概説
『ゼロ・グラビティ』(原題:Gravity)は、アルフォンソ・キュアロン監督による2013年のSFスリラー映画である。英米合作。
地球低軌道で船外活動中のスペースシャトル乗組員が、破壊された人工衛星から生じたスペースデブリ(宇宙ごみ)の雲に襲われ、宇宙空間に孤立する。医療エンジニアのライアン・ストーン博士が、ベテラン宇宙飛行士のマット・コワルスキーとともに地球への生還を目指す過程を、ほぼリアルタイムで描く。

- 製作:アルフォンソ・キュアロン、デヴィッド・ヘイマン。
- 製作会社:ヘイデイ・フィルムズ、エスペラント・フィルモイ。
- 配給:ワーナー・ブラザース。
- 脚本:アルフォンソ・キュアロン、ホナス・キュアロン。
- 撮影監督:エマニュエル・ルベツキ。
- 編集:アルフォンソ・キュアロン、マーク・サンガー。
- 音楽:スティーヴン・プライス。
- 視覚効果:フレームストア。
- 主要キャスト:サンドラ・ブロック(ライアン・ストーン)、ジョージ・クルーニー(マット・コワルスキー)、エド・ハリス(ヒューストン管制の声)、オルト・イグナティウセン(アニンガ)。
- 言語:英語(通信や表示の一部にロシア語、中国語などが登場)。
- 上映時間:91分。
- 製作費:約1億ドル。全世界興行収入:約7億2300万ドル。
予告編
プロットの概要
地球の上空約600キロメートル。初めてのシャトル搭乗任務に就いたライアン・ストーン博士は、宇宙飛行士のマット・コワルスキーらとともにハッブル宇宙望遠鏡の修理作業に従事している。
作業中、ロシアが自国の衛星を破壊した際に生じたデブリが連鎖的に拡散し、高速で軌道上を周回しながら一行を襲う。シャトルは大破し、乗組員の大半が死亡する。生存者はストーンとコワルスキーのみとなる。
通信も途絶するなか、二人は近傍の国際宇宙ステーション(ISS)に残された脱出用宇宙船ソユーズを頼りに地球への帰還を試みる。しかしデブリの群れは約90分周期で再接近しつつあり、酸素の残量も限られている。
解説
制作の経緯・背景
脚本はアルフォンソ・キュアロンと息子のホナスが共同で執筆した。キュアロンは前作『トゥモロー・ワールド』(2006年)で長回しを多用した臨場感の高い映像表現を示しており、本作はその延長線上に位置づけられる。同作で撮影を担当したルベツキが本作でも撮影監督を務めている。
本作が要求した映像表現は既存の撮影手法では実現が難しく、公開までに長い開発期間を要した。
撮影と視覚効果の中心はイギリスで、視覚効果は同国のフレームストアが担当した。
映像技術・撮影技法
本作は冒頭に約13分に及ぶ長回しを置き、その後も長いショットを軸に構成されている。ただしこれらの長回しは、実写の撮影素材とコンピュータ・グラフィックスを合成して成立したもので、実際の宇宙空間や宇宙船を撮影したものではない。作中の宇宙空間や機体の大部分はCGで構築され、実写として撮影されたのは主として俳優の顔と上半身の演技である。
俳優の顔の照明には、LEDパネルで囲まれたライトボックスが用いられた。あらかじめ作成した映像を投影することで、地球や太陽の光が顔に当たる様子を再現する手法である。
カメラは宇宙空間の外観から、ストーンのヘルメット内部の視点へとカットを介さずに移行する。観客は、広大な外部空間の俯瞰と、閉塞した視界の主観とを連続して体験することになる。
作品は3D、およびIMAX 3Dでの上映を前提に設計されており、無重力空間での物体の漂流や、デブリの飛来する奥行きの表現に力点が置かれている。IMAX版ではデジタル再マスタリング(DMR)により、巨大スクリーンと強力な音響が、観客を宇宙空間に没入させる効果をさらに高めた。公開後、IMAX 3D劇場での興行は世界で1億ドルを超えるなど、特別な上映フォーマットが作品の成功を後押しした。
音響・音楽
冒頭のテキストが示すように、宇宙には音を伝える媒質がない。本作は、船外の情景を原則として無音に近い状態で描き、音は宇宙服や機体との接触によって伝わる振動、そして無線通信を通じて表現される。音響デザインはグレン・フリーマントルが担当した。
音楽はスティーヴン・プライスが手がけた。電子的な響きと管弦楽を組み合わせたスコアが、緊迫した場面の進行と同期する形で用いられている。
テーマ分析
本作の主題は、孤立した極限状況での生存と、喪失を抱えた人物の再生である。ストーンは幼い娘を亡くした過去を持ち、物語の序盤では、日常から切り離されたような態度で任務に就いている。母性・喪失・再生というモチーフが、物語全体を貫いている。
