概説
『LP1』は、イングランド出身のシンガーソングライター、FKAツイッグス(FKA Twigs)のデビュー・スタジオ録音アルバムである。2014年8月6日にヤング・タークス(Young Turks)からリリースされた。本作はR&B、トリップホップ、エレクトロニカの要素を極端に断片化して再構成した作品であり、ミニマルで冷ややかな音響空間のなかに官能的なヴォーカルを配置した、2010年代のオルタナティブR&B/アヴァン・ポップを代表する作品の一つである。

制作の背景
FKAツイッグスことタリア・デブレット・バーネット(Tahliah Debrett Barnett)は、ダンサーとしての活動を経てシンガーソングライターとして活動を始めた。2012年12月4日にセルフリリースで『EP1』を発表し、2013年9月17日にヤング・タークスから『EP2』をリリースした。
『EP2』ではプロデューサーのアルカ(Arca)が制作に深く関わり、抽象化・解体されたR&Bという方向性が明確に示された。『LP1』は、この延長上に位置づけられる初のフルアルバムであり、2013年から2014年にかけて録音された。
制作にはアルカ、クラムス・カジノ(Clams Casino)、デヴ・ハイネス(Dev Hynes、Blood Orangeとしても知られる)、サンファ(Sampha)、ポール・エプワース(Paul Epworth)、エミール・ヘイニー(Emile Haynie)らが参加し、インク(Inc.)、ティック(Tic)、サイ・アン(Cy An)がプロデューサーとしてクレジットされている。アートワーク(Imagery)はアルカと縁の深いジェシー・カンダ(Jesse Kanda)が手がけた。
解説
サウンドの特徴は、ミニマルで冷ややかな雰囲気、細かく刻まれるグリッチ・ビーツ、そして官能的で繊細なヴォーカルにある。リズムは連続性よりも断片性を志向し、空白や沈黙が音の一部として組み込まれている。ヴォーカルは高音域とささやくような声を往復し、多層化(マルチレイヤー)による重層的なアプローチも多用される。
R&Bの歌唱様式とエレクトロニックな音響設計が均衡しているのが本作の特徴である。ジャンルの語法は引用されるのではなく、解体されたうえで再配置されている。全体を通して性的な欲望、脆弱性、親密さと距離感、メディアや視線に晒される意識といったテーマが通底する。
リリース当時はレビュー収集サイトMetacriticで平均86/100を獲得するなど、批評家から広く高い評価を受け、主要メディアの年間ベスト・リストの上位に多く挙げられた。同年のマーキュリー・プライズにノミネート(ショートリスト選出)されたほか、第57回グラミー賞では最優秀レコーディング・パッケージ賞(ジェシー・カンダ名義)にもノミネートされた。
商業面では全英アルバムチャートで最高16位、全米ビルボード200で最高30位を記録し、全英インディペンデント・アルバムチャートおよび全米トップダンス/エレクトロニック・アルバムチャートでは1位を獲得した。
FKAツイッグスの2作目のスタジオ録音アルバム『マグダレーン(Magdalene)』(2019年)は、総合的な完成度の点でしばしば最高傑作として挙げられるが、それに対して『LP1』は、デビュー作として実験性と革新性で特に高く評価される作品である。『マグダレーン』はより広い音響的語彙と洗練された構築によって一つの到達点を示しており、『LP1』はその出発点として、断片化された音響とヴォーカルの緊張関係を極端な形で提示している。
歴史的な観点から見ると、『LP1』はアルカ、クラムス・カジノらの音響的な関心とR&Bの歌唱の伝統を結びつけた点で、2010年代のオルタナティブR&Bやインディー・エレクトロニカの方向性を決定づけた作品の一つとされる。
楽曲解説
「Preface」: 歪んだヴォーカルのレイヤーと重層的なコーラスで構成された、アルバムの幕開けを告げる短い導入曲。ラッキー(Lucki)が「demon voice(悪魔の声)」として参加。
「Lights On」: ざらついたギターとアンビエントな質感が交錯し、官能性と生々しい歌声が際立つ楽曲。アルカがプロデュース。
「Two Weeks」: アルバムからの先行シングルとして2014年6月24日にリリースされた。エミール・ヘイニーがFKAツイッグスとともにプロデュースを担当。荘厳なコーラスワークと重層的でドリーミーな広がりを持つサウンドスケープのなかで、硬質なビートと官能的なヴォーカルが融合した代表曲。ミュージック・ビデオ(監督:ナビル・エルダーキン)ではFKAツイッグスが巨大な女神とそれを取り囲む小さなダンサーたちの双方を演じている。
「Hours」: クラムス・カジノ、デヴ・ハイネス、アルカ、エミール・ヘイニーらが参加。微細な電子音とダークな空間処理が、内省的かつセクシーなムードを醸し出す。
「Pendulum」: 2作目のシングル(2014年7月29日リリース)。ポール・エプワースがFKAツイッグスとともにプロデュースした。声が細かくチョップされ、引き伸ばされるプロダクションが不安と心地よさを同時に与える。
「Video Girl」: アルバムからの3作目のシングル(2014年10月13日リリース)。過去に出演したミュージック・ビデオのダンサー経験にインスパイアされた、メディアや視線に晒される恐怖と魅惑をテーマにした楽曲。
「Numbers」: サンファが参加。ピアノやシンセサイザーのミニマルな反復と、緊張感のあるビートが特徴。
「Closer」: 歪んだギターのトーンや変則的なリズムアプローチを取り入れた、ディープで実験的なナンバー。FKAツイッグスが中心となってプロデュースし、サイ・アンとティックが追加参加。
「Give Up」: エミール・ヘイニーがプロデュースし、アルカが追加プロダクションを担当。メランコリックなメロディと断片化されるビートの対比が鮮烈な楽曲。
「Kicks」: アルバムの終幕を飾る、約5分半の大作。FKAツイッグスとジョエル・コンパス(Joel Compass)による共作。不穏な低音と官能的なヴォーカルがうねるように展開される。FKAツイッグスがプロデュースし、サイ・アンが追加参加。
収録曲
収録時間は40分46秒。
- “Preface” – 1:46
- “Lights On” – 4:24
- “Two Weeks” – 4:07
- “Hours” – 4:35
- “Pendulum” – 4:58
- “Video Girl” – 3:47
- “Numbers” – 3:43
- “Closer” – 3:45
- “Give Up” – 4:17
- “Kicks” – 5:24
人員(主要クレジット)
- FKAツイッグス – ヴォーカル、ソングライティング、プロダクション(複数曲)
- アルカ – プロデュース(Lights On)、共同/追加プロデュース(Hours、Give Upなど)
- エミール・ヘイニー – プロデュース(Two Weeks、Hours、Video Girl、Give Up)
- クラムス・カジノ – プロデュース(Hours)
- デヴ・ハイネス – プロデュース(Hours)
- ポール・エプワース – プロデュース(Pendulum)
- サンファ – プロデュース(Numbers)
- サイ・アン、ティック、インクほか – 追加プロデュースなど
- アートワーク(Imagery):ジェシー・カンダ
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