作品情報
『不良姐御伝 猪の鹿お蝶(ふりょうあねごでん いのしかおちょう)』(英語タイトル: Sex & Fury)は、東映京都撮影所が製作し、鈴木則文が監督を務めた日本のエロティック・アクション時代劇映画である。主演は池玲子。スウェーデンのモデル・女優のクリスチーナ・リンドバーグが脇役を演じた。

明治時代後期(1886–1905年)の日本を舞台に、国際的な陰謀に巻き込まれ、殺された父親の仇を討とうとする「猪の鹿お蝶」と呼ばれる女博徒の戦いを描いている。
脚本は掛札昌裕、鈴木則文。
凡天太郎の漫画『猪の鹿お蝶』(1968–1969年)が原作。
企画は天尾完次。
音楽は荒木一郎。
撮影はわし尾元也。
美術は石原昭。
編集は市田勇。
助監督は志村正浩。
配給は東映。
言語は日本語、一部英語。
88分。
あらすじ
1886年(明治十九年)、葛西杏子は3歳のときに警視庁の刑事だった父親の葛西徳蔵(殿山泰司)を目の前で殺された。犯人の手がかりは、その時父が手にしていた3枚の花札(猪・鹿・蝶)だけだった。
19年後の1905年(明治三十八年)、杏子(池玲子)はスリの女親分、仕立屋お銀(根岸明美)に養女として育てられ、「猪の鹿お蝶」を名のる女博徒となっていた。
金澤で若い男が政界の黒幕である政心會総裁の黒川義一(河津清三郎)を暗殺しようとして失敗し、逃走中にお蝶に助けられる。その男は元民友会総裁柊修蔵の遺児、柊修之肋(成瀬正孝)だった。
浅草のお銀の元に戻ったお蝶は、女郎屋に売られた少女、ゆき(早乙女りえ)の行方を捜す。ゆきは岩倉建設の社長岩倉直蔵(名和宏)に身売りされていた。
岩倉はお蝶を新橋の英国貿易商ギネス(マイク・ダーニン)の邸宅に招き、お蝶とイギリス人の女性ダンサー、クリスチーナ(クリスチーナ・リンドバーグ)にゆきの身柄を賭けたポーカーの勝負をさせる。
ギネスはクリスチーナを日本の軍事機密を探るためのスパイとして働かせていた。ギネスと黒川は日本を第二次アヘン戦争に導くために商談を進めていた。
勝負の最中に、ギネス邸に居合わせた黒川を狙って柊とその仲間の反体制派たちが乱入してくる。クリスチーナはピストルで柊たちを追い払うが、柊を見て動揺する。柊とクリスチーナは柊が医学生として英国留学中に知り合い、愛し合った仲だった。
お蝶は勝負に勝つが、岩倉はゆきを解放する前にレイプする。
黒川と岩倉は国外の勢力と結託して利権獲得のための陰謀を企て、警察やヤクザを使って反体制派を掃討していた。黒川たちとの戦いの中で父が殺されたことを知ったお蝶は、父が残したメッセージを手がかりに、父を殺した3人の人物を追いつめてゆく。
解説
概説
本作は日本では1973年に山下耕作監督の東映映画『まむしの兄弟 刑務所暮し四年半』と同時上映された。
本作は、女性を主人公とする復讐のドラマを主軸として東映の任侠映画とポルノ映画、時代劇、スパイアクションの要素を組み合わせたセクスプロイテーション映画であり、1970年代の東映の「ピンキー・バイオレンス」路線を代表する作品である。
1960年代後半から1970年代初頭にかけて東映で任侠映画やポルノ映画を監督していた鈴木則文が監督を務めた。
鈴木が監督した東映のポルノ映画に出演していた池玲子が主人公の葛西杏子/猪の鹿お蝶役を演じ、スウェーデンのセクスプロイテーション映画『Exponerad(エクスポネラード)』(1971年)への出演で世界的に知られるようになったクリスチーナ・リンドバーグがイギリスの秘密諜報員のクリスチーナ役を演じた。
見どころ
本作の見どころは、映画の序盤でお蝶が入浴中にヤクザに襲撃され、雪が降る中庭で返り血を浴びながら全裸で戦う場面と、映画の最後で半裸の着物姿で傷だらけになり血まみれで戦い、花札が舞う中を去ってゆく場面の2つのバトルシーンである。
レーティングについて
日本国内では、本作の公開当時は公式なレーティングの指定がなかったが、露骨な性的描写や残酷な暴力描写を含むため、その後の再上映では成人映画として扱われることがある。
日本国外での上映や配信では成人向けまたはR指定(制限付き成人向け)とされることが多い。
受容・評価
日本国内での公開当時は、同時期の東映が量産していた娯楽映画(プログラム・ピクチャー)の一つとして受容され、興行的には中堅ヒットにとどまったが、1990年代以降にサブカルチャーやジャンル映画の観点から1970年代の東映のピンキー・バイオレンス映画が再評価され、本作もカルト映画として注目を集めるようになった。
日本国外では2005年に米国で英語字幕付きDVDが発売され、欧米のカルト映画ファンの間で1970年代日本のエクスプロイテーション映画の代表作として評価されるようになった。
日本国外では、本作はその鮮烈な原色を基調にした人工的な色彩設計と絵画的な構図、様式化された殺陣、スタイリッシュなアクションによって、芸術的な映画として評価されることが多い。
本作はクエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル Vol.1』(2003年)、『キル・ビル Vol.2』(2004年)の参照源の一つである。『Vol.1』の最後の雪が降る中でのバトルシーンは本作へのオマージュである。
原作漫画『猪の鹿お蝶』の映画化について
『猪の鹿お蝶』は、刺青師でマンガ家の凡天太郎が1968–1969年に漫画雑誌『漫画OK』に連載した、エロティシズムと残酷描写、アウトロー的な美学を特徴とする漫画である。
野田幸男監督の東映映画『不良番長 猪の鹿お蝶』(1969年)はこの漫画を原作とする最初の映画であり、『不良姐御伝 猪の鹿お蝶』は2回目の映画化である。
『不良姐御伝 猪の鹿お蝶』の続編として石井輝男監督の東映映画『やさぐれ姐御伝 総括リンチ』(1973年)が製作され、池玲子が再びお蝶役を演じた。
家庭用メディア
Panik House Entertainment(アメリカ合衆国) は2005年に本作を初めて英語字幕付きDVDで発売した。
2007年に東映ビデオ(日本)、Fabulous Films(イギリス)、Umbrella Entertainment(オーストラリア)が本作をDVDで発売した。
Discotek Media(北米)は2024年に本作をブルーレイで発売した。
オリジナルの日本語版と英語字幕版は一部の動画配信サービスでも視聴可能。

