概説
『パンズ・ラビリンス』(スペイン語原題: El laberinto del fauno, 英題: Pan’s Labyrinth)は、ギレルモ・デル・トロ監督・脚本の2006年のダーク・ファンタジー/史劇映画である。
スペイン内戦(1936–1939年)から5年後の1944年、フランコ体制下のスペインを舞台に、永遠の幸福を求めて森の中の迷宮に迷い込む少女を描いている。
デル・トロによるスペイン内戦とフランコの独裁を背景にした映画としては『デビルズ・バックボーン』(2001年)に続く2作目である。
主演はイバナ・バケロ、セルジ・ロペス、マリベル・ベルドゥ、ダグ・ジョーンズ、アリアドナ・ヒル。
撮影はギレルモ・ナヴァロ。音楽はハビエル・ナバレテ。
スペイン・メキシコ・アメリカ合衆国の共同制作。言語はスペイン語。120分。
プロットの概要
昔々、嘘や苦痛がない地下の王国に、人間の世界を夢見た王女がいた。
人間の世界を訪れたモアナ王女は太陽の光によって盲目になり、記憶を失う。王女は死ぬ。
王女の魂が王国に帰ってくると信じる国王は、王女の帰還のための門として機能する迷宮を世界中に作る。
1944年、反フランコ派のゲリラは内戦終結後も山間部で独裁政権に対する抵抗を続けていた。
11歳のオフェリア(イバナ・バケロ)は内戦で仕立て屋の父を亡くしていた。妊娠中で病身の母のカルメン(アリアドナ・ヒル)は、山中の反政府ゲリラの掃討作戦を指揮するヴィダル大尉(セルジ・ロペス)と再婚する。
カルメンとオフェリアは森の中の古い製粉所でヴィダルと一緒に暮らし始める。
オフェリアはおとぎ話と空想が好きな少女だった。
ヴィダルは冷酷な男だった。カルメンが出産するであろう自分の息子にしか関心がないヴィダルはカルメンとオフェリアに対して冷たい態度を取る。オフェリアは義父のヴィダルに対して恐怖を感じる。
ヴィダルの家政婦のメルセデス(マリベル・ベルドゥ)はオフェリアに優しく接する。メルセデスの弟のペドロは山中に潜む反政府ゲリラの一人で、メルセデスはヴィダルに仕えている反フランコ派のフェレイロ医師とともにペドロとその他のゲリラを極秘裏に支援していた。
ある夜、昆虫の姿をした妖精に導かれて森の中の迷宮に足を踏み入れたオフェリアは、そこで牧神(ダグ・ジョーンズ)に出会う。牧神はオフェリアに、あなたはモアナ王女の生まれ変わりだと告げる。
牧神はオフェリアに、満月までに三つの試験に合格すれば王国に戻れると言う。
解説
映画『パンズ・ラビリンス』は、現実の世界とオフェリアが迷い込むファンタジーの世界の二つの世界の場面で構成されている。
ファンタジーの世界は魔術的リアリズムのスタイルで写実的に描かれている。ファンタジーの世界は、大ガエルや手のひらに目がある男(ペイルマン)などの怪物のような生き物たちが棲む、悪夢のような恐ろしい世界だが、オフェリアにとっては第二の現実である。
本作では、ファンタジーの世界のエピソードが現実の世界の出来事と並行して語られることによって物語が展開する。
特殊メイクやアニマトロニクス、CGIを使用して制作された、グロテスクだが魅惑的なファンタジーの世界の場面が本作の見どころである。視覚効果とCGはCafeFX社が手がけている。
作中では、オフェリアの体験が現実なのかそれともオフェリアの想像の産物なのかは判然としていない。どう解釈するかは観客に委ねられている。本作の結末は悲劇的だが、ハッピーエンドとして解釈することも可能である。
殺人や暴力、拷問などのどぎつい描写を含んでいるため、子供向けの映画ではない。アメリカ合衆国では本作はMPAA(アメリカ映画協会)によってR指定(17歳未満の観賞は親または成人の保護者の同伴が必要)とされた。
本作は2006年のカンヌ国際映画祭で初公開され、第79回アカデミー賞で三冠(美術賞、撮影賞、メイクアップ賞)、第60回英国アカデミー賞で三冠(外国語映画賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアー賞)を受賞するなど、数多くの国際的な賞を受賞した。
あらすじ(ネタバレ注意)
昔々、嘘や苦痛がない地下の王国に、人間の世界を夢見た王女がいた。
人間の世界を訪れたモアナ王女は太陽の光によって盲目になり、記憶を失う。王女は死ぬ。
王女の魂が王国に帰ってくると信じる国王は、王女の帰還のための門として機能する迷宮を世界中に作る。
1944年のスペイン北部。反フランコ派のゲリラは内戦終結後も山間部で独裁政権に対する抵抗を続けていた。
11歳のオフェリア(イバナ・バケロ)は内戦で仕立て屋の父を亡くしていた。妊娠中で病身の母のカルメン(アリアドナ・ヒル)は、山中の反政府ゲリラの掃討作戦を指揮するヴィダル大尉(セルジ・ロペス)と再婚する。
