概要
『ザ・レイド』(インドネシア語原題:Serbuan Maut、英題:The Raid: Redemption)は、2011年に公開されたインドネシアのアクション/犯罪スリラー映画である。
ジャカルタのスラムにある高層集合住宅を舞台に、警察特殊部隊が犯罪組織の拠点を急襲するが、逆に建物内部に閉じ込められ、脱出と任務遂行のために戦闘を強いられる状況が描かれる。
インドネシア武術プンチャック・シラットを全面的に用いた近接格闘アクションが特徴である。
低予算(約110万ドル)ながら、インドネシア国内外でヒットし、アクション映画として高い評価を受けた。
監督・脚本・編集はギャレス・エヴァンス。
主演はイコ・ウワイス。
製作者はアリオ・サガントロ。
撮影はマット・フラネリー、ディマス・イマム・スボノ。
音楽は、オリジナルのインドネシア版はファジャール・ユスクマル、アリア・プラヨギ。米国版はマイク・シノダ、ジョセフ・トラパニーズ。
製作会社はメランタウ・フィルムズ、XYZフィルムズ、セルロイド・ナイトメアズ。
言語はインドネシア語。
101分。

予告編
ポスター

あらすじ
ジャカルタのスラムにある30階建ての高層アパートは、犯罪王タマ・リヤディ(レイ・サヘタピー)が支配する無法地帯である。タマは右腕のアンディ(ドニー・アラムシャー)と執行役のマッド・ドッグ(ヤヤン・ルヒアン)を通じて建物を統治し、犯罪者や麻薬中毒者に部屋を貸し与えることで組織を維持している。
妊娠中の妻と暮らしている新人警官のラマ(イコ・ウワイス)は、警察の特殊部隊に所属し、巡査部長のジャカ(ジョー・タスリム)とワヒュ警部補(ピエール・グルノ)に率いられた20名の部隊とともに、このアパートへの急襲作戦に参加する。作戦の目的はタマの逮捕である。
部隊は建物への潜入と初期制圧に成功するが、見張りの少年により作戦が露見する。タマは館内放送で住人に警官の殺害を命じ、さらに外部との通信を遮断する。部隊は建物内部に孤立し、階ごとに待ち構える武装集団との戦闘を強いられる。
戦闘の過程で部隊は分断され、多くの隊員が死亡する。隊員のボウォ(テガール・サトリヤ)は重傷を負って戦闘不能となり、ラマはボウォを安全な場所に隠して単独行動を余儀なくされる。
ラマは単独行動中にタマの側近として活動している兄のアンディと再会する。ラマのもう一つの目的は、闇社会に堕ちたアンディを連れ戻して父と和解させることだった。アンディはラマを匿い、ラマにここから脱出しろと言う。
ジャカはワヒュと隊員のダグ(エカ・ラハマディア)とともにラマとボウォの救出のために上階へ向かう。
ジャカは、ワヒュがタマを排除して自身の利益を得るために上層部に無断でこの作戦を実行したことを知る。
ジャカを発見したマッド・ドッグはジャカに銃を突き付けるが、素手の格闘を好むマッド・ドッグは銃を捨ててジャカに戦いを挑む。ジャカはマッド・ドッグとの格闘の末に殺害される。
アンディがラマを匿ったことに気づいたタマはマッド・ドッグに命じてアンディに拷問をさせる。
マッド・ドッグがアンディを拘束して暴行している部屋にラマが入ってくる。マッド・ドッグはアンディの拘束を解く。
ラマ、アンディとマッド・ドッグの間で死闘が始まる。

