- 概説
- アルバム制作の経緯
- アルバム全体の音楽的特徴
- 楽器編成と楽曲の特徴
- リリース履歴
- 受容・評価
- 各曲解説
- Side One
- 1. エレクトリック・プルーンズ(The Electric Prunes) – I Had Too Much to Dream (Last Night) (1966)
- 2. スタンデルズ(The Standells) – Dirty Water (1966)
- 3. ストレンジラヴズ(The Strangeloves) – Night Time (1965)
- 4. ニッカーボッカーズ(The Knickerbockers) – Lies (1965)
- 5. ヴァグランツ(The Vagrants) – Respect (1967)
- 6. マウス(Mouse) – A Public Execution (1966)
- 7. ブルース・プロジェクト(The Blues Project) – No Time Like the Right Time (1967)
- Side Two
- 1. シャドウズ・オブ・ナイト(The Shadows of Knight) – Oh Yeah (1966)
- 2. シーズ(The Seeds) – Pushin’ Too Hard (1965)
- 3. バーバリアンズ(The Barbarians) – Moulty (1966)
- 4. リメインズ(The Remains) – Don’t Look Back (1966)
- 5. マジシャンズ(The Magicians) – An Invitation to Cry (1965)
- 6. キャスタウェイズ(The Castaways) – Liar, Liar (1965)
- 7. サーティーンス・フロア・エレベーターズ(The 13th Floor Elevators) – You’re Gonna Miss Me (1966)
- Side Three
- 1. カウント・ファイヴ(Count Five) – Psychotic Reaction (1966)
- 2. リーヴス(The Leaves) – Hey Joe (1966)
- 3. マイケル&ザ・メッセンジャーズ(Michael and the Messengers) – Romeo & Juliet (1967)
- 4. クライアン・シェイムス(The Cryan’ Shames) – Sugar and Spice (1966)
- 5. アンボイ・デュークス(The Amboy Dukes) – Baby Please Don’t Go (1967)
- 6. ブルース・マグース(Blues Magoos) – Tobacco Road (1966)
- Side Four
- 1. チョコレート・ウォッチバンド(The Chocolate Watchband) – Let’s Talk About Girls (1967)
- 2. モジョ・メン(The Mojo Men) – Sit Down, I Think I Love You (1967)
- 3. サード・レール(The Third Rail) – Run, Run, Run (1967)
- 4. サジタリアス(Sagittarius) – My World Fell Down (1967)
- 5. ナッズ(Nazz) – Open My Eyes (1968)
- 6. プレミアズ(The Premiers) – Farmer John (1964)
- 7. マジック・マッシュルームズ(The Magic Mushrooms) – It’s-a-Happening (1966)
- Side One
概説
『ナゲッツ:オリジナル・アーティファクツ・フロム・ザ・ファースト・サイケデリック・エラ 1965–1968(Nuggets: Original Artyfacts from the First Psychedelic Era 1965–1968)』は、1972年にエレクトラ・レコードからリリースされた、1960年代中頃の米国産ガレージロックおよびサイケデリック・ロックのコンピレーション・アルバムである。音楽評論家であり、のちにパティ・スミス・グループ(Patti Smith Group)のギタリストとなるレニー・ケイ(Lenny Kaye)によって編纂された。
本作は、1960年代後半のメインストリームのサイケデリック・ロックやアルバム・オリエンテッド・ロック(AOR)の陰に隠れ、商業的成功を得られなかったものの、独自の尖鋭性を持ったローカルなシングル曲群を再評価・体系化した歴史的意義を持つ作品である。のちのパンク・ロックやインディー・ロック、パワー・ポップの源流の一つとなった、ロック史におけるマイルストーンとして知られる。

アルバム制作の経緯
1970年代初頭、ロック音楽は巨大市場を持つ大規模なスタジアム・ロックやプログレッシブ・ロックへと移行しつつあった。当時『ローリング・ストーン』誌などで執筆していたレニー・ケイは、1960年代中頃にアメリカ全土のローカル・レーベルから自主的、あるいは小規模にリリースされた無数のシングル盤(いわゆる「45回転盤」)に潜む、短命ながらも強烈なエネルギーを放する音楽群に着目した。
