概説
『君の名は。』は、前作『言の葉の庭』（2013年）から3年ぶりに新海誠が監督した2016年の日本のアニメ映画である。
「身体の入れ替わり」現象と架空の隕石落下事件を題材とするファンタジー／ラヴロマンス映画である。
原作・監督・脚本・絵コンテは新海誠。制作はコミックス・ウェーブ・フィルム。音楽は日本のロックバンド、RADWIMPS（ラッドウィンプス）が担当している。107分。
プロットの概要
千年ぶりとなる彗星の来訪を一カ月後に控えた日本。山深い田舎町（岐阜県飛騨）の女子高校生、宮水三葉（みやみずみつは）と東京都心に住む男子高校生、立花瀧（たちばなたき）は、夢を通してお互いの身体が何度も入れ替わっていることに気づく。
入れ替わりを通じて二人は徐々に打ち解けてゆくが、突然入れ替わりが途切れてしまう。
瀧は三葉に会うために飛騨を訪れるが、辿り着いた先で意外な真実に直面する。
解説
本作は公開当時、全世界で日本映画としては史上最高の興行収入を記録した大ヒット作である。
新海は本作で、初期の短編アニメーション映画『ほしのこえ』（2002年）に見られるような自身の原点、すなわち、村上春樹の小説のようなロマンティシズムと「セカイ系」の物語構造─そこでは「ぼく」と「きみ」の二者関係が、中間領域としての社会的関係を媒介することなく、世界規模の大問題と直結する─に回帰している。
新海は、時間遡行や可能世界といった、日本のアドベンチャーゲームに見られるような仕掛けを導入しつつ、大災害の後の歴史改変の物語を、ハッピーエンドを含む美的なファンタジー映画に仕上げた。
本作で描かれている大災害は、日本の文脈では2011年の東日本大震災を想起させるが、本作における歴史改変の物語が、実際に起こった大災害をなかったことにしたいという現実否認の願望に基づいていることは明らかである。『君の名は。』の世界は、大災害後の社会の現実を否認することで心的外傷を癒そうとする防衛機制に基づいたファンタジーの世界である。本作をファンタジーとして楽しめるか否かで、本作の評価は大きく変わってくるであろう。
新海誠による小説版、漫画版（作画：琴音らんまる）もある。