解説
制作の背景
本作の監督を務めたウェールズ出身のギャレス・エヴァンスは、インドネシア滞在中に伝統武術プンチャック・シラットに注目し、その実践者であるイコ・ウワイスやヤヤン・ルヒアンと協働関係を築いた。
エヴァンスは『ザ・レイド』に先立ち、シラットを前面に押し出したアクション映画『ザ・タイガーキッド 〜旅立ちの鉄拳〜(Merantau)』(2009年)を監督している。同作は、伝統的な修行文化(メランタウ)を背景に、屋外ロケーションや移動を伴う物語構造の中でシラットの動きを提示する作品であり、シラットを映画的に見せるための基礎的な方法論がここで確立された。
その後、エヴァンスはより大規模な犯罪映画(後の『ザ・レイド2』に発展する企画)を構想していた。しかし、資金調達や制作条件の制約からこの企画は直ちには実現できず、代替として、より低予算かつ限定的な条件で実現可能なプロジェクトとして本作が企画された。
このような経緯から『ザ・レイド』は、『ザ・タイガーキッド』で確立されたシラットの映画的表現をさらに純化・先鋭化する方向で設計された。すなわち、舞台を単一の高層建築内部に限定し、物語的要素を最小限に抑えることで、近接戦闘の連続性と強度を最大化する構造が採用されている。銃器にはエアソフトガンが使用され、発砲や着弾の表現はデジタル処理によって補完された。
また、制作費の制約(推定約110万ドル)は、単一ロケーション、限定された時間軸、少数の主要キャラクターといった形式的選択を促し、結果として本作のミニマルかつ集中的なアクション設計に寄与した。
プンチャック・シラット
プンチャック・シラットは、インドネシアを中心に東南アジアで広く実践されている伝統武術であり、打撃、関節技、投げ技、武器術などを含む総合的な格闘体系である。地域や流派ごとに多様な様式が存在し、舞踊的な動作や儀礼的要素を含む点も特徴とされる。
本作では、このプンチャック・シラットがアクションの基盤として全面的に用いられており、特に近接距離での連続的な打撃、崩し、関節操作といった技術が強調されている。
構成
本作は、個々の戦闘シークエンスをエピソードとして連結することによって全体が構成されており、物語的な因果関係は最小限に抑えられている。
序盤は警察の特殊部隊とギャングとの銃撃戦が中心である。
中盤では建物内で分断された隊員たちが各階で待ち構える敵と遭遇するエピソードが描かれ、サバイバル・ホラー的な緊張と擬似ゾンビ映画的構造が導入される。
戦闘様式は銃器中心から刃物、さらに素手による近接格闘へと段階的に移行する。
終盤ではアクションはさらに純化され、戦闘は個人間の直接的な対決へと集約される。終盤でラマがアンディと共闘してマッド・ドッグと長時間の近接格闘を行うシーンは、本作の最大の見どころとなっている。
公開
本作は2011年のトロント国際映画祭で初上映され、その後インドネシア国内および国際市場で公開された。北米では配給会社のソニー・ピクチャーズ・クラシックスがタイトルの権利を確保できなかったため、副題「リデンプション」(贖罪)が追加された。
受賞・ノミネート
本作は各国映画祭で高い評価を受け、以下のような受賞歴を持つ。
- トロント国際映画祭 ミッドナイト・マッドネス観客賞(受賞)
- ダブリン国際映画祭 最優秀作品賞(受賞)
- インディアナ映画ジャーナリスト協会賞 外国語映画賞(受賞)
- その他多数のノミネート(NAACPイメージ・アワードなど)
影響
本作は2010年代以降のアクション映画に対して顕著な影響を与えたとされる。特に、格闘主体のリアル志向アクション、ワンロケーション構造、近接戦闘の可視性重視といった要素は、キアヌ・リーブス主演のアクション・スリラー映画『ジョン・ウィック』シリーズなどの後続作品において参照されていると指摘される。
続編
2014年に本作の続編『ザ・レイド GOKUDO(The Raid 2)』が公開された。前作に引き続き、ギャレス・エヴァンスが監督・脚本を務め、イコ・ウワイスが主演を務めている。本作の直後から物語が接続され、主人公ラマが潜入捜査に身を投じる形で、より大規模な犯罪組織と警察内部の腐敗を描く構造へと拡張されている。
