- 概説
- 著者について
- 解説
- 各話紹介
- 『マリはだれの子』–『別冊なかよし』1971年5月号
- 『毛糸のズボン』–『なかよし』1971年5月号
- 『おつたさま』–『少女フレンド』1971年8月24日号
- 『宿題』–『少女フレンド』1971年9月21日号
- 『ひも』–『少女フレンド』1971年9月28日号
- 『かくれんぼ』–『少女フレンド』1971年10月5日号
- 『復讐』–『少女フレンド』1971年10月12日号
- 『こじきの死』–『少女フレンド』1971年10月19日号
- 『はじめての家族旅行』–『なかよし』1971年10月号
- 『首かざり』–『なかよし』1971年11月号
- 『雨』–『別冊なかよし』1971年11月15日号
- 『シャイアンの大わし』–『少女フレンド』1972年2月2日号
- 『血ぞめの日記が青空に舞う』–『少女フレンド』1972年10月3日号
- 『へび神さま』–『少女フレンド』1973年2月20日号
概説
『毛糸のズボン──直野祥子トラウマ少女漫画全集』は日本の漫画家、直野祥子(なおのよしこ)の本である。2025年に筑摩書房から出版された。


著者について
直野祥子は日本の漫画家、イラストレーターである。
直野は兵庫県神戸市の六甲で生まれ、夙川で育った。
1968年に青林堂の月刊漫画雑誌『ガロ』の新人募集コーナーで読み切り作品『実験』が入選し、漫画家としてデビューした。
直野は1971年から1973年にかけて、少女漫画雑誌の『なかよし』と『少女フレンド』で人間心理の暗部を描いたサスペンス作品を発表し、そのショッキングな内容が当時の読者に強い印象を与えた。
その後は『ビッグコミック』や『女性セブン』、『女性自身』などの青年・成人向けの雑誌で作品の発表を続けたが、1995年の阪神・淡路大震災で被災し、初期の原稿はほぼ消失した。
直野は2005年に、昭和30年代の夙川での家族の暮らしを描いた絵日記『夙川ひだまり日記』を小学館スクウェアより出版した。
解説
基本情報
本書は2025年に筑摩書房から文庫本および電子書籍として出版された。
本書は1971年から1973年にかけて雑誌『なかよし』『少女フレンド』に読み切りの短編作品として掲載された直野の代表作14本を完全収録している。今まで単行本化されたことがなかった直野作品の貴重な復刻である。
直野は巻末の「自作解説──漫画と私」で全14作品を自ら解説している。
復刻の背景
本書の刊行にあたって文学紹介者の頭木弘樹は編集に協力し、辺境劇画復刻レーベル「よどみ舎」主宰のまんがゴリラは資料提供などで協力した。
著者の実家に保存されていたオリジナルの原稿は阪神・淡路大震災で焼失したため、本書の紙面は掲載誌から起こしたものになっている。
画風について
直野は『ガロ』に連載されていた白土三平の『カムイ伝』(1964–1971年)を好きな作品の一つとして挙げているが、直野の少女漫画は白土三平などの劇画の影響を受けた描線の多い写実的なスタイルが特徴である。
題材について
直野は自作の解説で自身の中心的な題材を「罪悪感、誤解で起こる事件、取り返しのつかない失敗、後悔、懺悔」と述べているが、本書に収録された作品の多くはこれらの題材を扱ったものである。物語の大半は不幸な結末で終わっている。
各話紹介
『マリはだれの子』–『別冊なかよし』1971年5月号
両親と顔が似ていないので自分が両親の子供ではないと思い込んでいる少女、マリの話。マリは両親に似ている幼い弟に対して殺意を抱く。
『毛糸のズボン』–『なかよし』1971年5月号
善意や愛情が人を苦しめることがあるというテーマを扱った話である。
少年ひろしは祖母の手編みのセーターを着て小学校に通っていたが、派手な色の服装で注目を集めることを嫌っていた。
祖母は学芸会で独唱するひろしのために派手な毛糸のズボンを編み始める。ひろしはそれを着ることを回避するためにある行動に出る。
『おつたさま』–『少女フレンド』1971年8月24日号
幽霊屋敷を舞台にした、日本の怪談に似たホラー漫画である。
秋子という名の少女とその母親が、おつたさまという女性の幽霊に呪われた古い日本屋敷に住んでいた。幽霊は美しい娘の首を求めてさまよっている。
幽霊に首を取られることを恐れた秋子は母と共謀して、クラスメイトのみさ子を身代わりにするために夏休みにみさ子を自宅に招く。
『宿題』–『少女フレンド』1971年9月21日号
夏休みの宿題をほとんどやっていないのに夏休みが終わってしまうという、学童にとって絶望的な状況を描いた作品。
小学5年生の広子は、夏休みが残り3日しかないのに夏休みの宿題がほとんど手付かずだったが、家族で箱根に旅行に行くことになってしまう。
広子は担任の厳しい教師に叱責されることを想像して恐怖する。
『ひも』–『少女フレンド』1971年9月28日号
2人のいとこの間で誤解から生じた事件を描いた作品である。
少女チエは10歳の夏休みにいとこの愛子と遊んでいるときに自分の不注意から花火の事故を起こし、愛子を失明させてしまったことに責任を感じていた。
それから6年間、チエは毎日学校から帰ると愛子の目の代わりとなって愛子の世話をしていた。
チエと愛子は親友だったが、チエがボーイフレンドのケンちゃんと恋仲になり、2人の関係が変化する。
愛子が自分を束縛しようとしていると誤解したチエは、愛子から自由になるためにある行動を起こす。
