言語切替

歓びの毒牙(1970年)

概説

『歓びの毒牙(きば)』(イタリア語原題: L’uccello dalle piume di cristallo)は、ダリオ・アルジェント監督の1970年の殺人ミステリー・スリラー映画である。アルジェントの監督デビュー作である。

ローマ滞在中に殺人未遂の現場を目撃して連続殺人事件の捜査に巻き込まれ、事件の真相に迫ろうとするアメリカ人作家、サム・ダルマスの恐怖の体験を描いている。

脚本はダリオ・アルジェント。プロットの骨子はフレドリック・ブラウンの推理小説『通り魔(The Screaming Mimi)』(1949年)から借用している。

主演はトニー・ムサンテ、スージー・ケンドール、エンリコ・マリア・サレルノ、エヴァ・レンツィ、ウンベルト・ラホ。

撮影はヴィットリオ・ストラーロ。音楽はエンニオ・モリコーネ。

イタリアと西ドイツの共同制作。言語はイタリア語。96分。

あらすじ

ある晩、ローマに滞在中のアメリカ人の作家、サム・ダルマス(トニー・ムサンテ)は、画廊で女性がレインコートと帽子、革手袋を身に付けた黒ずくめの男と揉み合っているのをガラス越しに目撃する。男は逃走する。

その女性は画廊のオーナーのアルベルト・ラニエリ(ウンベルト・ラホ)の妻、モニカ(エヴァ・レンツィ)だった。モニカは腹部を刺されていたが一命を取り留める。

ローマではこの1か月の間に未解決の殺人事件が3件発生しており、モロシーニ警部(エンリコ・マリア・サレルノ)が事件を捜査していた。被害者たちは全員女性だった。

ダルマスは目撃者として警察に協力するが、警察は容疑者を特定することができない。

ある霧の濃い日に黒ずくめの男がダルマスを肉切り包丁で刺そうとするが、ダルマスは何とか攻撃をかわす。男は車で逃走する。

ダルマスは恋人でイギリス人のモデルのジュリア(スージー・ケンドール)とともに帰国する予定だったが、帰国を取りやめて、事件について独自の調査を開始する。

ダルマスはモニカが男と揉み合っているのを目撃した時に何かに違和感を感じたことを憶えていたが、それが何だったか思い出せない。

ダルマスはラニエリの家を訪れ、ラニエリと話す。

ダルマスは3人の犠牲者について調べる。1人目の犠牲者は骨董品店の店員、2人目は娼婦、3人目は学生だった。

ダルマスは1人目の犠牲者が働いていた骨董品店を訪れる。骨董商によると、その店員が誰かに一枚の絵を売った直後にその店員が殺されたのだという。ダルマスはその絵の写真を骨董商から借りる。それは雪原で黒ずくめの男が少女を肉切り包丁で刺している場面の絵だった。

殺人者は4度目の殺人を犯す。

殺人者はモロシーニ警部に電話をかけて、来週末までに5人目を殺すと言う。

ある晩、モロシーニ警部が派遣した護衛に付き添われてジュリアとともに通りを歩いていたダルマスは車に襲撃される。護衛は車に轢かれて死亡する。黄色のジャケットを着た男が車から降りてダルマスを銃で撃ち殺そうとするが失敗する。

黄色のジャケットを着た男はパラッツォ・ホテルの中に逃げ込む。ダルマスは男を追いかけるが、全員が黄色のジャケットを着ている元ボクサーの集会に男が紛れ込んだために見失う。

殺人者は5人目を殺害する。

殺人者はダルマスに電話をかけて、捜査をやめないとジュリアを殺すと言って脅す。

ダルマスは通話を録音し、警察に提出する。録音を調べた警察は、背後で軋み音のような奇妙な音がしていることに気付く。

ダルマスは2人目の犠牲者のヒモのガルーロに会うために刑務所を訪れる。ガルーロはダルマスにファイエナという名の男を紹介する。

ファイエナは元ボクサーのニードルズが事件に関与していることを仄めかす。ニードルズの家を訪れたダルマスはニードルズが死んでいるのを発見する。ニードルズはダルマスを殺そうとした黄色のジャケットの男だった。

録音された通話のオシロスコープ分析によって、モロシーニとダルマスの通話者は2人の異なる人物であることが判明する。

ダルマスは骨董商から、絵の作者がアヴィアーノに住んでいるベルト・コンサルヴィという名の男であることを聞く。

ダルマスはコンサルヴィの家を訪れる。コンサルヴィはダルマスに、自分の絵がある事件を基にしたものであることを告げる。コンサルヴィによると、10年ほど前に知り合いの娘が変質者に襲われたのだという。

ジュリアがダルマスの家に一人でいる時に殺人者がドアを壊して部屋に侵入しようとする。ダルマスが帰宅し、殺人者は逃走する。

ダルマスの友人のカルロ・ドーヴァー教授は、録音された通話の軋むような音が、半透明に光る羽のために「水晶の羽を持つ鳥」と呼ばれる希少種の鳥、ホルニトス・ネヴァリスの鳴き声であることを発見する。

その鳥は近くの動物園で飼育されていた。ダルマス、ジュリア、カルロとモロシーニ警部は動物園へ向かう。

映画の結末で、連続殺人犯の意外な正体が判明する。

解説

『歓びの毒牙』は、1960年代から1970年代にかけてイタリアで「ジャッロ」と呼ばれた殺人ミステリーまたはホラースリラーのジャンルにおいて、商業的にも批評的にも成功を収めた最初の映画であり、1970年代以降のジャッロの普及に大きく貢献した作品である。

本作はアルジェントの後続の2つのジャッロ、『わたしは目撃者』(1971年)、『4匹の蝿』(1971年)とともに「動物三部作」と呼ばれている。

本作はアルジェントの監督デビュー作であるが、鮮やかな色彩、スタイリッシュな画面構成、血なまぐさくも華麗な殺人シーンなどのアルジェントのジャッロ映画の特徴をすでに示している。

本作における先入観による思い違い、または虚偽の記憶というトリックは『サスペリアPART2』(1975年)でも使われている。

本作はアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(1960年)のようなサイコスリラー映画でもある。本作では精神分析理論における防衛機制の一種としての「攻撃者との同一化」が殺人の動機として導入されている。

ストラーロによる本作の撮影は、光と闇の対比の強調(キアロスクーロ)と、主観ショットや超接写を含む斬新なカメラワークが特徴である。

モリコーネによるスコアは、観客の不安感と緊張感を煽る攻撃的な無調音楽と、抒情的で牧歌的な楽曲の両方を含んでいる。

本作は2008年にイギリスの映画雑誌『エンパイア』誌上の「史上最高の映画500」のリストで272位にランク付けされた。

UK/USアロービデオは2021年に『歓びの毒牙』の4K修復版をUltra HD Blu-rayで発売した。

The Bird with the Crystal Plumage Official Trailer 4K