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ゼイ・コール・ハー・ワン・アイ〜血まみれの天使〜(1973年)

概説

『ゼイ・コール・ハー・ワン・アイ〜血まみれの天使〜』(スウェーデン語原題: Thriller – en grym film)は、1973年のスウェーデンのレイプ・リベンジ/エクスプロイテーション映画である。

売春斡旋業者によってヘロイン中毒にさせられ売春を強制された若い女性が自分を虐待した人々に復讐する物語を描いている。

監督・脚本はボー・アルネ・ヴィベニウス(アレックス・フリードリンスキー名義)。

製作はボー・アルネ・ヴィベニウス。

主演はクリスチーナ・リンドバーグ、ハインツ・ホッフ。

撮影監督はアンドレアス・ベリス。

音楽はラルフ・ランゼン。

制作会社はBAVフィルム。

配給はエウロパ・フィルムとストックホルム・フィルム。

言語はスウェーデン語。107分。

あらすじ

スウェーデンの農場で両親と暮らしている少女、フリッガ(別名: マデリーン)(クリスチーナ・リンドバーグ)は子供の頃に老人から性的暴行を受け、その時のトラウマによって口がきけなくなっていた。

15年後の1972年、フリッガは売春斡旋業者のトニー(ハインツ・ホッフ)に拉致される。

トニーはフリッガをヘロイン中毒にして売春を強制する。

フリッガが最初の客との性交を拒絶したため、トニーはメスでフリッガの左目の眼球をえぐり出して失明させる。

フリッガは左目に眼帯をつける。トニーはフリッガを「ワン・アイ(One Eye)」と呼ぶ。

フリッガは売春婦として日々、客たちから性的な虐待を受ける。

トニーに売春を強制されているもう一人の女性、サリー(ソルヴェイ・アンデーション)はフリッガにトニーの元から逃げ出す計画について話す。

トニーはフリッガの両親にフリッガ名義の悪意に満ちた偽の手紙を送る。娘を失って絶望した両親は自殺する。

フリッガはトニーの元から逃げ出してトニーと自分を虐待した常連客たちに復讐する計画を立てる。

フリッガはトニーに隠れてお金を貯め、運転、射撃、空手、格闘術の教習を受ける。

ある夜、フリッガはサリーのベッドが血に染まっているのを発見し、トニーがサリーを殺害したことを悟る。

フリッガは貯めたお金で密売人から車とヘロインを購入し、武器庫から二連散弾銃を含む武器を盗み出す。フリッガは散弾銃の銃身をのこぎりで短くする。

フリッガは自分を虐待した常連客3人を散弾銃で撃ち殺す。

トニーは2人の手下を雇い、フリッガをヘロインで誘い出して始末しろと命じる。

2人の手下は波止場の倉庫でフリッガを待ち伏せするが、フリッガは2人を散弾銃で撃ち殺す。

警官2人がパトカーで倉庫に到着し、フリッガを逮捕しようとするが、フリッガは格闘術で警官たちを撃退し、パトカーを奪って逃走する。

フリッガは車を暴走させて自動車事故を起こしながら警察とトニーの追跡から逃れる。

フリッガは漁村に逃げ込み、トニーと銃撃戦になる。トニーは車で逃走する。

フリッガはトニーに手紙を送り、決闘を申し込む。

フリッガは荒野で石垣にブービー・トラップを仕掛けてトニーを待つ。

背中にピストルを隠し持ったトニーがフリッガの元にやって来る。

フリッガとトニーの1対1の決闘が始まる。

解説

ヴィベニウスはイングマール・ベルイマンの元で『仮面/ペルソナ』(1966年)と『狼の時刻』(1968年)のユニット・マネージャーを務めた後、初の長編映画『Hur Marie träffade Fredrik(マリーとフレドリックの出会い)』(1969年)を監督したが、この映画は興行的には失敗に終わった。ヴィベニウスは経済的な損失を取り戻すために『ゼイ・コール・ハー・ワン・アイ〜血まみれの天使〜』を「今までで最も商業的な映画」として製作した。

主演のクリスチーナ・リンドバーグは1960年代末に男性誌のセンターフォールド(中央見開きページ)のモデルとして活動を始めた。その後、リンドバーグはアメリカ=スウェーデン合作のドラマ映画『情欲』(1971年)やスウェーデンのエクスプロイテーション映画『Exponerad(エクスポネラード)』(1971年)を含む26本の映画に出演した。出演映画の大半はエロティカ、セクスプロイテーション、ソフトコアの作品だった。

本作はハードコア・ポルノのシークエンスを含んでいる。これは当時デンマークとスウェーデンで自由化が進んでいたハードコア・ポルノの流行を反映したものである。

1973年にカンヌ国際映画祭で本作のオリジナルのノーカット版(107分)が初公開された。

スウェーデンではオリジナル版は映画検閲委員会によって上映を禁止された。1974年に82分の編集版がスウェーデンとアメリカ合衆国で公開された。

本作は、ハードコア・ポルノのシークエンス、陰鬱な物語展開、超スローモーションで撮影されたアクションシーン、ノイジーな電子音を含む音響効果の多用などが特徴である。

本作では主人公のフリッガは口がきけないという設定のため、台詞は一言も喋らない。

黒い眼帯に黒のトレンチコートを身にまとい、ソードオフ・ショットガンを持った無言の復讐者のフリッガ役を演じたリンドバーグの存在感が本作の見どころである。

本作は低予算で制作されたエクスプロイテーション映画であるが、その独特の雰囲気によってカルト的な人気を獲得した。

本作はクエンティン・タランティーノ監督の映画『キル・ビル Vol.1』(2003年)、『キル・ビル Vol.2』(2004年)の着想源の一つとなっている。

『キル・ビル』に登場するアイパッチをつけた悪役、エル・ドライバー(演: ダリル・ハンナ)は本作の主人公がモデルになっている。

タランティーノは本作を「これまでに作られた復讐映画の中で最も荒っぽい作品」(the roughest revenge movie ever made)と評した。

シナプス・フィルムズは2004年と2005年に本作のDVDをリリースした。

ビネガー・シンドロームは2022年に本作の4K UHDとBlu-rayをリリースした。