『かくれんぼ』–『少女フレンド』1971年10月5日号
行方不明になった幼友達に関する秘密を隠し持っている少女の話。
チカ子(5歳)がマリ子(3歳)と空き地でかくれんぼをしている時にマリ子が行方不明になる。
チカ子は母親や近隣住民、警察官からマリ子について聞かれるが、何も知らないと嘘をつく。
12年後、当時誘拐されて九州で暮らしていたという、マリ子に似た若い女性が発見される。
チカ子はマリ子かもしれない女性と会うが、その後、事件の意外な真相が明らかになる。
『復讐』–『少女フレンド』1971年10月12日号
ある交通事故死の裏に隠された真相をめぐる話。
女子高生の麻紀の父親が車にはねられて死亡する。車を運転していたのは麻紀のクラスメイトの正子の父親だった。
麻紀は高校をやめて働いてお金を貯め、中古車を買う。
麻紀は正子の父親を車でひいて死亡させ、復讐を遂げるが、その後、父親の事故死が正子の父親の過失ではなかったことを知る。
『こじきの死』–『少女フレンド』1971年10月19日号
恵美子という名の少女が妹のように思って大切にしていた人形のマリーをなくして悲嘆に暮れる。
3年後、恵美子の母親がマリーを抱いている乞食の少女を発見する。
恵美子は少女からマリーを取り返そうとするが、少女を可哀想に思い、少女に施しを与え始める。
しかしその後、その乞食の意外な正体が判明する。
『はじめての家族旅行』–『なかよし』1971年10月号
火災の危険性から目をそらして希望的観測にすがったために最悪の選択をしてしまう少女の話である。
本作は2019年に衝撃的な小説・漫画作品を集めたアンソロジーとして筑摩書房より刊行された頭木弘樹編『トラウマ文学館』に収録された。
神戸に住むさち子という名の少女が両親に連れられて九州に旅行に出かける。
さち子は家を出る前にアイロンの電源を切り忘れたことに気付く。旅行を諦めたくないさち子は、母親に電源は切ったかと聞かれ、切ったと嘘をつく。
神戸港から船に乗ったさち子は家が火事にならないかと心配するが、船から転落した老人が奇跡的に生還したのを見て、神の救いを信じる。

『首かざり』–『なかよし』1971年11月号
女子中学生の岩本アキ子は、子供の頃に母と買い物に行った神戸のデパートのエレベーター内で母のエメラルドの首飾りがなくなったことを回想する。アキ子はその時母の背後に鋭い目の女がいたことを憶えていた。
クラスメイトのルミ子の誕生会パーティーに参加したアキ子は、ルミ子の母親が鋭い目の女にそっくりであることに気付く。
数日後、アキ子はルミ子が母の首飾りを持っていることを知る。
アキ子は両親が亡くなり、親戚に引き取られていた。
アキ子は母の形見となった首飾りをルミ子から取り返そうとする。一方、ルミ子は母が万引きの常習者であることを知る。
『雨』–『別冊なかよし』1971年11月15日号
孤独な少女と不良少女の束の間の関係を描いた話である。
小学生のユミ子は2年前に母親を自動車事故で亡くし、父親と2人で暮らしていた。
雨が降るとクラスメイトの母親たちは傘を持って学校に子供たちを迎えにくるが、ユミ子には迎えに来てくれる人がいない。
ある雨の日、ユミ子は学校から一人で帰る途中でケイという名の15歳の少女に出会う。
ケイは雨の日に傘を持って学校にユミ子を迎えに来るようになる。
ケイの目的はユミ子の家から金品を盗み出すことだったが、ユミ子はケイを母親のように慕うようになる。
『シャイアンの大わし』–『少女フレンド』1972年2月2日号
西部開拓時代のアメリカで起きた神秘的な事件を描いた作品である。
アメリカ西部の開拓村で、マリーが産んだ赤ん坊のジェーンが熱病で死ぬ。
マリーの夫はシャイアン族の集落を襲撃し、シャイアン族の人々を皆殺しにする。
シャイアン族の酋長の娘、アイダは死ぬ前に、シャイアン族の守り神の黒い大わしが白人の開拓者たちに復讐するだろうと予言する。
ジェーンは生き返り、少女に成長する。
15年後、村ではアイダの魂が乗り移った女が黒い大わしを呼んでいるという噂が広まり、復讐を恐れた村人たちはその女を探し出して殺そうとする。
ジェーンの親友のオジーが村人たちによって殺される。
その後、ジェーンは自分にアイダの魂が宿っていることを悟る。
『血ぞめの日記が青空に舞う』–『少女フレンド』1972年10月3日号
女子校を舞台に、些細な思い違いが招いた恐ろしい事件を描いた作品である。
白谷の学校では、生徒が週に一度日記帳を担任に提出する決まりがあった。
白谷はクラスメイトの前川が日記帳で自分の校則違反やサボりを担任に告げ口したと思い込み、前川の日記帳を盗んで隠す。
日記帳に自分の秘密を書いていた前川は、秘密がばれることを恐れて必死に日記帳を捜す。
白谷は告げ口をしたのが前川ではなかったことに気付き、前川に日記帳を返そうとするが、事態は思わぬ方向に展開する。
『へび神さま』–『少女フレンド』1973年2月20日号
白蛇を神として崇めている山村が舞台の民俗ホラー漫画である。
亜子という名の少女が住む村の村はずれに洞窟があり、そこに数百匹の蛇に囲まれた巨大な白蛇(へび神さま)が棲んでいた。
その村には、村に住む少女たちから白蛇に仕える巫女が選ばれ、巫女が白蛇に殺されると次の巫女が選ばれるという風習があった。
亜子の姉のきくえが巫女になってから5年が経っていた。
亜子はきくえの恋敵だった少女のサワがきくえを陥れて巫女にしたと思い込み、復讐のためにサワの妹のユリが次の巫女に選ばれるように仕向ける。