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Frank Zappa: Hot Rats (1969)

概説

『ホット・ラッツ(Hot Rats)』は、イーゴリ・ストラヴィンスキーやアントン・ヴェーベルン、エドガー・ヴァレーズを含む20世紀の現代音楽とドゥーワップやリズム・アンド・ブルース(R&B)などのアフリカ系アメリカ人の音楽に影響を受け、ロック、ポップ、ジャズ、オーケストラやミュジック・コンクレート作品などの多様なスタイルのハイブリッドな音楽で1960年代後半から1990年代初頭にかけて多くのミュージシャンに多大な影響を与えたアメリカ合衆国のミュージシャン・作曲家・シンガーソングライター・バンドリーダー、フランク・ザッパ(Frank Zappa)の2作目のソロ・アルバムである。

解説

『ホット・ラッツ』はザッパのバンド、マザーズ・オブ・インヴェンション(The Mothers of Invention)解散後の1969年に録音され、同年にビザール・レコードから発売された。

本作はジャズ・ロック、フュージョンの分野における先駆的な傑作の一つである。

本作はザッパ(guitar, octave bass, percussion)が元マザーズのメンバーでマルチ奏者のイアン・アンダーウッド(piano, organ, flute, clarinets, saxophones)と共同で制作した作品である。

本作は16トラックの録音装置でレコーディングされた最初のアルバムの一つである。この当時の先端技術によって、アンダーウッドによる多数の管楽器とキーボードの多重録音を加えることが可能となった。

本作は本国アメリカよりもヨーロッパ、特にイギリスで高く評価され、全英アルバムチャートで9位を記録し、1970年の『メロディ・メイカー』誌の人気投票(Pop Poll)の国際部門で1位となった。

本作は、複雑な構成のメロディックな楽曲、緻密なアレンジ、ジャズ的な即興演奏が特徴である。室内楽やブルース・ロックの要素も導入されている。

収録曲は6曲で、「ウィリー・ザ・ピンプ(Willie the Pimp)」以外は全曲インストゥルメンタルである。

ザッパが全曲の作曲・編曲・プロデュースを手がけており、全曲でギターを弾いている。

「ピーチズ・エン・レガリア(Peaches en Regalia)」はジャズ・フュージョンのスタンダード曲として広く認知されている有名曲で、アンダーウッドがキーボード、フルート、サックス、クラリネットを演奏し、シュギー・オーティスがベースを弾いている。この曲は1970年に「リトル・アンブレラズ(Little Umbrellas)」をB面としてシングルとして発売された。

「ウィリー・ザ・ピンプ(Willie the Pimp)」はキャプテン・ビーフハートのダミ声ヴォーカル、ドン・”シュガーケイン”・ハリスのエレクトリック・ヴァイオリン、ザッパのギターソロを含むブルース・ロック曲。

「サン・オブ・ミスター・グリーン・ジーンズ(Son of Mr. Green Genes)」は、マザーズのアルバム『アンクル・ミート(Uncle Meat)』(1969年)の収録曲「ミスター・グリーン・ジーンズ(Mr. Green Genes)」をアレンジしたインストゥルメンタル曲で、ザッパによる拡張ギターソロを含んでいる。

「リトル・アンブレラズ」と「イット・マスト・ビー・ア・キャメル(It Must Be a Camel)」は「ピーチズ・エン・レガリア」に似たスタイルのメロディックな曲で、アンダーウッドによる多数のキーボードと管楽器の多重録音を含んでいる。「イット・マスト・ビー・ア・キャメル」ではジャン=リュック・ポンティがヴァイオリンを弾いている。

「ガンボ・ヴァリエーションズ(The Gumbo Variations)」はアンダーウッドによるテナーサックスのソロ、ハリスによるエレクトリック・ヴァイオリンのソロ、ザッパによるギターソロを含む長い(12分超)ジャム演奏。アンダーウッドによるフリー・ジャズのようなフリーキーで荒々しいテナーサックスが印象的である。

1987年にライコディスクから発売されたCDはザッパによるリミックス版。

2019年にザッパ・レコーズは本作のセッション中に録音された音源を収録した50周年記念CD6枚組ボックスセット『The Hot Rats Sessions』を発売した。