概説
『ユーリー・ノルシュテイン作品集(Фильмы Юрия Норштейна/The Films of Yuri Norstein)』は、切り紙(カットアウト)アニメーションによる短編で知られる1941年生まれのソ連・ロシアのアニメーション監督、ユーリー・ノルシュテインの作品集である。ノルシュテインがソ連時代に制作した短編アニメーション6作品を収録している。
2016年にゴスフィルモフォンド(ロシアの国立映画アーカイヴ)でオリジナル・ネガが2Kでスキャニングされ、日本の映像制作会社のIMAGICAが2K版を基に修復とグレーディング(色の調整)を行ってDCP(デジタルシネマパッケージ)版を制作した。DCP版は2016年12月に日本で劇場公開され、2017年にリージョンフリーのDVD/Blu-rayがKADOKAWAから発売された。DVD/Blu-rayは英語と日本語の字幕付き。
解説
25日・最初の日(1968年)
『25日・最初の日(25-е, первый день)』(9分)はノルシュテインの初監督作品。アルカージィ・チューリンとの共同制作。
ロシア・アヴァンギャルドの様式をモティーフとして用いて、1917年の十月革命を描いている。
音楽はドミートリイ・ショスタコーヴィチの交響曲第11番『1905年』作品103(1957年)と交響曲第12番『1917年』作品112(1961年)の抜粋を含んでいる。
幼子を抱いた女性の姿は、クジマ・ペトロフ=ヴォートキンの絵画『1918年のペトログラード(ペトログラードのマドンナ)』(1920年)から採られている。
武器を持って走る人民たちの赤いシルエットは、セルゲイ・チェホーニンが描いた、アメリカ人ジャーナリストのジョン・リードの本『世界を揺るがした10日間』(1919年)の表紙のイラストから採られている。
タイトルとテクストは、ウラジーミル・マヤコフスキーの叙事詩『ウラジーミル・イリイチ・レーニン』(1923–1924年)の一節から採られている。
ケルジェネツの戦い(1971年)
『ケルジェネツの戦い(Сеча при Керженце)』(10分)は、イワン・イワノフ=ワノーとの共同制作。
998年のキエフ大公国とタタール人の戦争に巻き込まれた村を舞台に、戦争の悲惨さを描いている。
イコン(聖像画)をモティーフとして使用しており、14–16世紀のロシアのフレスコ画と細密画の引用を含んでいる。
ニコライ・リムスキー=コルサコフのオペラ『見えざる街キーテジと聖女フェヴローニヤの物語』(1907年)の第3幕第2場への間奏曲「ケルジェネツの戦い」の音楽が使用されている。
本作は1972年のザグレブ国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞した。
キツネとウサギ(1973年)
『キツネとウサギ(Лиса и заяц)』(12分)はロシアの民話を基にした作品。
ゴロジェッツ(ヴォルガ川の左岸にある町)の民衆絵画から着想を得た、動く絵本のような映画。
本作は1974年のザグレブ国際アニメーション映画祭で児童映画最優秀賞を受賞した。
本作以降、ノルシュテインの妻で美術監督のフランチェスカ・ヤールブソワがノルシュテインのすべての作品にアニメーター・演出家として参加している。
アオサギとツル(1974年)
『アオサギとツル(Цапля и журавль)』(10分)はロシアの民話を基にした作品。
日本の絵画(版画・水墨画)の影響下で制作された、透明感のある美しい映画。
本作は1975年のアヌシー国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。
霧の中のハリネズミ(1975年)
『霧の中のハリネズミ(Ёжик в тумане)』(10分)は、セルゲイ・コズロフの同名の児童文学作品の翻案。
ハリネズミや霧の緻密で繊細な表現が際立つ、幻想的な映像詩。マルチプレーン・カメラの使用が奥行き感を生み出している。
本作は1976年の全ソ連映画祭で最優秀賞、1977年のテヘラン国際青少年映画祭で最優秀アニメーション映画賞を受賞するなど、多数の賞を受賞した。
話の話(1979年)
『話の話(Сказка сказок)』(29分)はロシアの伝統的な子守唄から着想を得た映像詩。
狼の子の目を通して、第2次世界大戦中のソ連の人々の体験を一連の記憶の断片として描いている。
音楽は、バッハ(『平均律クラヴィーア曲集』第1巻の前奏曲BWV 853)とモーツァルト(『ピアノ協奏曲第4番』K.41の第2楽章アンダンテ)の楽曲の抜粋と、タンゴ『疲れた太陽』(イェジー・ペテルスブルスキ作曲の1935年のポーランドの歌『最後の日曜日』のロシア語バージョン)を含んでいる。
本作は1980年のザグレブ国際アニメーション映画祭のグランプリを含む多数の賞を受賞した。