概説
『ギャラ』は日本の漫画家、ジョージ秋山による漫画作品である。1979–1981年に週刊少年漫画雑誌『週刊少年キング』に連載された。
容姿が醜く頭が悪いという理由で父親から虐待され、周囲の人々から見下されている少年、山田亜左未(やまだあざみ)が、謎の美少女、紅子(べにこ)との出会いをきっかけとして、金の力と犯罪行為によって社会に復讐し、悪人として生きようとする物語を描いている。

著者について
ジョージ秋山(1943–2020)は1943年に東京の日暮里で生まれ、栃木県足利市で育った。
中学卒業後に上京し、1960年代中頃に漫画家としてデビュー。
1960年代後半は主にギャグ漫画家として活動し、1966–1968年に『週刊少年マガジン』に連載した『パットマンX』で第9回講談社児童まんが賞(1968年度)を受賞した。
1970年代初頭に社会批評と過激な描写が特徴の問題作、『銭ゲバ』と『アシュラ』を発表し、注目を集めた。
1970–1971年に『週刊少年サンデー』に連載された『銭ゲバ』は、貧困や拝金主義などの社会問題を背景として、金銭のために殺人を繰り返し、権力を獲得してゆく男を描いた作品である。
1970–1971年に『週刊少年マガジン』に連載された『アシュラ』は、飢饉や戦乱が続く古代末期~中世初頭の日本を舞台に、極限状況における人間の業や生の意味を追究した作品である。
1972–1973年に『週刊少年サンデー』で、「ザ・ムーン」と呼ばれる巨大ロボットを操る9人の子供たちを描いた異色のロボット漫画『ザ・ムーン』を連載した。
1973年に青年漫画誌の『ビッグコミックオリジナル』で連載開始された時代劇漫画『浮浪雲』はヒット作となり、第24回小学館漫画賞(1978年度)を受賞。『浮浪雲』は2017年まで連載が続き、44年にわたる長期連載となった。
1980–1984年に『週刊漫画ゴラク』で成人向け漫画『ピンクのカーテン』を連載した。
2020年に77歳で死去。
出版履歴
少年画報社『週刊少年キング』版『ギャラ』
『ギャラ』は少年画報社の少年漫画雑誌『週刊少年キング』の1979年45号から1981年17号にかけて連載された。


1980–1981年に単行本(全8巻)が少年画報社のレーベル、ヒットコミックスから刊行された。

祥伝社『コミック・ノストラダムス』版『餓鬼(ギャラ)』
『ギャラ』は祥伝社の青年漫画誌『コミック・ノストラダムス』(1983–1985年)に『餓鬼(ギャラ)』というタイトルで再掲載され、1984年に祥伝社のレーベル、ノン・コミックから単行本の第1巻が刊行された。
『コミック・ノストラダムス』は1985年に廃刊となり、『餓鬼(ギャラ)』の単行本の第2巻以降は未刊行となっている。
祥伝社ノン・コミックの『餓鬼(ギャラ)』第1巻は少年画報社ヒットコミックスの第1巻と同じ内容である。

プロットの概要
山田亜左未(やまだあざみ)は、容姿が醜く頭が悪いという理由で父親から虐待され、学校や地域の人々からも見下されていた。
亜左未は紅子(べにこ)と名乗る謎の美少女と出会う。紅子は亜左未に愛を告白する。
父親に生きる価値を否定されて逆上した亜左未は父親を刺殺する。紅子は亜左未を助けて亜左未が父親を殺害した証拠を隠滅する。

