概説
『ディス・ヒート(This Heat)』は、1976年にロンドンで結成されたイギリスの実験的ロック・バンド、ディス・ヒート(This Heat)による自主制作のデビュー・スタジオ・アルバムである。

1976年から1978年にかけて録音され、1979年にイギリスのインディペンデント・レーベル、ピアノ(Piano)から発売された。
ジャケットのミニマルなアートワークの配色にちなみ、ファンの間では通称「ブルー・アンド・イエロー」とも呼ばれる。
制作の背景
ディス・ヒートは、チャールズ・ヘイワード(Charles Hayward、ドラムス、キーボード、ヴォーカル)とチャールズ・バレン(Charles Bullen、ギター、クラリネット、ヴィオラ、ヴォーカル)を中心に1976年に結成された。
当時ヘイワードは、ロキシー・ミュージック(Roxy Music)のギタリスト、フィル・マンザネラ(Phil Manzanera)が率いるプログレッシブ・ロック・バンド、クワイエット・サン(Quiet Sun)のメンバーであり、バレンとはラダー・フェイヴァリッツ(Radar Favourites)やドルフィン・ロジック(Dolphin Logic)など、ロンドンの即興音楽シーンにおける複数のグループを通じて活動をともにしていた。
1975年、クワイエット・サンはアイランド・レコードと契約してアルバム『メインストリーム(Mainstream)』を制作し、NMEの月間ベスト・アルバムに選出されるなど高い評価を得たが、ツアー中にマンザネラがロキシー・ミュージックの新作制作のため脱退し、バレンが代役を務めたのち、クワイエット・サンは解散した。
解散後もヘイワードとバレンは音楽活動を続けることを決め、まもなく正規の音楽教育を受けていないものの直感的な音の感覚を持つ視覚芸術家、ガレス・ウィリアムズ(Gareth Williams、ベース、キーボード、ヴォーカル)が加わり3人編成となった。トリオは「フレンドリー・ライフルズ(Friendly Rifles)」の名義で、1976年2月13日にハムステッドのスリー・ホースシューズで初のライブを行った。
1977年初頭、ラジオDJのジョン・ピール(John Peel)に、ヘイワードの実家(カンバーウェル)2階の一室で録音したデモテープを送付したことをきっかけに、バンドは初の放送機会を得た。
デビュー・アルバムの録音は1976年2月から1978年9月にかけて、主にオールド・ケント・ロードのザ・ワークハウス・スタジオズとブリクストンのコールド・ストレージで行われ、モノラル/ステレオのカセット、2トラック、24トラックのリール・トゥ・リール機材が使用された。
制作面で特に重要なのが、のちに収録曲「24トラック・ループ」に結実するテープ操作とループの多用で、2インチのアナログ・テープを原始的なサンプリング装置として用いる手法である。
バンドは複数のメジャー・レーベルからのオファーを受けたが、制作上の自主性と独立性を保つためにこれらをすべて辞退し、最終的に友人であったザ・フライング・リザーズ(The Flying Lizards)のデイヴィッド・カニンガム(David Cunningham)の勧めにより、彼の主宰するインディペンデント・レーベル、ピアノから本作をリリースすることとなった。
楽曲解説
「Testcard」(0:47)はアルバムの開幕を告げる短いトラックで、放送終了後のテスト・カード画面に付随する単調な信号音を思わせるトーンで構成される。
「Horizontal Hold」(6:56)は事実上のアルバム本編の開幕曲であり、異なるセッション・異なる空間で録られた断片が接ぎ合わされたかのような構成を持つ。ガレージ的な距離感のあるマイク配置によるギターとベースの刻みから始まり、途切れがちなギターのゴースト・ノート、テープ・ループの渦、進行的に歪んでいくマイナー・セブンスのコードのかき鳴らし、不協和なノイズと電子的なドローンへと展開していく。攻撃的なギターと駆動感のあるリズム、ノイズ・ループの角張った組み合わせは、後年のエレクトロニカやドラムンベースの語法をある程度先取りしたものとも評されている。
「Not Waving」(7:26)は、強い不協和のハーモニーと音量がゆっくりと膨らんでは萎んでいくベース/ギターの音を特徴とする、ダーク・アンビエント的な楽曲である。
「Water」(3:10)は、ガムラン風の打楽器音を伴う楽曲で、輪郭の定まらない陰鬱なドローンを基調とする。
「Twilight Furniture」(5:06)は、アルバムの中では比較的アクセスしやすい部類に入る、不穏な色合いを帯びたポップ・バラード風の楽曲である。
「24 Track Loop」(5:57)は本作の中心に位置づけられる楽曲であり、2インチのアナログ・テープを原始的なサンプリング装置として用いたテープ・ループを基盤に構築されている。循環的なドラム・パターンを軸とする構造は、制作時期が1970年代末のロンドンであることを踏まえると、後年のジャングルやブレイクビートの語法を先取りするものとしてしばしば言及される。
「Diet of Worms」(3:09)は、耳障りな高音域のテープ・ヒスノイズを伴うアンビエント的なドローン楽曲である。
「Music Like Escaping Gas」(3:40)も同様にテープ・ヒスを基調としたドローン楽曲であり、断片的な音響素材が徐々に積み重ねられていく構成を持つ。
「Rainforest」(2:55)は、激しく歪められたドラム・ソロを中心とする楽曲である。
「The Fall of Saigon」(5:10)は、「Horizontal Hold」と同様に激しいドラムを軸とした楽曲である。
終曲の「Testcard」(4:09)は、冒頭の同名曲と対をなすクロージング・トラックであり、機器の静かな唸りを思わせる音響で幕を閉じる。
収録曲
収録時間:合計48分25秒。
Side One
- “Testcard” – 0:47
- “Horizontal Hold” – 6:56
- “Not Waving” – 7:26
- “Water” – 3:10
- “Twilight Furniture” – 5:06
Side Two
- “24 Track Loop” – 5:57
- “Diet of Worms” – 3:09
- “Music Like Escaping Gas” – 3:40
- “Rainforest” – 2:55
- “The Fall of Saigon” – 5:10
- “Testcard” – 4:09
オリジナル盤のB面最終トラック(本稿のトラック11)は、盤面最内周のリードアウト溝にロックド・グルーヴ(locked groove、無限に繰り返される溝)を伴って終わる。
人員
This Heat
- チャールズ・バレン(Charles Bullen)– ヴォーカル、ギター、クラリネット、ドラムス、テープ
- チャールズ・ヘイワード(Charles Hayward)– ヴォーカル、ドラムス、キーボード、ギター、ベース・ギター、テープ
- ガレス・ウィリアムズ(Gareth Williams)– ヴォーカル、ベース・ギター、キーボード、テープ
テクニカル
- This Heat – プロダクション、エンジニアリング
- デイヴィッド・カニンガム(David Cunningham)– プロダクション、エンジニアリング
- アンソニー・ムーア(Anthony Moore)– プロダクション
- クリス・ブレイク(Chris Blake)– エンジニアリング
- フランク・ブライアン(Frank Bryan)– エンジニアリング
- ケヴィン・ハリソン(Kevin Harrison)– エンジニアリング
- リク・ウォルトン(Rik Walton)– エンジニアリング
配信サービス