エレクトラ・レコードの創設者であるジャック・ホルツマン(Jac Holzman)のバックアップのもと、ケイは自身のコレクションやディガーとしてのネットワークを駆使して音源を選定。1972年に2枚組LPとしてリリースされた。
アルバム全体の音楽的特徴
『ナゲッツ』が捉えた音楽的特徴は、プロフェッショナルな洗練とは対極にある、アマチュアリズムと初期衝動の露呈にある。ビートルズ(The Beatles)やバーズ(The Byrds)といったブリティッシュ・インヴェイジョンやフォーク・ロックの洗礼を受けたアメリカの若者たちが、地方のスタジオやガレージで模倣・昇華した結果生まれた、特異なサウンドスケープが全編を貫いている。
コード進行の定型からの逸脱、荒削りなディストーション、ファズ・ボックスやトレモロの過剰な使用、そして教会堂の残響を思わせるリバーブなど、ローファイな音響処理が特徴である。また、高度な政治的メッセージや叙事詩的構成よりも、ティーンエイジの焦燥、恋愛のフラストレーション、あるいはトランス状態への希求といった直接的な主題が優勢を占めている。
楽器編成と楽曲の特徴
標準的な楽器編成は、ベース、ドラムス、リズム・ギター、リード・ギター、そしてヴォーカルという、いわゆる4ピースまたは5ピースのロックンロール・バンドのフォーマットに準拠している。しかし、その音響的処理においては当時の最先端技術とDIY精神が混交している。
- ギター: ファズペダル(Maestro FZ-1など)やトレモロを常時オンにしたような、金属的で耳障りな持続音や鋭いリフが多用される。
- キーボード: 遠近感を失わせるようなファルフィッサ(Farfisa)やVOX製コンボ・オルガンが導入され、楽曲にサイケデリックな浮遊感や異国情緒を付与している。
- リズム隊: 疾走感のある8ビートや、モータウンなどの影響下にあるダンス・ビートを基本としつつも、技術的な未熟さに起因する前のめりなテンポの揺らぎがそのままテイクとして採用されている。
- ヴォーカル: シャウトや、メガホンを通したようなエフェクト処理、過剰なエコーなど、リアリティを排した荒々しい表現が志向されている。
リリース履歴
初版は1972年にエレクトラ・レコードより2枚組LPとして発売(全27曲)。
1976年にサイアー・レコードから新しいジャケットデザインで再発売された。
1998年にライノ・レコードからCD4枚組のボックスセット(全118曲)が発売された。
2023年にライノ・レコードからLP5枚組の限定ボックスセット(全70曲)が発売された。
上記以外の派生作品として、1980年代にライノ・レコードが15枚のアルバムとしてリリースした『Nuggets』シリーズ、アメリカ以外の地域の楽曲を集めた『Nuggets II: Original Artyfacts from the British Empire and Beyond, 1964–1969』(ライノ・レコード、2001年)などがある。
受容・評価
本作は発売当時は商業的な大ヒットには至らなかったが、コアな音楽ファンの間での口コミや批評的な評価を通じて、ロングセラー的な影響力を獲得した。
本作の最大の功績は、「ガレージロック」というジャンル概念を批評的に確立した点にある。ラモーンズ(Ramones)やパティ・スミス(Patti Smith)など、1970年代中頃のニューヨークやロンドンにおけるパンク・ロックのミュージシャンの多くがこのアルバムを出発点、あるいは共通言語として参照した。
1990年代以降もインディー・ロックやオルタナティブ・ロックの文脈で再評価が続き、ローファイ・ムーブメントやガレージロック・リバイバルに至るまで、その音楽的遺伝子は多大な影響を与え続けている。批評的観点からも、歴史の忘却からローカルな文化遺産を救済したマスターピースとして高く評価されている。
各曲解説
Side One
1. エレクトリック・プルーンズ(The Electric Prunes) – I Had Too Much to Dream (Last Night) (1966)
- 1965年頃にカリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたサイケデリック・ロック・バンド。
- 強烈なファズギターと逆回転ギターの効果音を用いた、気だるくも幻想的な世界観が特徴のサイケデリック・ガレージの代表曲。
2. スタンデルズ(The Standells) – Dirty Water (1966)
- 1962年にカリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたガレージロック・バンド。
- 都会のダーティな空気感を歌った荒々しいヴォーカルが魅力のローファイ・ガレージの古典。
3. ストレンジラヴズ(The Strangeloves) – Night Time (1965)
