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Slint: Spiderland (1991)

概説

『スパイダーランド(Spiderland)』は、アメリカのロックバンド、スリント(Slint)による2作目かつ最後のスタジオ・アルバムである。1991年3月27日にタッチ・アンド・ゴー・レコーズから発売された。録音は1990年8月、シカゴのリヴァー・ノース・スタジオで行われ、エンジニアはブライアン・ポールソンが担当した。収録時間は39分31秒。

バンドのラインナップは、ブライアン・マクマハン(Brian McMahan:ヴォーカル、ギター)、デイヴィッド・パホ(David Pajo:ギター)、トッド・ブラッシャー(Todd Brashear:ベース)、ブリット・ウォルフォード(Britt Walford:ドラムス)である。前作『トゥイーズ(Tweez)』(1989年)がスティーヴ・アルビニのプロデュースによる比較的断片的で実験的な作品だったのに対し、本作はより構造的に整理され、非定型な拍子、急激なダイナミクスの変化、クリーンなギターとディストーションの対比を基調としたサウンドを展開する。歌詞は主にマクマハンとウォルフォードによってスタジオ内で書かれ、語り調のヴォーカルが特徴である。

発売時点でバンドはすでに解散しており、プロモーションはほとんど行われなかった。当初の売れ行きは低調だったが、英国の音楽紙での評価をきっかけに徐々にカルト的な支持を集め、後にポストロックおよびマスロックの基礎的作品と位置づけられるようになった。

制作の背景

スリントは1986年、ケンタッキー州ルイビルで結成された。メンバーは地元のハードコア・パンク・シーンに参加していたティーンエイジャーたちで、当初はパンクの影響が強かったが、次第に独自の方向へ移行した。『トゥイーズ』録音後、ベーシストのイーサン・バックラーが脱退し、ブラッシャーが加入した。

1990年夏にかけて、マクマハンとウォルフォードを中心に6曲の楽曲が練習された。歌詞とヴォーカル・メロディは録音直前まで固められず、スタジオ内で急遽作成された。録音は4日間で完了した。

エンジニアリングを担当したブライアン・ポールソンはライブ的な録音手法を用い、最小限のテイクで収録した。

ジャケット写真はウィル・オールドハムによるもので、インディアナ州ユーティカの採石場の湖にメンバーが浮かぶ白黒写真である。タイトルはマクマハンの弟が音楽を「蜘蛛的(spidery)」と感じたことに由来する。

バンドはアルバム発売前に解散した。

制作手法

録音は商業スタジオの夜間枠を利用して行われた。ポールソンの手法は、アルビニのより攻撃的なアプローチとは異なり、演奏をそのまま捉えるドキュメント的な性格が強い。ギターは主にクリーン・トーンと高域のハーモニクス、鋭いディストーションの切り替えが用いられ、エフェクト・ペダルは最小限に抑えられた。ドラムはウォルフォードの複雑なフィルと拍子変化が特徴で、ベースはブラッシャーが担当した(「Don, Aman」を除く)。

楽曲構造は反復と非反復を組み合わせ、静と動のコントラストを強調している。ヴォーカルはささやき、語り、叫びを交え、ヴォーカル・メロディは楽器トラック完成後に加えられた。

評価

発売当初、アメリカでの批評的な注目は限定的だった。一方、英国ではスティーヴ・アルビニが『メロディ・メイカー』誌で「クソ最高な星10個(Ten fucking stars)」と評するなど肯定的な反応が見られた。『NME』紙は7/10点を付けた。時間の経過とともに評価は上昇し、2014年のリマスター・ボックスセットではMetacriticで99点(11レビュー)を記録した。

AllMusicやPitchforkをはじめとする後年のレビューでは、1990年代のインディー/実験ロックの重要作として扱われ、特にダイナミクスの制御、空間の使い方、語り調のヴォーカルの指摘が多く見られる。初期の販売は数千枚程度だったが、後年の再評価により継続的に言及される作品となった。