カルメンとオフェリアは森の中の古い製粉所でヴィダルと一緒に暮らし始める。
オフェリアはおとぎ話と空想が好きな少女だった。
ヴィダルは冷酷な男だった。カルメンが出産するであろう自分の息子にしか関心がないヴィダルはカルメンとオフェリアに対して冷たい態度を取る。オフェリアは義父のヴィダルに対して恐怖を感じる。
ヴィダルの家政婦のメルセデス(マリベル・ベルドゥ)はオフェリアに優しく接する。メルセデスの弟のペドロは山中に潜む反政府ゲリラの一人で、メルセデスはヴィダルに仕えている反フランコ派のフェレイロ医師とともにペドロとその他のゲリラを極秘裏に支援していた。
ヴィダルはウサギ狩りをしていた農夫とその息子を反政府ゲリラの支援者と誤認して銃殺する。
ある夜、大きなナナフシが妖精に姿を変えてオフェリアを森の中の古い石造りの迷宮へと導く。
オフェリアは迷宮の地下で牧神(ダグ・ジョーンズ)に出会う。牧神はオフェリアに、あなたは地下の王国のモアナ王女の生まれ変わりだと告げる。
牧神はオフェリアに、満月までに三つの試験に合格すれば王国に戻れると言う。
オフェリアは巨木の中に棲む大カエルの腹の中から黄金の鍵を回収し、第一の試験を成功裏に終える。
母の病状が悪化したため、オフェリアは屋根裏部屋で一人で暮らし始める。ヴィダルはフェレイロ医師に妻の病気を治せと命じる。
メルセデスはフェレイロ医師とともに山中の反政府ゲリラの拠点を訪れ、彼らに物資を届ける。ゲリラの一人のフランセスは左足に重傷を負っていた。フェレイロはフランセスの左足の切断手術をする。
牧神はオフェリアにマンドレイク(マンドラゴラ)の根茎を渡して、それを牛乳に入れてカルメンのベッドの下に置き、毎朝血液を2滴与えろと指示する。オフェリアが牧神の言うとおりにするとカルメンの症状が緩和する。
牧神はオフェリアに第二の試験を課す。牧神はオフェリアに、魔法のチョークで扉を描き、扉が開いたら砂時計をセットして、後は妖精の導きに従えと指示する。牧神はオフェリアに、何も食べず何も飲まずに、砂時計の砂が落ちきる前に戻れと言う。
オフェリアは屋根裏部屋の壁にチョークで扉を描き、扉の中に飛び込む。
子供を食べる目のない怪物、ペイルマン(ダグ・ジョーンズ)が晩餐の席で眠っている。テーブルの皿の上に目玉が2つある。
妖精たちに導かれて、オフェリアは保管庫を鍵で開けて短剣を取り出す。
オフェリアが卓上のぶどうを2粒食べるとペイルマンが目覚める。ペイルマンは目玉を手のひらに嵌め、妖精2体をむさぼり食い、オフェリアを追いかけるが、オフェリアは何とかペイルマンから逃れて部屋に戻る。
反政府ゲリラは山中でヴィダルの部隊と銃撃戦を交える。反政府ゲリラの一人(吃音症の男)がヴィダルの部隊に捕虜として捕えられる。ヴィダルは捕虜を拷問にかける。
オフェリアは牧神にぶどうを食べたことを告白する。牧神はオフェリアが禁を犯したので王国に帰ることはできないと言う。
捕虜はフェレイロ医師に殺してくれと頼む。フェレイロ医師は捕虜を安楽死させる。
フェレイロが反政府ゲリラの協力者であることに気づいたヴィダルはフェレイロを銃殺する。
カルメンはヴィダルの息子を出産し、亡くなる。
ヴィダルはメルセデスがスパイであることに気づく。メルセデスはオフェリアを連れて脱走するが、ヴィダルの部隊に捕えられる。
オフェリアは寝室に閉じ込められる。ヴィダルはメルセデスを拷問にかけようとするが、メルセデスはヴィダルをナイフで刺して森に逃げ込み、反政府ゲリラと合流する。
牧神はオフェリアに最後の試験を受けるチャンスを与える。牧神はオフェリアに生まれたばかりの弟を迷宮に連れてこいと言う。
オフェリアはヴィダルの部屋から赤ん坊を連れ去り、迷宮の中に逃げ込む。ヴィダルはオフェリアを追跡する。
反政府ゲリラがヴィダルの部隊の前哨基地に対して攻撃を開始する。
牧神は短剣を持ちながら、オフェリアに地下の王国への門を開くためには無垢なる者のわずかな量の血を捧げることが必要だと言う。牧神は赤ん坊から血を採取しようとするが、オフェリアは弟を傷つけることを拒絶する。
ヴィダルはオフェリアから赤ん坊を取り返し、オフェリアを銃で撃つ。
反政府ゲリラに包囲されたヴィダルは赤ん坊をメルセデスに手渡す。ペドロはヴィダルを銃で撃ち殺す。
メルセデスは迷宮の奥でオフェリアの遺体を発見する。
オフェリアは自分が地下の王国に帰還したことに気づく。オフェリアは金色の玉座の間で国王と王妃に会う。
国王はオフェリアに、無垢なる者の代わりに自分自身が血を流す選択をしたことでお前は最後の試験に合格したのだ、と告げる。