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ノーカントリー(2007年)

概説

『ノーカントリー(No Country for Old Men)』は、アメリカとメキシコの国境地帯を舞台に、麻薬絡みの金を巡る血なまぐさい抗争を描いた2007年のアメリカ合衆国の犯罪スリラー映画である。

コーマック・マッカーシーの小説『血と暴力の国(No Country for Old Men)』(2005年)が原作。

監督・脚本はジョエル・コーエンとイーサン・コーエン。122分。

あらすじ

物語は、ベトナム帰還兵の溶接工で麻薬絡みの金を持ち逃げするルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)、金を取り戻すためにモスを追う殺し屋のアントン・シガー(ハビエル・バルデム)、事件を捜査する保安官エド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ)の3人の主人公を中心に展開する。

1980年、アントン・シガーはテキサス州西部で逮捕されるが、保安官補を絞殺して保安官事務所から脱走する。シガーは路上で車を呼び止め、運転手の頭を圧縮空気式の家畜銃で撃ち抜き、車を盗んで逃走する。

テキサス州の砂漠でプロングホーン狩りをしていたルウェリン・モスは、麻薬取引が不首尾に終わって銃撃戦が起こった場所に遭遇し、そこで男たちの死体と200万ドルが入ったブリーフケースを発見する。

モスは金を家に持ち帰るが、メキシコの麻薬密売人のギャングが自分を追っていることに気付く。

一方、アメリカ側の麻薬密売組織は金を取り戻すためにシガーを雇う。モスが持ち去ったブリーフケースには発信器(追跡装置)が取り付けられていた。シガーは組織の2人の男から受信機を受け取り、2人の男を撃ち殺す。

モスは妻のカーラ・ジーン(ケリー・マクドナルド)をバスに乗せてオデッサのカーラの母の家に向かわせ、金を持ってモーテルに潜伏する。

シガーとメキシコ人の追っ手は信号を受信してモスの居場所を突き止めるが、モスはシガーがメキシコ側の追っ手を撃ち殺している間にモーテルから逃げ出す。

モスは国境の町イーグルパスのホテルに移動するが、シガーもモスを追ってホテルにやって来る。モスとシガーは互いに銃で撃ち合い、両者ともに重傷を負う。

一連の事件を捜査している保安官のエド・トム・ベルは、シガーとモスの行方を追うが、理解のできない凶悪犯罪を前にして無力感を抱き、退職することを考え始める。

モスは国境を越えてメキシコ側に逃れるが、シガーとメキシコ人の追っ手はモスを追い続ける。

解説

本作のタイトル『No Country for Old Men』は、アイルランドの詩人のウィリアム・バトラー・イェイツの詩「ビザンティウムへの船出」(1928年)の冒頭の1行から採られている。

『ノーカントリー』は、登場人物の配置とストーリー展開において、コーエン兄弟の過去作品である『ファーゴ』(1996年)に類似している。

本作では殺し屋のアントン・シガーが、コインを投げて相手に表か裏かを言わせることによって相手を殺すかどうかを決める。シガーは運命または理不尽な現実の体現者のような存在である。その一方で、保安官のベルは、良心や道理が失われた世界に絶望する。

この観点から見ると、本作は神の不在をテーマにしたイングマール・ベルイマンの『第七の封印』(1957年)に類似している。しかし、終盤のあるエピソードでは、シガーが『第七の封印』の死神のような超越的な存在ではなく、自身もまた自らの運命から逃れられない存在であることが示されており、それが本作に自己言及的なユーモアを導入している。

本作は、第80回アカデミー賞で作品賞を含む4部門、英国アカデミー賞で3部門、ゴールデングローブ賞で2部門などの多数の賞を受賞した。

ノーカントリー