音楽史上の影響関係

『スパイダーランド』はポストロックおよびマスロックの形成に直接的な影響を与えた作品として広く認識されている。クリーンなギター・ライン、急激なダイナミクス変化、非定型の拍子、語り中心のヴォーカルといった要素は、1990年代後半以降の多くのバンドに受け継がれた。モグワイ(Mogwai)、ゴッドスピード・ユー!・ブラック・エンペラー(Godspeed You! Black Emperor)、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ(Explosions in the Sky)、トータス(Tortoise。パホが後に参加)などが影響を公に認めている。ポストハードコア、マスロック、一部のポストメタルやエモ系のバンドにも、静と動の対比やギターのインタープレイの手法が波及した。

前作『トゥイーズ』がアルビニ周辺のノイズ/ポストハードコアの文脈に位置づけられるのに対し、本作はテレヴィジョン(Television)やクレイジー・ホース(Crazy Horse)、ミニットメン(Minutemen)的なギター処理、さらにはAC/DC的な機械的グルーヴの要素を取り込みつつ、それらを硬質なダイナミクス制御の中に再配置した点が特徴とされる。発売直後の影響は限定的だったが、1990年代後半から2000年代にかけて、先駆的な作品としての位置づけが確立した。

楽曲解説

1. “Breadcrumb Trail”(作詞・作曲:スリント)

クリーンなギター・ハーモニクスとディストーションの切り替えを基調とする。歌詞はカーニバルでの一日と占い師とのやりとりを描写する。拍子とダイナミクスが頻繁に変化する。

2. “Nosferatu Man”(作詞・作曲:スリント)

ウォルフォードが主なギター・リフを書いた曲。1922年の映画『ノスフェラトゥ』に触発されたタイトルを持つ。不協和音のリフとスネア/タム中心のドラムパターンから始まり、ディストーションのコーラス部を経て延長されたグルーヴへ移行する。

3. “Don, Aman”(作詞・作曲:ブリット・ウォルフォード)

ウォルフォードがギターとヴォーカルを担当。スタジオで初めて他のメンバーに提示された曲である。静かな語りから始まり、テンポと音量を上げてピークに達した後、元のテンポに戻る。タイトルは「Madonna」のアナグラムである。

4. “Washer”(作詞・作曲:スリント)

アルバム最長曲。低音量のギターとシンバルによる導入から始まり、徐々にバンド全体が加わる。最終ヴァースでディストーションが強く入り、長いアウトロへ続く。パホはこの曲のワンノートのギター・ソロを特に気に入っていると語っている。

5. “For Dinner…”(作詞・作曲:スリント)

インストゥルメンタル。標準チューニングのギターを用い、静かなコード進行とドラムのミュートされたビートから緊張と解放を繰り返す構成。

6. “Good Morning, Captain”(作詞・作曲:スリント)

二和音のギター・リフと不規則なドラム・パターンを基調とする。マクマハンのヴォーカルは語りから叫びへと移行し、録音時に声を張り上げて体調を崩したとされる。歌詞は海難を思わせる内容で、サミュエル・テイラー・コールリッジの詩『老水夫行』(1798年)との関連が指摘されるが、バンド側は否定している。

収録曲

合計 39:31

  1. Breadcrumb Trail – 5:55
  2. Nosferatu Man – 5:35
  3. Don, Aman – 6:28
  4. Washer – 8:50
  5. For Dinner… – 5:05
  6. Good Morning, Captain – 7:38

人員

スリント

  • ブライアン・マクマハン – ヴォーカル、ギター
  • デイヴィッド・パホ – ギター
  • トッド・ブラッシャー – ベース(「Don, Aman」を除く)
  • ブリット・ウォルフォード – ドラムス、ヴォーカル(一部)、ギター(「Don, Aman」)

その他

  • ブライアン・ポールソン – エンジニアリング
  • ウィル・オールドハム – ジャケット写真
  • ノエル・サルツマン – 裏ジャケット写真(蜘蛛)

(注:オリジナル・パッケージにはメンバー名が明記されていなかった。)

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