概説
『Kala(カラ)』は、1975年ロンドン生まれのスリランカ・タミル系イギリス人のラッパー・歌手、M.I.A.(エム・アイ・エー、本名マータンギ・”マーヤー”・アルルピラガーサム)の2作目のスタジオ録音アルバムである。
ヒップホップ、ダンスホール・レゲエ、UKクラブミュージック(ガラージ、グライム)、および世界各地のダンス音楽を基盤としたサウンドで知られるM.I.A.の作品群のうち、本作は特にグローバルなサンプリングと強力なビート構造を特徴とする。

制作の背景
デビューアルバム『Arular(アルラー)』(2005年)がRoland MC-505を中心としたエレクトロクラッシュ寄りのプロダクションだったのに対し、『Kala』はより攻撃的でサンプリング依存度の高い作風となった。
M.I.A.は当初、音楽プロデューサーのティンバランド(Timbaland)との大規模コラボレーションを計画していたが、米国長期ビザ取得が難航(家族のスリランカでの政治的背景が影響したとされる)したため、計画を変更。2006年から2007年にかけてインド、アンゴラ、トリニダード・トバゴ、リベリア、ジャマイカ、オーストラリアなど世界各地で録音を行った。
制作の中心はM.I.A.自身と英国のハウス/DJプロデューサーのスウィッチ(Switch)。彼らはAppleのLogic Proを主要DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)として活用し、伝統的なスタジオ外でのボーカル録音や環境音収録も多用した。インドではA・R・ラフマーン(A.R. Rahman)のスタジオでタミルのドラマー集団の演奏を録音するなど、現地音源を直接取り入れる手法が徹底された。他にディプロ(Diplo)、ブラックスター(Blaqstarr)、モーガニックス(Morganics)らが部分的に参加している。
解説
2007年8月8日にXL Recordingsからリリースされ、全米ビルボード200で18位、全英アルバムチャートで39位を記録した。米国ではElectronic Albumsチャートで2007年の最高成績を挙げ、RIAAゴールド認定(50万枚)を受けた。
「Bird Flu」、「Boyz」、「Jimmy」、「Paper Planes」はシングルとしてリリースされた。
本作はオルタナティヴ・ダンスミュージックの傑作として批評的に高く評価されている。『ニュー・ミュージカル・エクスプレス(NME)』誌は2013年に「歴代最高のアルバム500(500 Greatest Albums of All Time)」のリストで本作を184位にランク付けした。
音楽的には南アジア音楽(特にタミル・ナードゥ州のガーナ音楽で用いられるウルミ(urumee)ドラム)、ボリウッド/タミル映画のサンプル、ファンキ・カリオカ(funk carioca)、アフリカの民俗音楽、オーストラリア先住民の管楽器ディジュリドゥ(didgeridoo)などを積極的に取り入れ、「ワールド・フュージョン」的な雑多さとダンスフロア指向を両立させている。ビートはパワフルで反復性が高く、ボーカルは平坦で生々しいスタイルが目立つ。これは意図的な選択であり、デルタ5(Delta 5)やスリッツ(The Slits)などの英国ポストパンクとの類似も指摘される。
歌詞は第三世界をめぐる政治的テーマ—貧困、違法移民、資本主義、銃の流通、暴力—を扱うが、抽象化やスローガン化ではなく、具体的な移動体験や現地音源を通じて物質的に表現されている。
主な収録曲の特徴
- Bamboo Banga: オープニング。竹のような打撃音とハウス風のビート。モダン・ラヴァーズ(The Modern Lovers)の「Roadrunner」(1976年)を引用している。
- Bird Flu / Boyz: ウルミ・ドラムを基調とするトラック。インドとトリニダードでの作業が反映され、ソカ(soca)の影響が強い。
- Jimmy: 1982年のボリウッド映画『ディスコ・ダンサー』の挿入曲「Jimmy Jimmy Jimmy Aaja」の翻案。
- Hussel (feat. Afrikan Boy): ナイジェリア出身のグライム・アーティスト、アフリカン・ボーイ(Afrikan Boy)とのコラボ。移民実態を直接的に扱っている。
- Mango Pickle Down River (feat. The Wilcannia Mob): オーストラリア先住民の子供たちの声を取り入れたトラック。
- 20 Dollar: ピクシーズ(Pixies)の「Where Is My Mind?」(1988年)とニュー・オーダー(New Order)の「Blue Monday」(1983年)のベースラインを引用。リベリアでのAK-47入手の容易さがテーマ。
- Paper Planes: 銃声サンプルとキャッシュレジスター音が特徴的な最大のヒット曲。クラッシュ(The Clash)の「Straight to Hell」(1982年)を引用。ビザや移民の問題を扱っている。全英チャート19位を記録した。
