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メシアン: トゥーランガリラ交響曲(Chung, 1990)

概説

オリヴィエ・メシアンの《トゥーランガリラ交響曲》(Turangalîla-Symphonie、1946–48年作曲、1990年改訂)は、20世紀音楽における最も壮大で官能的な傑作の一つである。サンスクリット語の「turanga」(時間・運動・リズム)と「lîla」(遊び・宇宙的な喜び・愛)を組み合わせたタイトルが示す通り、人間的な愛(特に肉体的・情熱的な愛)を主題とした10楽章の大規模交響曲で、約75–80分を要する。

この作品はメシアンの「トリスタン三部作」(《ハラウィ》、《トゥーランガリラ交響曲》、《5つのルシャン》)の中心をなし、宗教的黙想よりも世俗的・官能的な喜びを前面に押し出した点で、作曲家の作品群の中で特異な位置を占める。巨大な管弦楽に独奏ピアノとオンド・マルトノを加え、複雑なリズムと色彩的な和声、ガムラン風の打楽器群を駆使している。

チョン・ミョンフン指揮、パリ・バスティーユ管弦楽団による1990年の録音(ドイツ・グラモフォン)は、改訂版をメシアン本人が監修した版として特に重要である。イヴォンヌ・ロリオ(ピアノ、作曲者の妻)とジャンヌ・ロリオ(オンド・マルトノ)が独奏を務め、作曲者の理想に極めて近い解釈とされる。

作曲者の略歴

オリヴィエ・メシアン(1908–1992)は、フランスを代表する20世紀の作曲家・オルガニストである。パリ音楽院で学び、教会オルガニストとして長く活躍した。鳥の歌、色彩(音と色覚の共感覚)、インドのリズム、カトリック的神秘主義を独自に融合させた音楽語法を確立した。代表作に《世の終わりのための四重奏曲》、《異国の鳥たち》、歌劇《アッシジの聖フランチェスコ》などがある。戦後フランス音楽の巨匠として、ピエール・ブーレーズなどの後進に多大な影響を与えた。

作曲の経緯

1945年、セルゲイ・クーセヴィツキーからボストン交響楽団のための委嘱を受け、1946年7月から1948年11月にかけて作曲された。初演は1949年12月2日、ボストンでレナード・バーンスタイン指揮、イヴォンヌ・ロリオ(ピアノ)、ジネット・マルトノ(オンド・マルトノ)によって行われた。

当初は伝統的な4楽章構想だったが、トリスタン神話に着想した愛のテーマを中心に、3つの「トゥーランガリラ」楽章や情熱的な愛の楽章を追加して10楽章の大作となった。

メシアンはこの作品で、時間と永遠、喜びと死、肉体と精神の合一を表現しようとした。1990年に小規模な改訂を行い、オーケストレーションの一部を調整した。

楽曲全体の特徴

巨大編成の管弦楽(木管、金管、弦楽のほか、独奏ピアノ、オンド・マルトノ、チェレスタ、グロッケンシュピール、ヴィブラフォンなど多様な打楽器群)が特徴である。打楽器と鍵盤楽器群はガムランのような色彩的な響きを生み、オンド・マルトノは人間的な歌声のような抒情性を加える。複雑な非対称リズム(インドのターラの影響)、限定移調の旋法、鳥のさえずりの模倣、循環テーマ(愛のテーマなど)が用いられ、断片的で同時進行的なテクスチュアが超現実的・幻視的な効果を生む。全体として、狂喜的な歓喜と静謐な愛の瞑想が交互に現れる。

各楽章の解説

第1楽章:序章(Introduction)

作品の主要な循環主題(愛のテーマなど)を提示する序楽。木管と弦楽の対話から始まり、オンド・マルトノの幻想的な響きとピアノの華やかな装飾が加わる。

第2楽章:愛の歌1(Chant d’amour I)

情熱的な愛の歌の第一部。重厚で官能的な性格を持ち、リズミックな推進力とダイナミックなコントラストが特徴。愛のテーマが明確に現れ、管弦楽の総力による激しい盛り上がりをみせる。

第3楽章:トゥーランガリラ1(Turangalîla I)

「トゥーランガリラ」三部作の第一楽章。夢想的な緩やかなテンポで、リズムの複雑な重ね合わせと色彩的な打楽器群が際立つ。

第4楽章:愛の歌2(Chant d’amour II)

愛の歌の第二部。前楽章よりも優美で叙情的な展開を見せる。オンド・マルトノの歌うような旋律とピアノのカデンツァが美しく絡み合う。

第5楽章:星々の血の喜び(Joie du sang des étoiles)

作品の最大のクライマックス。狂喜的な速度と強烈なリズム、総奏による爆発的なエネルギーが特徴。宇宙的な歓喜と肉体的陶酔が融合した、圧倒的な楽章である。

第6楽章:愛の眠りの園(Jardin du sommeil d’amour)

作品中で最も静謐で抒情的な部分。鳥のさえずりの模倣が豊かに用いられ、オンド・マルトノと弦楽が織りなす甘美で夢幻的な響きが、愛の至福の眠りを描く。

第7楽章:トゥーランガリラ2(Turangalîla II)

「トゥーランガリラ」第二楽章。リズム構造の精緻な展開を中心に据えつつ、幻想的な雰囲気を保つ。

第8楽章:愛の展開(Développement de l’amour)

愛の発展・深化を描く楽章。先行する愛の歌の要素をさらに発展させ、ドラマティックな展開と情感の豊かな高揚を見せる。

第9楽章:トゥーランガリラ3(Turangalîla III)

「トゥーランガリラ」最終楽章。リズムと色彩の集大成ともいうべき内容で、複雑なポリリズムと打楽器の活躍が目立つ。

第10楽章:終曲(Finale)

すべての主題を統合し、勝利的に締めくくる最終楽章。愛のテーマが壮大に回帰し、喜びに満ちた肯定とともに管弦楽の総力による輝かしいアポテオーシス(神格化・勝利の絶頂)を形成する。

チョン盤の解説

1990年10月、パリ・バスティーユ・オペラ座で録音(プロデューサーはレンナルト・デーン)。メシアン本人がセッションに立ち会い、改訂版の理想的な実現を監修した録音として歴史的な価値が高い。

チョン・ミョンフンの指揮は、細やかなダイナミクスと色彩感、構造的な明晰さを重視し、粗野な興奮を抑えた洗練されたアプローチを取る。一部批評では「控えめ」「ソフト」と評されるが、メシアン自身は「素晴らしい(magnificent)」「あらゆる観点から見て決定的(definitive from every point of view)」と絶賛した。バスティーユ管は極めて高い技術的精度でフランス的な響きを聴かせる。DGの録音は鮮明で、独奏楽器とのバランスも良好である。

リリースは1991年(DG 431 781-2)。メシアンの他の作品とのボックスセットにも収録され、高い評価を維持している。アンドレ・プレヴィン(EMI)やリッカルド・シャイー(Decca)のような明快な華やかさを求める聴き手は物足りなさを感じるかもしれないが、作曲家の意図に忠実な、深みのある解釈である。

この録音は20世紀後半のメシアン演奏史において、晩年の作曲家の承認を得た「公式」版の一つとして重要な位置を占めている。



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