作中のいくつかの場面は、誕生や進化のイメージと重ねて解釈されることが多い。たとえば、ISS内部で胎児のように体を丸めて漂う場面や、終盤に水中から岸へ上がり、立ち上がる場面などである。これらは生物学的・神話的な再生の象徴として読まれることが多い。
公開
世界初上映は2013年8月28日、第70回ヴェネツィア国際映画祭のオープニング作品として行われた。アメリカでは2013年10月4日に3DおよびIMAX 3Dで公開された。日本では2013年12月13日に公開された。
評価
本作は映像表現の革新性と没入感の高さで広く評価された。公開当時から現在に至るまで、Rotten Tomatoesでは約96%の支持率を、Metacriticでは加重平均96/100をほぼ維持している。
評価の中心は、長回しとCGの合成によって無重力空間での漂流の感覚を観客に体験させる点にあった。実写と合成の境界を観客に意識させない映像技術、無音を基調とした音響設計、およびブロックの単独演技に近い構成が、称賛の対象となった。
第86回アカデミー賞では、作品賞、主演女優賞(ブロック)、美術賞を含む10部門にノミネートされ、監督賞、撮影賞、編集賞、作曲賞、音響編集賞、録音賞、視覚効果賞の7部門を受賞した。
英国アカデミー賞でも、英国作品賞、監督賞を含む複数部門を受賞している。
批判
科学的に不正確な点が複数指摘されている。天体物理学者のニール・ドグラース・タイソンは、公開直後にハッブル宇宙望遠鏡、ISS、中国の宇宙ステーション「天宮」が、同一の軌道上で相互に近接していることを不自然だと指摘した。実際には、ハッブル宇宙望遠鏡の高度は約540キロメートル前後、ISSは約400キロメートル前後で、軌道傾斜角も大きく異なる(ISSは約51.6度、ハッブルは約28.5度)。
このほか、衛星の破壊によるデブリの連鎖的拡散(いわゆるケスラーシンドローム)という着想自体は実在の理論に基づくが、作中のようにデブリの雲がほぼ同一の軌道上を約90分周期で再来し、乗組員を繰り返し襲う描写は単純化されている。
また、コワルスキーがテザーを外す場面については、微小重力下では慣性の法則により軽い力で互いに引き寄せ合えるため、手を離す必然性が乏しいとの指摘もある。
さらに、ソユーズの燃料や機能、宇宙機同士の乗り換えの容易さも現実の運用とは乖離している。
なお、スペースシャトル計画は2011年に終了しており、作中のシャトルの任務番号(STS-157)は架空のものである。
一方、これらの科学的な不正確さは、物語上の必要から意図的に選ばれた脚色であるとして、作品の価値を損なうものではないとする擁護的な見解もある。
物語の面では、ストーンの亡き娘という設定が感傷的で定型的だとする批評がある。コワルスキーの楽天的な人物像や、再生を暗示する象徴表現の図式性、また少人数の登場人物による単線的な筋立てを、映像表現の水準に比べて物足りないとする見方もある。
ホームメディア
デジタル配信は2014年2月上旬から順次開始され、物理媒体の発売が続いた。
アメリカでは2014年2月25日にDVD、Blu-ray、Blu-ray 3D(コンボパック含む)がワーナー・ホーム・ビデオから発売された。特典には短編『アニンガ:地球との交信(Aningaaq)』、スペースデブリ関連のドキュメンタリー『スペースデブリの脅威(Collision Point: The Race to Clean Up Space)』(ナレーション:エド・ハリス)、ショット解説などが収録されている。
イギリスでは2014年3月3日(デジタルは3月2日頃)に同様のDVD、Blu-ray、Blu-ray 3Dが発売された。
オーストラリアでは2014年2月26日頃にDVDおよびBlu-rayが発売された。
日本では2014年4月23日に「3D&2D ブルーレイセット」および「ブルーレイ&DVDセット」(初回限定生産版)がワーナー・ホーム・ビデオから発売された。後に通常版Blu-ray/DVD(2014年12月)、スペシャル・エディション(2015年)、再発売版などが続いた。特典内容は海外版とほぼ共通し、短編『アニンガ:地球との交信』や撮影の舞台裏映像を含む。
その後、各国でスペシャル・エディションやDolby Atmos対応版、Diamond Luxe版などが再発売された。デジタル配信やストリーミングも継続的に提供されている。
短編映画『アニンガ:地球との交信(Aningaaq)』(2013年)
