概説
『セレブレーション』(デンマーク語: Festen)は1998年のデンマークのブラック・コメディー映画である。
デンマークの鉄鋼王、ヘルゲ・クリンゲンフェルズ=ハンセンの60歳の誕生日を祝う祝賀会が田舎にあるヘルゲの大邸宅で開かれる。晩餐会で長男のクリスチャンが、幼少期に自分と自殺した双子の妹のリンダが父親のヘルゲに性的虐待を受けていたことを明かし、祝賀会は家族同士が激しく衝突する戦いの場となる。
本作は1995年に4人のデンマークの映画監督、ラース・フォン・トリアー、トマス・ヴィンターベア、クリスチャン・レヴリング、ソーレン・クラーク=ヤコブセンが創始した自然主義的な映画制作の運動、「ドグマ95」による最初の作品として知られており、手持ちのカメラで撮影された映像で構成されている。
監督はトマス・ヴィンターベア(ドグマ95のルールに従い、クレジットなし)。製作はニンブス・フィルム。
主演はウルリク・トムセン、ヘニング・モリツェン、トマス・ボー・ラーセン、パプリカ・スティーン、ビアテ・ノイマン、ヘレ・ドレリス、トリーネ・ディアホルム。
脚本はトマス・ヴィンターベアとモーゲンス・ルーコフ。撮影はアンソニー・ドッド・マントル。
言語はデンマーク語、ドイツ語、英語。105分。
本作は1998年に第51回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、審査員賞を受賞した。
あらすじ
デンマークの鉄鋼王、ヘルゲ・クリンゲンフェルズ=ハンセン(ヘニング・モリツェン)の60歳の誕生日を祝う祝賀会が田舎にあるヘルゲの大邸宅で開かれ、家族と大勢の親戚と友人たちが祝賀会に参加するために一堂に会する。
パリでレストランを経営する長男のクリスチャン(ウルリク・トムセン)、次男のミケル(トマス・ボー・ラーセン)、娘のヘレーネ(パプリカ・スティーン)が、父と母のエルセ(ビアテ・ノイマン)が住んでいる邸宅にやって来る。ミケルは妻のメッテ(ヘレ・ドレリス)と3人の子供を連れてくる。
クリスチャンの双子の妹のリンダは数か月前に邸宅の一室で自ら命を絶っていた。
邸宅ではクリスチャンの恋人のピア(トリーネ・ディアホルム)とミケルの愛人のミシェルが給仕係として働いていた。クリスチャンの幼なじみのキムは厨房で料理長として働いていた。
ヘレーネはリンダが住んでいた部屋に隠されていたリンダの遺書を発見する。ヘレーネはそれを読んで涙を流し、遺書を自分のバッグの中の薬瓶に隠す。
祝宴が始まる。ヘルゲの挨拶の後にクリスチャンがスピーチをする。クリスチャンは幼少の頃、入浴時に父のヘルゲが自分とリンダをレイプしたと言う。招待客たちは困惑する。
キムは幼なじみのクリスチャンがヘルゲに性的虐待を受けていたことを知っていた。キムはミシェルとピアに招待客たちの車の鍵を盗ませて招待客たちが家に帰れないようにする。
ヘレーネの恋人でアフリカ系アメリカ人のバトカイがタクシーで邸宅に到着する。ミケルはバトカイに対して人種差別的な態度を取り、パーティー参加者たちとともに人種差別的な歌「Jeg har set en rigtig negermand(本物の黒人男を見た)」を歌う。ヘレーネは激怒し、ミケルに向かって「ナチ野郎!」と叫ぶ。
クリスチャンは宴席で乾杯の音頭を取る。クリスチャンはヘルゲを「妹を殺した男」と呼んでヘルゲがリンダを自殺に追いやったことを仄めかす。招待客たちは席を立って帰ろうとするが、車の鍵がないため邸宅に留まることを余儀なくされる。
ヘルゲの妻のエルセが宴席でスピーチを行う。エルセはクリスチャンが作り話をしたと言ってクリスチャンを非難し、お父さんに謝りなさいと言うが、クリスチャンはエルセが虐待のことを知りながらそれを止めようとしなかったことを責める。
家族間の争いはやがて暴力沙汰へと発展する。
解説
映画『セレブレーション』のプロットは、1996年にデンマーク国営ラジオ(DR)の番組『Koplevs Krydsfelt(コプレフの交差点)』で「アラン」と名乗る男が幼少期の性的虐待の被害者として語った話が基になっている。しかし、2002年にアランの話は完全な作り話だったことが判明した。
本作はデンマークのジューストルプにあるショルデナシュホルム城でロケーション撮影された。
本作は「純潔の誓い」と呼ばれるドグマ95の10個のルール(十戒)に従って制作された。ルールは以下の通り。
- 撮影はロケーションで行うこと。小道具やセットの持ち込みは禁止(物語上必要な小道具がある場合は、その小道具がある場所を選択しなければならない)。
- 映像とは別に音声を作成してはならない。逆もまた同様(シーンが撮影されている場所で流れているものを除いて、音楽は使用してはならない)。
- カメラは手持ちであること。手によって可能であれば、どのような動きまたは不動状態も許可される。
- 映画はカラーであること。特殊な照明は禁止(光の露出が少なすぎる場合は、シーンをカットするか、カメラにランプを一つ取り付ける)。
- 光学合成やフィルターは禁止。
- 映画に表面的なアクションを含めてはいけない(殺人、武器の使用などは起こってはならない)。
- 時間的および地理的な乖離は許されない(つまり、映画は今、ここで行われる)。
- ジャンル映画は禁止。
- 映画のフォーマットはアカデミー35mmフィルムであること。
- 監督名のクレジットは禁止。
しかし、本作には窓をカバーで覆って撮影したシーンがあり、これはドグマ95のルールに違反している。
本作はヘルゲの邸宅の内外で起こった一連の出来事を群像劇として時系列順に(晩餐会から次の日の朝まで)描いている。
本作は手持ちのデジタルビデオカメラ(SONYのDCR-PC3ハンディカム)を用いて自然光、自然音とともに撮影されている。当時のホームビデオのように粒子の粗い映像だが、この自然主義的な撮影スタイルが本作に迫真性と臨場感を与えている。
性的虐待や自殺、人種差別などの深刻な題材を扱っているが、映画全体としてはコミカルな印象を与える。
招待客たちが家に帰れないという設定はルイス・ブニュエルの『皆殺しの天使』(1962年)を想起させる。
本作は第51回カンヌ国際映画祭の審査員賞、第64回ニューヨーク批評家協会賞の外国語映画賞、第24回ロサンゼルス映画批評家協会賞の外国語映画賞を含む多数の映画賞を受賞した。