概要
『呪怨』は、清水崇が監督・脚本を手がけ、東映ビデオが製作した日本のオリジナルビデオ作品である。清水崇の初長編監督作品にあたる。

2000年に『呪怨』とその続編『呪怨2』が東映ビデオからVシネマとしてリリースされた。収録時間は『呪怨』が約70分、『呪怨2』が約76分だが、『呪怨2』の冒頭部には『呪怨』の後半との重複(約30分)が存在する。
強い怨みを抱いて死んだ者の呪いが、特定の家屋に残留し、そこに接触した人々に連鎖的に伝播するという設定のもとで、女幽霊の佐伯伽椰子とその息子の佐伯俊雄が引き起こす怪異を描いている。
白塗り姿の幽霊をはっきりと映す実体的な幽霊描写と、オムニバス形式で複数のエピソードをパズル状に組み合わせた非線形的な構成が特徴である。
製作は東映ビデオ。
プロデューサーは一瀬隆重、高島正明、加藤和夫。
監修は高橋洋。
監督・脚本は清水崇。
撮影は木次信仁。
音楽はゲイリー芦屋。
主なキャストは、柳ユーレイ(小林俊介役)、三輪ひとみ(由紀役)、三輪明日美(村上柑菜役)、栗山千明(田村瑞穂役)、芦川誠(鈴木達也役)、大家由裕子(鈴木響子役)、藤井かほり(北田良美役)、藤貴子(佐伯伽椰子役)、小山僚太(佐伯俊雄役)、松山鷹志(佐伯剛雄)。
言語は日本語。カラー、ビデオ撮影。スタンダードサイズ(4:3)。
プロットの概要
小学校教師の小林俊介は、長期欠席中の生徒、佐伯俊雄の家庭訪問に訪れ、そこで俊雄の母親の伽椰子の変死体を発見する。伽椰子は夫の佐伯剛雄に殺害され、息子の俊雄とともに怨霊と化していた。
佐伯剛雄は小林の家族を殺害し、小林も伽椰子の呪いによって命を落とす。
その後、かつて佐伯家が住んでいた家に引っ越してきた村上家の人々とその関係者たちにも呪いが及び、行方不明や変死が相次ぐ。
さらに数年後、不動産業者の鈴木達也は空き家となったかつての佐伯家を北田夫妻に売り、夫妻は佐伯家に移り住む。伽椰子の呪いは北田夫妻、鈴木とその家族、一連の事件を捜査していた刑事たちにも及び、終わることのない呪いの連鎖が感染症のように拡大してゆく。
解説
製作の経緯・背景
清水崇は群馬県出身。大学在学中に脚本家の石堂淑朗に師事した後、映画美学校に通いながら映画現場でスタッフとして経験を積んだ。
映画美学校在学中に映像課題として撮影した3分ほどの短編『家庭訪問』が『呪怨』の原型となっている。この作品が黒沢清の目に留まり、黒沢の推薦によって1998年放映の関西テレビのオムニバスホラー番組『学校の怪談G』で短編2本(『片隅』と『4444444444』)を監督した。この2本が清水の初商業作品となった。
この短編2本を気に入った『リング』のプロデューサーの一瀬隆重が、東映Vシネマのホラー2本の監督を清水に依頼した。
本作は主にソニーのアナログビデオカセットレコーダーのBETACAM(ベータカム)を使用して撮影された。
撮影は9日間で2本撮りという短い期間で行われた。
主なロケーション場所は埼玉県所沢市内である。
公開・リリース
日本
『呪怨』と『呪怨2』は2000年2月〜3月にVシネマとしてVHSでの販売とレンタル、DVDレンタルが開始され、2003年にDVDのセル版が発売された。

発売当初のセールスは低調だったが、口コミで「怖い」という評判が広がり、後の劇場映画化につながった。
2021年にデジタルリマスター版がブルーレイで発売された。
4K:Vシネマ版(2025年)
2025年に清水崇監督の完全監修のもと4Kリマスター・5.1chサラウンド化が施された『呪怨〈4K:Vシネマ版〉』と『呪怨2〈4K:Vシネマ版〉』が劇場公開(DCP上映)された。
4Kリマスター版は2026年に4K ULTRA HD Blu-rayで発売された。
この4Kリマスター版は、オリジナルのビデオマスターをソニーPCLの技術「RS+」を用いて4Kマスターへアップスケーリングしたものである。ビデオ特有のノイズや解像度不足が低減され、オリジナルよりは精細な映像になっているが、マスターが低解像度のビデオ映像であるため、フィルムの4Kレストアのような高解像度の映像にはなっていない。
日本国外