ホナス・キュアロンが監督した短編映画『アニンガ:地球との交信(Aningaaq)』(2013年)は、劇中でストーンが無線で交信する地上の男性アニンガの側から、同じ通信の場面を描いたものである。ホームメディア特典としても収録されている。
検索リンク
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あらすじ(ネタバレあり)
冒頭に以下のテキストが表示される。
AT 600KM ABOVE PLANET EARTH
THE TEMPERATURE FLUCTUATES BETWEEN +258 AND -148 DEGREES FAHRENHEIT
THERE IS NOTHING TO CARRY SOUND
NO AIR PRESSURE
NO OXYGEN
LIFE IN SPACE IS IMPOSSIBLE
(日本語訳)
地球から高度600キロメートルの上空では、気温は華氏プラス258度からマイナス148度(摂氏約126度から約マイナス100度)の間で変動する
音を伝えるものは何もない
気圧もない
酸素もない
宇宙では生命は不可能である
続いてタイトル「GRAVITY(重力)」が示される。
映画は長回しによる船外の場面で始まる。スペースシャトル「エクスプローラー」の乗組員が、ヒューストンの管制と通信しながらハッブル宇宙望遠鏡の修理作業を行っている。ストーン博士はスキャン・システムの取り付けに従事し、シャリフとコワルスキーが同じ作業に加わる。コワルスキーは軽快に話しながらジェットパックで周囲を移動し、任務の合間にジョークを飛ばす。
そこへヒューストンから「作業を中止し、至急地球に戻れ」との指示が入る。ロシアが自国の衛星を爆破し、その破片が連鎖的に拡散しているという。通信もじきに途絶えると告げられる。
まもなくスペースデブリの群れが襲来し、シャリフが犠牲になる。ストーンはロボットアームから外れ、宇宙空間を高速で回転しながら漂流する。コワルスキーがジェットパックで彼女を救出し、二人はシャトルへ戻る。ヒューストンの警告によれば、約90分後にデブリの大群が再び接近する。
シャリフの遺体を回収すると、破片が顔面を貫通している。エクスプローラーは壊滅的な損害を受けており、船内には他の乗組員の遺体が残されていた。生存者はコワルスキーとストーンのみである。
二人はISSへ向かう。地球へ帰還するにはソユーズが必要である。道中、ストーンは自身の家がイリノイ州レイク・チューリッヒにあること、そして娘がいたが4歳で亡くなったことを明かす。酸素タンクの残量が急速に減っていく。
ISSに近づいた際、ストーンの体はテザーで繋がれた状態にあり、コワルスキーはストーンに手を離すよう促す。コワルスキーは「無事に帰還しろ」と告げ、自ら手を離して宇宙空間へ消える。
ストーンはエアロックからISS内部に入る。コワルスキーは、ソユーズで中国のステーションまで行くようにと言い残していた。
ストーンは通信システムでコワルスキーとの交信を試みるが、応答はない。彼女は、STS-157のただ一人の生存者となる。
ISS内で火災が発生し、ストーンはソユーズの切り離しを急ぐ。7分以内に脱出しなければならない。ところがパラシュートの紐が絡まり、ソユーズは離脱できない。ストーンは船外に出て紐を外そうとするが、そこへデブリが飛来する。ISSは粉砕される。
ストーンはソユーズに戻り、中国のステーション「天宮」を目指す。メインエンジンを始動させるが、燃料切れで再び漂流する。ストーンは通信で救助を求めるが、応答した地上の男性アニンガとは話が通じない。アニンガは犬の鳴き真似をして応じ、ストーンは自らの死への恐怖を一方的に語る。無線の向こうでは子守歌と赤ん坊の泣き声が聞こえる。
やがて夢とも幻覚ともつかない場面で、コワルスキーが窓を叩き、船内に入ってくる。彼はストーンに、ソユーズの降下用の逆噴射を推進に転用する方法を示唆し、生きて帰還するよう告げる。「着陸は発射と同じ」と彼は言う。
ストーンは目を覚まし、コワルスキーに向けて、亡き娘への伝言を呟く。ストーンはコワルスキーに、サラという名の茶色の髪の女の子に会ったら、なくした赤い靴を見つけたと伝えるように頼む。
ストーンは軌道モジュールと推進モジュールを切り離し、逆噴射の力で天宮へ向かう。天宮のハッチを開けて内部に入り、宇宙船「神舟」に乗り込み、天宮から切り離す。宇宙船は地球へ落下し、大気圏に突入後、パラシュートが開く。ヒューストンから通信が入る。
着水した宇宙船は水中に沈み始める。ストーンは船内から脱出し、水面を目指す。やがて岸に這い上がり、「ありがとう」と呟いて、立ち上がる。
