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ヴァンダの部屋(2000年)

概説

『ヴァンダの部屋』(ポルトガル語原題: No Quarto da Vanda、英題: In Vanda’s Room)は、ポルトガルの映画監督、ペドロ・コスタによる2000年の長編映画である。ポルトガルの首都リスボン郊外の貧困地区フォンタイーニャスを舞台に、ヘロイン中毒のヴァンダ・ドゥアルテとその周辺住民の日常を捉えた作品で、コスタの「フォンタイーニャス三部作」の第2作にあたる(第1作『骨』(1997年)、第3作『若者よ』(2006年))。

劇映画として企画された前作『骨』にヴァンダが出演したことを契機に、35mmフィルムの大規模制作から離れ、小型デジタルビデオカメラと最小限のスタッフで2年近くにわたり現地で撮影された。フィクションとドキュメンタリーの境界を曖昧にし、固定ショットを中心とした長回しと自然光・室内光を活かした映像が特徴である。上映時間は171分で、劇的なプロットを排除した観察的な形式を取っている。

ポルトガル、ドイツ、スイスを中心とした共同製作(イタリアなど他国も参加)。

製作会社はコントラコスタ・プロドゥソンイス(ポルトガル)、パンドラ・フィルム(ドイツ)、ヴェントゥーラ・フィルム(スイス)ほか。

監督・脚本・撮影はペドロ・コスタ。

編集はドミニック・オーヴレイ、パトリシア・サラマーゴ。

主な出演者はヴァンダ・ドゥアルテ、レナ・ドゥアルテ(母親)、ジータ・ドゥアルテ(妹)、ニューロ、パウロ、パンゴほか(実在の住民たちによる出演)。

言語はポルトガル語(一部カーボベルデ・クレオール語)。

画面サイズは1.33:1(標準テレビサイズ、4:3)。

予告編

ポスター

あらすじ

舞台はリスボンの郊外に位置する貧困層の移民街・フォンタイーニャス。

物語は明確なプロットを持たず、ヴァンダの狭い部屋を中心に、再開発による取り壊しが進むフォンタイーニャス地区の住民たちの日常が断片的に描かれる。屋外ではブルドーザーやショベルカーの解体音が絶えず響いている。

カメラは部屋の内部や路地、崩れゆく建物に据え置かれ、人々の動作、声、物質的な環境を長時間にわたり記録する。劇的な出来事はほとんど発生せず、住民たちの生活リズムと地区の物理的な崩壊が並行して進行する。

ヴァンダ・ドゥアルテはヘロインに依存し、ほとんどベッドの上ですごす。顔はげっそりとし、不健康にやせ細った姿で、時折激しく咳き込む。野菜を売り歩くのが表向きの生業である。彼女は母親のレナ・ドゥアルテを深く愛しているが、父親は家を出ており、継父と思われる家族の男性との関係はうまくいっていない。姉のネラは服役中で、ヴァンダは彼女に面会するために刑務所を訪れた経験を語る。姉の子どもと思われる赤ん坊も家族とともに暮らしている。妹のジータもヴァンダとともにヘロインを吸引している。

カーボベルデ系の青年パンゴ(アントニオ・“パンゴ”・セメド)は近くに住み、引っ越しを考えている。ヴァンダの幼馴染であるニューロは最近立ち退きを余儀なくされ、鳥かごで小鳥を飼う描写とともに登場する。彼はヴァンダの部屋を訪れて過去や人生、運命について長く語り合う。ニューロの友人であるパウロは左足が不自由で松葉杖をつき、二人で暗い部屋でヘロインを注射しながら過去のトラブル、人生の後悔、母親への想い、ストリートでの苦労などを語る。

解説

公開

本作は2000年8月にロカルノ国際映画祭で初上映された。

制作の背景

コスタは前作『骨』の35mm劇映画制作で大所帯のスタッフと高コストに疑問を抱き、フォンタイーニャスに戻った。ヴァンダとその他の住民たちとの関係を基に、小型DVカメラ(Panasonicなど)を用い、ほぼ単独または最小クルーで撮影を開始。180時間以上の素材を蓄積し、編集で約3時間にまとめた。照明は自然光や室内光、反射板程度に制限し、35mm並みの画質をデジタルで追求した。

背景には、ポルトガルの旧植民地カーボベルデからの移民労働者たちが暮らす地区の貧困、薬物問題、再開発による強制移住がある。コスタは住民たちと長期間生活をともにし、撮影を通じて彼らの生活素材を映画的形象に高めた。

映画としての特徴

本作の特徴は、空間の物質性と時間的な持続に対する強い執着である。

低照度下での撮影により、暗部と光のコントラストが強調され、部屋の壁や家具、人物の身体といった空間の物質的条件が強く前景化される。

固定カメラによる長回しは、部屋の細部、窓からの光、人物の微かな動きを詳細に記録する。光と影のコントラストは、ルネサンス〜バロック風の絵画的な構図を生み出す。音響も重要な要素であり、咳、会話、解体機械の音、沈黙などが空間そのものを構成する。

フィクション的な要素(リハーサルや演出)は存在するが、出演者たちは自身を演じ、日常の動作を基調としているため、ドキュメンタリー的な質感が極めて強い。

本作は劇的な展開や内面的な心理描写を排除し、出来事の再現ではなく、物質的・身体的な現実の持続そのものを強調している。

評価・受容

批評家からはデジタル映像の可能性を切り拓いた作品として高く評価され、Rotten Tomatoesでは限られたレビューではあるが100%の支持を獲得した。その一方で、本作は上映時間の長さと緩慢な展開によって、一般の観客にとってはハードルが高い作品となっている。

学術・批評界では、ネオリアリズムやロベール・ブレッソン的な厳格さ、ポストコロニアルな文脈での移民労働者表象との関連で議論の対象となっている。

受賞

  • 2001年 山形国際ドキュメンタリー映画祭 FIPRESCI賞
  • 2002年 カンヌ国際映画祭 フランス文化賞(外国シネアスト賞(外国映画作家賞)、ペドロ・コスタ)

影響

本作はコスタの作風の転換点となり、『若者よ』などの以後の作品で住民たちの移住後を描く基盤となった。

デジタル時代における低予算・小規模制作のモデルを示したことで、観察映画やドキュフィクションの潮流にも影響を与えた。

フォンタイーニャス地区の記録としても、消滅した空間の映像アーカイブとなっている。

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