2022年にアロー・ビデオ(イギリス)はブルーレイBOX『Ju-On: The Grudge Collection』(リージョンB)を発売した。このボックスは2000年のビデオ版2本、2003年の劇場版2本、『白い老女』『黒い少女』を英語字幕付きで収録している。
実体的な幽霊描写
中田秀夫監督の映画『リング』(1998年)は、貞子がTV画面から這い出てくるクライマックスの描写に象徴されるように、幽霊を実体的な「怪物」として扱う傾向を示していた。
『呪怨』はこの傾向をさらに推し進めており、最初から幽霊を心理的な暗示ではなく日常空間に干渉する実体として描いているのが特徴である。
『呪怨』では怨霊であるはずの伽椰子や俊雄が白塗り姿で怪音や猫の鳴き声とともに登場し、はっきりと映し出される場面が頻出する。
本作における幽霊の過剰なまでの視認性と直接的な描写はほとんどコメディーと紙一重であり、間接的な描写で恐怖を演出する古典的なホラー映画の手法から逸脱している。
『呪怨』シリーズの概要
ビデオ版2作品を原点とする『呪怨』シリーズは、リメイク版やリブート作品などの多数の派生作品を生んでいる。シリーズは佐伯伽椰子とその息子の俊雄の死によって生まれた呪いが家屋を中心に拡大する世界観を共有している。
以下は日本とアメリカ合衆国で製作された『呪怨』シリーズの一覧である。
日本版
- 『呪怨』(2000年、ビデオ)
- 『呪怨2』(2000年、ビデオ)
- 『呪怨』(2003年、映画)
- 『呪怨2』(2003年、映画)
- 『呪怨 白い老女』(2009年、映画)
- 『呪怨 黒い少女』(2009年、映画)
- 『呪怨 終わりの始まり』(2014年、映画)
- 『呪怨 -ザ・ファイナル-』(2015年、映画)
- 『呪怨: 呪いの家』(2020年、Netflixオリジナルドラマ)
2000年のビデオ版2本と2003年の劇場版2本が清水崇監督によるオリジナルである。
2009年の『呪怨 白い老女』と『呪怨 黒い少女』は番外編、2014~2015年の『呪怨 終わりの始まり』と『呪怨 -ザ・ファイナル-』は落合正幸監督によるリブート作品、2020年の『呪怨: 呪いの家』は三宅唱監督による全6話の連続ドラマ化作品である。
上記以外に、『リング』シリーズと『呪怨』シリーズのクロスオーバー作品として制作された映画『貞子vs伽椰子』(2016年、白石晃士監督)がある。
上記の他にゲーム、ノベライズ、漫画、舞台など多数の派生作品が存在する。
米国版
- 『THE JUON/呪怨』(2004年、映画)
- 『呪怨 パンデミック』(2006年、映画)
- 『呪怨 ザ・グラッジ3』(2009年、ビデオスルー)
- 『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』(2020年、映画)
『THE JUON/呪怨』とその続編の『呪怨 パンデミック』は清水崇監督によるハリウッド版リメイク、『呪怨 ザ・グラッジ3』はトビー・ウィルキンス監督によるハリウッド版リメイクの第3作、『ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷』はニコラス・ペッシェ監督によるリブート作品である。
ビデオ版(2000年)と劇場版(2003年)の比較
2003年の劇場版はビデオ版と同じく清水崇が監督・脚本を担当し、伽椰子・俊雄というキャラクターも引き継いでいるが、出演者を全面的に入れ替え、エピソード構成も大きく改変しているため、ビデオ版と劇場版はそれぞれ独立した作品として捉えるべきである。
ビデオ版はVHS/DVDレンタル市場での流通とブラウン管モニターでの鑑賞を想定して低予算で制作された作品であるため、大画面で観ると解像度の低さが目立つが、荒い画質で固定ショットを多用して日常空間における幽霊の出現を捉える演出が実録映像のような不気味さを醸し出している。
劇場版は映画館向けに視覚効果と音響が強化され、演出もより洗練されており、ホラー映画としての娯楽性と視覚的な完成度が高い。
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あらすじ(ネタバレあり)
呪怨
冒頭で以下のテロップが表示される。