- 1960年代中頃にニューヨークで結成された、プロデューサーチーム(フェルドマン、ゴールドスタイン、ゴットヒーラー)による変名ガレージ・ポップ・バンド。
- キャッチーなメロディとハンドクラップを交えた、ポップセンス溢れるガレージロック。
4. ニッカーボッカーズ(The Knickerbockers) – Lies (1965)
- 1964年にニュージャージー州バーゲンフィールドで結成されたポップ・ロック/ガレージ・バンド。
- ビートルズへのアメリカからの回答とも言える、ビートルズ初期に酷似したコーラスワークと疾走感が光るナンバー。
5. ヴァグランツ(The Vagrants) – Respect (1967)
- 1964年にニューヨーク州ロングアイランドで結成されたR&B/ガレージロック・バンド。レスリー・ウエスト(Leslie West)が在籍。
- オーティス・レディング(Otis Redding)の1965年の名曲のカバーだが、ハードロックの萌芽を感じさせるヘヴィでエモーショナルなギターアレンジが施されている。
6. マウス(Mouse) – A Public Execution (1966)
- 1965年にテキサス州タイラーで結成されたガレージロック・バンド。
- ボブ・ディラン(Bob Dylan)の影響下にある陰鬱なヴォーカルと、オルガンがうねるサイケデリックな雰囲気が特徴。
7. ブルース・プロジェクト(The Blues Project) – No Time Like the Right Time (1967)
- 1965年にニューヨークで結成されたフォーク・ロック/ブルース・ロック・バンド。アル・クーパー(Al Kooper)が在籍。
- 都会的な洗練とブルージーなインプロヴィゼーションが融合したロック・ナンバー。
Side Two
1. シャドウズ・オブ・ナイト(The Shadows of Knight) – Oh Yeah (1966)
- 1964年にイリノイ州シカゴで結成されたガレージロック・バンド。
- ボ・ディドリー(Bo Diddley)の楽曲(1959年)のカバー。ファズギターと荒々しいヴォーカルによる攻撃的なブルースロック。
2. シーズ(The Seeds) – Pushin’ Too Hard (1965)
- 1965年にカリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたガレージ/サイケデリック・ロック・バンド。
- パンク・ロックの源流とも言える曲。スカイ・サクセンの狂気を感じさせるヴォーカルとチープなファズギターが強烈な印象を残す。
3. バーバリアンズ(The Barbarians) – Moulty (1966)
- 1964年頃にマサチューセッツ州ケープコッドで結成されたガレージロック・バンド。
- 事故で片手を失い義手(フック)をつけていたドラマー、モルティをフィーチャーし、自らの半生をスポークン・ワードで語るドラマチックな異色作。
4. リメインズ(The Remains) – Don’t Look Back (1966)
- 1964年にマサチューセッツ州ボストンで結成されたR&B系ガレージロック・バンド。
- 全米屈指のタイトかつ爆発的な演奏力を誇り、オルガンとピアノを疾走させるモッド・ガレージの最高峰。
5. マジシャンズ(The Magicians) – An Invitation to Cry (1965)
- 1965年頃にニューヨークで結成されたガレージロック・バンド。
- 物悲しいメロディと陰影に富んだコーラスワーク。初期フォーク・ロックとガレージの橋渡しのような一曲。
6. キャスタウェイズ(The Castaways) – Liar, Liar (1965)
- 1960年代初頭にミネソタ州ミネアポリスで結成されたサーフ/ガレージロック・バンド。
- ハイテンションな叫び声とファズの効いたリフが爆発する、ガレージ・パンクの典型。
7. サーティーンス・フロア・エレベーターズ(The 13th Floor Elevators) – You’re Gonna Miss Me (1966)
- 1965年にテキサス州オースティンで結成されたサイケデリック・ロック・バンド。
- ロッキー・エリクソンの狂気を感じさせるヴォーカルと、電動のこぎりのようなエレクトリック・ジャグの音色が強烈なインパクトを与えるサイケデリック・ロックの金字塔。
Side Three
1. カウント・ファイヴ(Count Five) – Psychotic Reaction (1966)
- 1964年にカリフォルニア州サンノゼで結成されたガレージロック・バンド。
- 全米5位を記録した大ヒット曲。ヤードバーズ(The Yardbirds)の影響が色濃い、混沌としたギターソロと気だるさが特徴のガレージ・クラシック。
2. リーヴス(The Leaves) – Hey Joe (1966)
- 1964年にカリフォルニア州ロサンゼルスで結成されたフォーク・ロック/ガレージ・バンド。