紅子の正体は、新天海直記(しんてんかいなおき)という名の少年が女装した姿だった。
直記は亜左未に、殺人を犯した以上は悪人として生きるしかない、一緒に金貸しをして大金持ちになろうと言う。
亜左未は直記と同性愛の関係になり、直記と共謀して殺人、高利貸し、暴行、恐喝、詐欺などの犯罪を積み重ねてゆく。
亜左未は金の力で他人を支配することに喜びを見いだし、悪の道を突き進むが、元来はおとなしくて優しい少年だった亜左未は、心の底では愛を求め続けていた。
亜左未は視覚障害のある少女、山川遥(やまかわはるか)と出会う。遥は亜左未に対して優しく接する。
直記は亜左未に遥を暴行しろと唆すが、遥が博愛と自己犠牲の精神の持ち主であることを知った亜左未は遥に暴行をすることができず、直記は亜左未を裏切り者と罵る。
亜左未と直記のあいだで殺し合いが始まる。
解説
タイトルについて
標準的な日本語では「ギャラ」は「ギャランティー(guarantee)」の略語であり、出演料や報酬を意味するが、『ギャラ』というタイトルの意味は作中では説明されていない。
画風
ジョージ秋山の漫画は、ギャグ漫画由来の丸みを帯びた線で描かれた人物造形と劇画的なタッチを組み合わせた独特の画風で知られており、写実性よりも感情描写を重視する心理主義的な描画が特徴だが、本作もその作風を踏襲している。
後半では女性キャラクターの肉感的な全身像を描いた大ゴマやぶち抜きが多用されている。
『銭ゲバ』と『アシュラ』のテーマを継承した問題作
『ギャラ』は、ジョージ秋山が『銭ゲバ』と『アシュラ』で追究したテーマを少年向け漫画として展開した問題作である。
『ギャラ』は「金と悪」(拝金主義と犯罪)というテーマを『銭ゲバ』から継承しており、社会的に差別・疎外された者が金の力と犯罪行為によって社会に復讐するという基本設定は『銭ゲバ』と共通している。
中学生と思われる主人公の少年がもう一人の少年と同性愛の関係になり、殺人や性的暴行を含む犯罪を積み重ねるという物語展開は、当時の少年向け漫画としては極めて異例であった。
本作は少年漫画であるため、露骨な性描写はないが、殺人や残酷な暴力、裸体、性的な嫌がらせの描写がある。
物語の展開
本作は物語類型としては、犯罪者を主人公とする反英雄(アンチヒーロー)譚に分類される作品である。
序盤は倒叙ミステリー的な犯罪サスペンスの要素を含んでおり、中盤以降の展開は、主人公の亜左未に感情移入する読者に復讐劇のカタルシスをもたらす。
「悪」と「愛」の相剋というテーマ
本作の終盤では、直記(紅子)によって代表される「悪」と遥によって代表される「愛」という二つの相反する理念のあいだで板挟みになる亜左未の苦悩が描かれている。
終盤における亜左未と遥の関係は、ドストエフスキーの『罪と罰』(1866年)におけるラスコーリニコフとソーニャの関係に似ている。
人間性回復と宗教的救済への希求
秋山は『アシュラ』で、飢餓状態下で人肉食が行われるような極限状況における人間の本性を暴き、そこから人間性の回復と宗教的な救済に至る道を模索したが、同様に『ギャラ』では悪の極限から愛の回復と贖罪に至る可能性が追究されており、結末では宗教的な罪人救済の道が示される。
読むことが困難な幻の作品
本作の単行本は絶版となり、一度も復刊されたことがないため、入手して読むことが困難な幻の作品となっている。
復刊に向けた動き
2001年に、絶版・品切れとなった書籍の復刊を読者の投票リクエストをもとに実現する出版・電子書籍サービス、復刊ドットコムでジョージ秋山『ギャラ』の復刊リクエスト投票が開始された。

リメイク
2019–2020年に青年漫画雑誌『ヤングキングBULL』に連載された小林拓己の漫画『ギャラ ~悪への招待~』(第一部完)は、本作のリメイクである。このリメイク版では主人公は高校生として設定されている。
少年画報社オフィシャルサイト: ギャラ ~悪への招待~ 第1巻(小林拓己/ジョージ秋山)