「じゅおん【呪怨】つよい怨みを抱いて死んだモノの呪い。それは、死んだモノが生前に接していた場所に蓄積され、「業」となる。その呪いに触れたモノは命を失い、新たな呪いが生まれる。」
「俊雄」
小学校教師の小林俊介(柳ユーレイ)は妊娠中の妻の真奈美(優恵)と二人で暮らしている。
小林のクラスには佐伯俊雄(小山僚太)という名の長期欠席中の生徒がいた。俊雄は父親の佐伯剛雄(松山鷹志)と母親の佐伯(旧姓: 川又)伽椰子(藤貴子)の一人息子だった。
伽椰子は小林と真奈美の大学時代の同窓生だった。
佐伯家は東京都練馬区の一軒家に住んでいた。俊雄の家庭訪問に訪れた小林は、両親が不在の家でゴミが散乱した居間に傷だらけの俊雄が一人でいるのを発見する。庭には猫のお墓に立てられていた木札が倒れている。
「由紀」
由紀(三輪ひとみ)は家庭教師として村上家(かつての佐伯家)を訪れ、中学生の従妹の村上柑菜(三輪明日美)に勉強を教える。
柑菜の母親の典子(吉行由実)は二人に麦茶とお菓子を出して外出する。
柑菜は高校生の兄の強志(安藤一志)に瑞穂という名の彼女ができたことを由紀に教える。
柑菜は中学校で飼育しているウサギの飼育当番の日だったことを思い出し、中学校に出かける。
部屋で一人になった由紀は、軋み音のような謎の音と、CDプレイヤーが再生中に同じ箇所を繰り返す現象に怯えて帰ろうとする。
室内に現れた黒猫に怯えた由紀は押し入れに逃げ込む。そこから屋根裏を覗き込んだ由紀は長い髪の女を発見し、由紀は女に屋根裏に引き込まれる。
強志は家を出て自転車で高校へ向かう。
「瑞穂」
高校生の田村瑞穂(栗山千明)は、放課後の高校で強志を捜す。瑞穂は強志の自転車を発見するが、強志は見つからない。強志は携帯電話を教師に没収されているため、瑞穂は強志と通話ができない。
瑞穂は校舎の前に落ちている携帯電話を見つけて拾う。
教師の中村先生(洞口依子)は瑞穂に、強志がいないか校内を見てくるから職員室で待つようにと言う。
瑞穂は携帯電話で村上家に電話し、強志が帰宅していないか聞くが、通話の途中で応答がなくなる。
蛍光灯が点かないために暗い職員室で一人で待つ瑞穂は、室内にいる人の存在に怯える。
拾った携帯電話に番号「444444444444」から着信があり、瑞穂が電話に出ると猫の鳴き声が聞こえる。
瑞穂は自分のすぐそばに白塗りの男児がいるのを発見する。男児は猫の鳴き声を発する。
「柑菜」
警察内の遺体安置所に女子中学生のバラバラ死体が安置されている。監察医(並樹史朗)は吉川刑事(でんでん)と神尾刑事(諏訪太朗)に、バラバラ死体にウサギの死骸と別人の下顎が混入していると言う。
飯塚刑事(芹澤礼多)の聞き取り調査によると、事件発生時に現場では村上柑菜ともう一人の中学生がウサギの飼育当番中だった。
村上家に柑菜の母親の典子が帰ってくる。村上家の郵便受けに佐伯剛雄宛の手紙が投函されている。
固定電話に瑞穂から電話がかかってくる。典子は強志はまだ帰っていないようだと答える。
典子は血まみれで下顎がない柑菜が帰宅し、2階へ上がってゆくのを発見して絶叫する。
「伽椰子」
小林は佐伯家の居間で寝ている俊雄とともに両親の帰りを待つ。小林はばらばらに破かれた家族写真を見つける。写真の断片をジグソーパズルのように組み合わせると、伽椰子の顔だけが欠落している。
猫の鳴き声に導かれて浴室に入った小林は、両手が血まみれの幻覚を見る。居間に戻ると俊雄がいなくなっている。
俊雄の部屋から「お父さんはママを殺しちゃった…」という呟きが聞こえる。部屋では俊雄が猫の絵を描いている。
「小林君」という女性の呼び声が聞こえる。小林は伽椰子の部屋で一冊のノートを見つける。そのノートは小林への偏執的な愛情を綴った文章で埋め尽くされていた。
小林は押し入れから屋根裏にある伽椰子の変死体を発見し、俊雄を連れて家の外へ出ようとする。
小林の携帯電話に伽椰子の夫の佐伯剛雄から電話がかかってくる。剛雄は小林に、「伽椰子には会いましたか?」「今日から俊雄の面倒はよろしくお願いします」「今まで私が先生の代わりに育ててきた」と言う。
血まみれの剛雄が公衆電話ボックス内で通話している。剛雄は血まみれの胎児を手にしながら「赤ちゃん、生まれましたよ」 「これ、女の子ですね」と言って笑う。
