。

Ordet (1955) – trailer