あらすじ(ネタバレあり)
山田亜左未(やまだあざみ)の父親は美男子で、東大を卒業し一流の会社で働いているエリート社員だった。亜左未の母親は亜左未を愛していたが、父親は亜左未が自分と違って容姿が醜く頭が悪いという理由で亜左未を憎んでいた。学校や地域の人々も亜左未のことを見下していた。
亜左未は紅子(べにこ)と名乗る謎の美少女と出会う。紅子は亜左未に愛を告白する。
紅子は亜左未が自分の父親を殺すだろうと予言する。
父親から虐待され、父親に「お前なんか生きてる価値がない」「死んでしまえ」と言われて逆上した亜左未は、紅子の予言通りに父親を刺殺する。
紅子は亜左未が父親を殺害した証拠を隠滅し、亜左未の母親の前で亜左未の父親を刺殺した犯人のふりをして逃走する。
紅子の正体は、新天海直記(しんてんかいなおき)という名の少年が女装した姿だった。直記は自動車事故で両親を失い、姉の夏子(なつこ)と2人で暮らしていた。
直記は表向きは親切で人当たりが良い少年だったが、裏では躊躇なく殺人や暴行を行う、冷酷な悪人だった。
直記は亜左未に100万円をプレゼントする。直記は亜左未に、殺人を犯した以上は悪人として生きるしかない、一緒に金貸しをして大金持ちになろうと言う。
亜左未の父親の殺害事件を捜査していた刑事は、犯人が亜左未と直記であることを嗅ぎつけるが、直記は夏子と共謀して刑事を性犯罪者に仕立て上げる。刑事は北海道に左遷され、事件の捜査から外される。
亜左未は直記と同性愛の関係になり、共謀して犯罪を積み重ねてゆく。
2人は亜左未から金を奪おうとした亜左未の叔父を殺害し、叔父の死を交通事故死に見せかける。
亜左未は直記と共謀して、亜左未のことを見下していたクラスメイトの田代ひとみ(たしろひとみ)に多額の借金をさせ、ひとみに借金を返せないならブタになれと言い、ひとみを全裸にして馬乗りになる。
亜左未と直記は、亜左未の担任の園子(そのこ)先生が妻子持ちの校長と不倫関係にあり、校長が学校の金を不正に着服したことを知る。2人は校長と園子先生を恐喝し、秘密をばらされたくなければ言う通りにしろと言って校長から金を奪い、園子先生に全裸で校庭を30周するジョギングをさせる。
亜左未は誰にでも優しく接する少女、森川マリア(もりかわまりあ)が残酷な目に遭わされても優しい態度を保てるかどうかを試す。
マリアはバーを経営する母親と2人で暮らしていたが、バーの経営は破綻寸前で、森川家は経済的に困窮していた。亜左未と直記はマリアの母親に金を貸して多額の借金をするように仕向け、マリアの母親から高額な利子を搾り取る。
マリアは亜左未に対する優しい態度をかなぐり捨てて、亜左未のことを「顔だけではなく心までみにくいケダモノ」と言って激しく罵る。
亜左未の前に大会社の社長の娘、下条珠美(しもじょうたまみ)を名のる女が現れ、亜左未に金を貸してほしいと頼む。
亜左未と直記は珠美から金をだまし取ろうとするが、その女の正体は珠美の名を騙る詐欺師だった。女は逆に亜左未と直記から金をだまし取り、マリアの母親からバーの権利書を奪って2千万円で売り飛ばし、姿を消す。
直記は他人の土地を売って金を儲ける計画を立てる。亜左未と直記は土地を探している男から金をだまし取ろうとするが、男の娘の浅子(あさこ)に嘘を見破られ、男から5千万円を強奪する。
亜左未は金の力で他人を支配することに喜びを見いだし、悪の道を突き進んでいたが、元来はおとなしくて優しい少年だった亜左未は、心の底では愛を求め続けていた。
亜左未は視覚障害のある少女、山川遥(やまかわはるか)と知り合い、友達になる。遥は亜左未に対して優しく接し、亜左未に聖書の言葉を暗唱して聞かせる。
直記は亜左未に、遥が亜左未に優しくするのは亜左未の顔が見えないからだ、その醜い顔を見れば必ず亜左未を嫌うだろうと言って、遥を性的に暴行しろと唆す。
遥が誰にでも分け隔てなく無償の愛をそそぎ、自己犠牲も厭わない精神の持ち主であることを知った亜左未は遥に暴行をすることができず、直記は亜左未を裏切り者と罵る。
亜左未と直記のあいだで殺し合いが始まる。
