概説
『星を継ぐもの(Inherit the Stars)』は、イギリス生まれのSF作家、ジェイムズ・P・ホーガンによる長編小説のデビュー作である。科学的推理を中心としたSFミステリーの傑作として広く知られている。
物語は、月面で宇宙服を着た人間の死体が発見されるところから始まる。しかし調査の結果、その死体は五万年以上前に死亡していたことが判明する。
この驚くべき謎を解くため、国連宇宙軍は多分野の科学者を集めて調査を開始する。物理学、生物学、言語学、惑星科学などの知見を総動員した研究によって、やがて人類の起源に関わる驚くべき真実が明らかになっていく。
本作は登場人物のドラマよりもアイデアと論理的推理に重点を置いている。物語は科学捜査として展開し、純粋な推理小説のような構造になっている。

著者について
ジェイムズ・P・ホーガン(1941–2010)はイギリス出身のSF作家である。電子工学技術者として働いた後に作家活動を開始した。
ホーガンの作品は、厳密な科学知識と論理的思考に基づくハードSFの系譜に属する。
代表作は、『星を継ぐもの』(1977年)、『ガニメデの優しい巨人』(1978年)、『巨人たちの星』(1981年)などの「巨人たちの星」シリーズである。
「巨人たちの星」シリーズは、壮大な宇宙史と人類起源の謎を扱うSFとして高く評価されている。
出版履歴
初版は1977年に英国でデル・レイ・ブックスから刊行された。
米国版は1978年にベイン・ブックスから刊行された。
解説
本作の最大の特徴は、科学的証拠を積み重ねて歴史上の巨大な謎を解いていく構造にある。
物理学、進化生物学、言語学、惑星科学など多様な分野の知識が動員され、推理の過程そのものが物語の中心となる。
この手法は、アイザック・アシモフの『鋼鉄都市』(1953年)やロバート・J・ソウヤーの『ゴールデン・フリース』(1990年)のような作品としばしば比較される。
本作は、SF的なスケールの壮大さとミステリーの論理性が高度に融合した作品として評価されている。
続編について
『星を継ぐもの』は後に「巨人たちの星」シリーズの第一弾となった。
- 『ガニメデの優しい巨人』(1978年)
- 『巨人たちの星』(1981年)
- 『内なる宇宙』(1991年)
- 『ミネルヴァ計画』(2005年)
これらの続編では、ルナリアンやガニメアンと呼ばれる異星人の謎と、太陽系のより深い歴史がさらに探求されている。
漫画化作品
日本の漫画家、星野之宣による本作の漫画化作品が2011–2012年に漫画雑誌『ビッグコミック』で連載され、小学館から4巻の単行本として刊行された。
この漫画版は続編の『ガニメデの優しい巨人』と『巨人たちの星』のエピソードを含む翻案である。
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主な登場人物
ヴィクター・ハント
イギリス人の原子物理学者。物語の中心人物。ルナリアン研究プロジェクトの調整役となる。
グレッグ・コールドウェル
国連宇宙軍航行通信局(ナヴコム)本部長。プロジェクトの責任者。
リン・ガーランド
コールドウェルの秘書。分析力に優れ、調査にも重要な示唆を与える。
クリスチャン・ダンチェッカー
生物学者。ルナリアンが地球起源であるという説を強く主張する。
ドン・マドスン
言語学者。ルナリアンの言語や記録の解読を担当する。
フランシス・フォーサイス=スコット
メタダイン社の常務取締役。
ロブ・グレイ
メタダイン社の技術者で、ハントの協力者。
チャーリー
月面で発見された宇宙服の死体。ルナリアンと呼ばれる人種の一員。
あらすじ(ネタバレあり)
プロローグ
物語は、遠い過去の惑星で二人の男が荒野を越えて逃走する場面から始まる。
男の一人、コリエルは歩けなくなった仲間を洞窟に残し、救援を呼ぶために出発する。
月面の死体
物語の本編は、月面で発見された宇宙服姿の死体から始まる。
死体は「チャーリー」と呼ばれ、地球に運ばれて調査される。
科学者たちは以下の驚くべき事実を発見する。
- 死体は現代人とほぼ同じ生物学的構造を持つ
- 死亡したのは約五万年前
- 所持していた装備には高度な科学技術が使われている
これらの事実は、人類史の常識を根底から揺るがすものだった。
ルナリアン文明の痕跡
調査が進むにつれ、月面の地下からさらに多くの遺物や遺骸が発見される。
またチャーリーの手帳や装備の解析から、彼らがルナリアンと呼ばれる文明人であったことが判明する。
研究者たちは様々な仮説を提出する。
- 地球に存在した失われた文明説
- 火星など他の惑星が起源とする説
- 地球人の植民地説
しかし決定的な証拠は見つからない。
惑星ミネルヴァ
やがて研究者たちは、かつて太陽系にミネルヴァという地球型惑星が存在したという結論に到達する。
その惑星は火星と木星の間に位置していた。
ルナリアンはこの惑星の文明人であり、五万年前に起こった核戦争によって惑星が崩壊し、小惑星帯が形成された可能性が示される。
ガニメデの発見
さらに木星の衛星ガニメデでは、巨大な宇宙船と異星人の骨格が発見される。
この異星人はガニメアンと呼ばれる種族で、二千五百万年前にミネルヴァに到来していた可能性が浮上する。
ハントの仮説
ハントはすべての証拠を総合して大胆な仮説を提示する。
- かつて太陽系には第10惑星ミネルヴァが存在した
- 現在地球の周りを周回している月は、かつてはミネルヴァの衛星だった
- 五万年前、大規模な戦争によってミネルヴァが爆発した
- その際に月が地球の重力によって捕えられた
つまり、地球の月はもともとミネルヴァの月だった。
人類の祖先
さらに生物学的研究から、驚くべき可能性が浮上する。
人類は地球で進化したのではなく、ミネルヴァで進化した種族である。
ミネルヴァ崩壊後、生き残ったルナリアンが地球へ移住し、現生人類の祖先となった可能性が示唆される。