小林は血まみれの白塗り姿で2階から階段を這って下りてくる伽椰子を見て絶命する。
剛雄は路上で胎児の死体が入った鞄を放り投げてゴミ捨て場に倒れ込む。ビニールのゴミ袋から剛雄に向かって手が伸びてくる。
「響子」
不動産会社社長の鈴木達也(芦川誠)は中学生の息子の信之と二人で暮らしている。
達也は妹の響子(大家由裕子)に、住人が死んだり行方不明になったりして事故物件となった家(かつての村上家)を見て欲しいと頼む。響子は霊感の持ち主だった。
達也は響子に、村上家では母親と娘が死んでおり、父親だけが生きていると言う。
達也とともに旧村上家を訪れた響子は、そこに残っている呪いを感知し、ここで死んだのはその二人だけではないと言う。
達也は北田洋(翁華栄)とその妻の良美(藤井かほり)に家を売却し、北田夫妻が旧村上家に入居する。
旧村上家を見に行った響子は、意思を失ったような様子で窓辺に佇む良美を見て恐怖する。
呪怨2
「伽椰子」※『呪怨』と重複
「響子」※前半に『呪怨』との重複あり
達也の息子の信之(郭智博)が引っ越したばかりの自宅(団地の205号室)でTVの犯罪サスペンス番組をぼんやりと眺めている。TVの映像がノイズになり、誰かの手が信之の背中に触れる。
響子は知人の佐藤に一連の事件についての調査を依頼する。
響子は佐藤から一連の事件に関する新聞記事のコピーなどの書類を受け取る。新聞記事には、村上家で母親の典子と娘の柑菜が変死し、息子の強志が行方不明であること、佐伯家で小林と俊雄の変死体が発見されたことが書かれていた。
響子は兄の達也の不動産会社を訪れ、事務員(斉藤繭子)に書類を預けて達也に渡すように依頼する。
その夜、響子は達也の家を訪れる。響子は玄関の壁の木箱に魔除けのお札が入っているのを見つける。
響子はTVの前で気を失っている信之を発見する。
隣室の女性が訪ねてきて、今赤ちゃんの泣き声と女性の悲鳴が聞こえたけど大丈夫ですかと言う。響子は、うちには赤ちゃんなんていませんと言って女性を追い返す。
達也は会社で響子が持ってきた書類を読む。その中には「団地の205号室」で起きた事件に関する文書が含まれていた。
響子と信之は、かつて205号室で起きた惨劇(佐伯剛雄が小林の妻とその胎児を殺害)の幻影を見る。
「達也」
北田家に差出人の記載がない郵便小包が届く。良美が小包を開けると、中には俊雄の絵と伽椰子のノートが入っている。
良美は朝食中に夫の洋の頭をフライパンで殴打する。
達也は響子と信之を両親の家に連れてゆく。伽椰子の呪いに取り憑かれた響子は人形を抱いている。
達也は北田家を訪れ、伽椰子の呪いに取り憑かれた良美と対面する。
達也の両親の家では猫の鳴き声とともに俊雄が現れ、両親が変死する。
「神尾」
事件の捜査を続けている神尾と飯塚は退職した吉川の家を訪れるが、吉川の妻に門前払いされる。
神尾と飯塚は、吉川家の縁側で正気を失って呟いたり叫んだりしている吉川を発見する。
神尾と飯塚は車の中から路上を歩いている信之を監視しながら、一連の事件について話す。飯塚は、信之は1か月前に母親と祖父母が自殺したために親戚の家に預けられていると言う。神尾は、村上家では母親と娘が死亡、息子と父親が行方不明になり、北田夫婦も行方不明になっていると言う。
警察署内で神尾は吉川が撮った窓辺の良美の写真を飯塚に見せ、伽椰子に似ていると言う。神尾はその写真を燃やし、事件の捜査から降りると言う。
吉川家で、吉川の妻は吉川の部屋の天井に巨大な伽椰子の顔が浮かび上がるのを見る。
警察署内で婦人警官が飯塚に伽椰子が面会に来たと告げる。署内に入ってきた伽椰子を見た神尾がパニック状態になり絶叫する。
「信之」
雨の日の中学校で、信之がクラスメイトたちと教室の掃除をしている。
信之が窓から外を見ると白い服を着た髪の長い女性(伽椰子)が立っている。伽椰子が窓から入ってきて四つん這いで信之を追いかける。信之は誰もいなくなった校内を逃げ回る。
校内で伽椰子が多数の個体に増殖する。
「沙織」
かつての佐伯家は空き家になっており、「入居者募集」と書かれた貼り紙がある。家の中から無断侵入した少女たちの話し声と猫の鳴き声が聞こえる。
