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安野モヨコ『ハッピー・マニア』(1995–2001年)

『ハッピー・マニア』は安野モヨコによる日本の漫画作品である。

1990年代中頃から2000年代初頭の日本を舞台に、過度の恋愛依存のために自滅的な行動を繰り返す20代の女、重田加代子の波瀾万丈の人生をコミカルに描いている。

あらすじ

重田加代子、愛称「シゲカヨ」(24歳)は、フリーターとして働きながら、親友でルームメイトの福永ヒロミ、愛称「フクちゃん」(29歳)と東京のアパートで暮らしている。

重田は「恋の暴走機関車」と呼ばれる女で、恋愛に過度に依存している。重田はその日に初めて会って好きになった男と性的な関係を持つような女だった。

重田は情熱的な恋愛を追い求めていたが、常に一時的な恋愛感情に支配されており、問題のある男ばかり好きになるため、恋人との関係は長続きしない。

仕事よりも恋愛を優先し、仕事が長続きしないため、重田はいつも経済的に困窮している。

福永は化粧品業界で働くキャリア・ウーマンだった。福永は恋人で商社勤務の藤堂秀樹(ヒデキ)と、不倫や別居、浮気などのさまざまな紆余曲折を経た後に結婚する。

重田は書店の販売員のバイト先でバイト仲間の高橋(タカハシ)修一(20歳)と出合う。タカハシは東大生で良家の子息だった。

重田に恋をしたタカハシは重田に求婚し、重田はタカハシと2回婚約するが、恋愛至上主義者で結婚に幸せを見いだせない重田は婚約を2回とも破棄する。

重田のことを忘れるために旅に出たタカハシは、養蜂家の仕事の手伝いを始める。

タカハシは養蜂家の娘の川口貴子(21歳)と親しくなる。

貴子は恋愛の経験がなかったが、タカハシを好きになり、タカハシとの結婚を熱望するようになる。

タカハシはスズメバチに刺されて記憶喪失になる。タカハシは自分が誰なのかを思い出すために東京に戻る。

貴子はタカハシが記憶を失っている間にタカハシの婚約者を装い、タカハシの実家に住み着く。

記憶を取り戻したタカハシは貴子と結婚する。

重田のことが忘れられないタカハシは貴子と離婚し、重田に3回目の求婚をする。

解説

概説

『ハッピー・マニア』は成人女性向けの月刊漫画雑誌『FEEL YOUNG』に1995年から2001年にかけて長期連載されたシリーズである。

20代の女性を主なターゲット層として、恋愛至上主義者の女性の破天荒な生きざまを描いた恋愛コメディー漫画である。

イラスト風のラフなタッチによるスタイリッシュな描画が特徴的である。

他の多くの1990年代以降の成人女性向け漫画作品と同様に、本作は露骨な性的描写を含んでいる。

単行本全11巻が1996–2001年に祥伝社から刊行された。

祥伝社からは文庫版全6巻(2001–2002年)と新装版全8巻(2009–2010年)も刊行されている。

2020年12月時点でシリーズ累計発行部数は330万部を突破している。

本作を原作とする実写のTVドラマシリーズが1998年にフジテレビ系で放送され、稲森いずみが主人公の重田加代子役を演じた。

2002–2003年に本作の繁体字中国語版が『HAPPY MANIA 戀愛暴走族』というタイトルで台湾の尖端出版から刊行された。

2003–2004年に英語版がTOKYOPOPから刊行された。

2005–2006年にフランス語版がPika Éditionから刊行された。

2005–2006年に単行本第1–6巻のドイツ語版がCarlsen Comicsから刊行された。

2006–2007年にイタリア語版がEdizioni Star Comicsから刊行された。

2017年に続編の『後(ご)ハッピーマニア』が読み切りのプロトタイプ版として『FEEL YOUNG』に掲載され、2019年に同誌で連載開始された。『後ハッピーマニア』は『ハッピー・マニア』の結末から15年後を舞台に、45歳になった重田のその後の人生を描いている。

時代背景としての「就職氷河期」

『ハッピー・マニア』では主人公の重田は大学卒業後に定職に就くことができずにアルバイトで何とか生活している女性として描かれている。

第7巻のAct.32では、重田の履歴書には「明治大学卒業、職歴なし」と書かれている。

このキャラクター設定は当時の日本の社会情勢、すなわちバブル経済崩壊後の平成不況期に「就職氷河期」と呼ばれた1990年代の就職難を反映している。

恋に恋する女、重田加代子にとっての幸福とは?

『ハッピー・マニア』は、恋愛の快楽を純粋に追求するが故に結婚をすることができない女性のジレンマを戯画的に描いている。

第2巻のAct.8ではタカハシが重田に愛の告白をするが、重田はタカハシに「あたしはあたしのことスキな男なんてキライなのよっ」と言い、タカハシから逃げ回る。重田は常に愛されることの幸福よりも愛することの喜びを追い求めている。

重田が欲しているのは結婚相手ではなくロマンティックな恋愛の対象であるため、重田は結婚に幸せを見いだすことができない。

重田は最終的にタカハシとの結婚を決意するが、最終話(第11巻のAct.62)で重田は結婚式の当日にウエディングドレス姿で「彼氏ほしい!!」と叫ぶ。

重田にとっては結婚は恋愛の成就ではない。重田は恋に恋する女であり、重田が求めているのは胸がときめくような恋をすることで得られる震えるような多幸感である。重田自身はそれを「ふるえるほどのしあわせ」(第11巻のAct.62)と表現している。重田のロマンティックな欲望は結婚によっては決して満たされることがない。その意味では、本作における重田加代子というキャラクターは(はかなくも激しい恋愛としての)ロマンスそれ自体の化身のような存在と言えるかもしれない。

重田が関係を持った人物たち

重田はエリと丸山を除く下記の人物全員と性的な関係を持つ。

  • 高田: 重田のバイト先の書店にやって来る客。重田に電話番号を渡す。
  • 大倉光広: 書店で重田のバイト仲間だった田辺ゆう子の彼氏。重田と浮気をする。
  • 時枝: 19歳のクラブDJ。いつも不特定多数の恋人と付き合っている。
  • 堺邦彦: 重田の高校1年の時の同級生で新興宗教の教祖の息子。重田を拉致し、逮捕される。
  • 岸和田悟郎: 陶芸家の青年。重田は岸和田に近づくために岸和田の師匠の梅本に弟子入りする。岸和田は師匠の娘のみどりと関係を持っていたが、みどりは他の男と駆け落ちする。その後、岸和田は重田を残して中国に旅立つ。
  • 大河内清次: ヒデキと同じ会社に勤めている男。既婚者だが重田と不倫する。
  • 万田祐介: 重田の元彼。重田はしばらくの間祐介のアパートで祐介と同棲する。
  • エリ: 重田が立川のキャバクラで働いていた時の同僚の1人。高身長で中性的な外見の美人。重田に愛を告白する。
  • 加藤ため吉: 京都に住んでいる自称小説家。思い込みが激しく、多額の借金を抱えている。
  • 丸山: ぽっちゃり体型で温厚な性格のサラリーマン。福永が重田にお見合い相手として紹介する。
  • 田嶋: 重田の友達の中村マリコが経営している編集プロダクションの社員。女たらし。マリコの彼氏だったが、福永や重田とも関係を持つ。
  • 加山ただし: 重田が泊まった箱根湯本の老舗の温泉旅館の若旦那。重田を自分の旅館の若女将にしようとする。
  • 高橋修一: 重田が書店でバイトをしていた時のバイト仲間。東大生(後に大学を中退)で良家の子息。重田はタカハシとの婚約を2回破棄した後、最終的にタカハシとの結婚を決意する。