- ビリー・ロバーツ(Billy Roberts)作の名曲の最も有名な早期ガレージ・カバーの一つ。のちのジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)版にも影響を与えた骨太なアレンジ。
3. マイケル&ザ・メッセンジャーズ(Michael and the Messengers) – Romeo & Juliet (1967)
- 1962年にミネソタ州で結成されたザ・メッセンジャーズを母体としてウィスコンシン州ミルウォーキー周辺で活動したガレージ・ポップ・バンド。
- リフレクションズ(The Reflections)が1964年に歌った曲のカバー。モータウン風の軽快なリズムとガレージの要素が融合している。
4. クライアン・シェイムス(The Cryan’ Shames) – Sugar and Spice (1966)
- 1965年にイリノイ州シカゴで結成されたフォーク・ロック/ポップ・バンド。
- サーチャーズ(The Searchers)が1963年にヒットさせた曲のカバー。洗練されたコーラスとシャープなギターサウンドが特徴。
5. アンボイ・デュークス(The Amboy Dukes) – Baby Please Don’t Go (1967)
- 1964年頃にシカゴで結成、その後デトロイトを拠点として活動したハードロック/サイケデリック・バンド。テッド・ニュージェント(Ted Nugent)が在籍。
- ビッグ・ジョー・ウィリアムズ(Big Joe Williams)の1935年のブルース曲のカバー。狂乱のギターインプロヴィゼーションを含む長尺の演奏。
6. ブルース・マグース(Blues Magoos) – Tobacco Road (1966)
- 1964年にニューヨークで結成されたサイケデリック・ロック・バンド。
- ジョン・D・ラウダーミルク(John D. Loudermilk)が1960年に発表した楽曲のカバー。サイケデリックなサイレンの演出やヘヴィなオルガンが印象的。
Side Four
1. チョコレート・ウォッチバンド(The Chocolate Watchband) – Let’s Talk About Girls (1967)
- 1965年にカリフォルニア州サンノゼで結成されたガレージ/サイケデリック・ロック・バンド。
- グローズ(The Grodes)の曲(1966年)のカバー。パンキッシュなファズギターとダーティなガレージ・ヴォーカルが特徴。
2. モジョ・メン(The Mojo Men) – Sit Down, I Think I Love You (1967)
- 1964年にカリフォルニア州サンフランシスコで結成されたフォーク・ロック/ガレージ・バンド。
- スティーヴン・スティルス(Stephen Stills)が作曲し、バッファロー・スプリングフィールド(Buffalo Springfield)が1966年に発表した曲のカバー。華やかなハーモニーとポップなアレンジが魅力。
3. サード・レール(The Third Rail) – Run, Run, Run (1967)
- 1966〜67年頃にアーサー・レスニック、クリス・レスニック、ジョーイ・レヴィンを中心としてニューヨークで活動したスタジオ・プロジェクト系のポップ・ロック・バンド。
- バブルガム・ポップとサイケデリアの中間のようなキャッチーでスピード感のあるナンバー。
4. サジタリアス(Sagittarius) – My World Fell Down (1967)
- 1966年にカリフォルニア州ロサンゼルスでゲイリー・アッシャー(Gary Usher)を中心に結成されたサンシャイン・ポップ・プロジェクト。ブルース・ジョンストン(Bruce Johnston)らが参加。
- ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)の『ペット・サウンズ』直系の緻密なコーラスワークと、不気味な現代音楽的間奏が一体となったバロック・ポップ/サイケデリックの傑作。
5. ナッズ(Nazz) – Open My Eyes (1968)
- 1967年にペンシルベニア州フィラデルフィアで結成されたパワーポップ/ハードロック・バンド。トッド・ラングレン(Todd Rundgren)が在籍。
- トッド・ラングレンの卓越したギターリフと、英国ビートの影響が色濃いコーラスが融合した、初期パワーポップの最高峰。
6. プレミアズ(The Premiers) – Farmer John (1964)
- 1962年にカリフォルニア州サンガブリエルで結成されたチカーノ・ロック/ガレージ・バンド。
- ドン&デューイ(Don and Dewey)が1959年に発表したR&Bナンバーのカバー。パーティーのような狂騒とライブ・フロアの臨場感が特徴。
7. マジック・マッシュルームズ(The Magic Mushrooms) – It’s-a-Happening (1966)
- 1965年にフィラデルフィアのペンシルベニア大学で結成されたガレージ・ポップ・バンド。
- ファズトーンの効いた攻撃的なギターソロとチープなオルガン演奏、アシッド感のある語りが特徴。
Amazon.co.jpで「nuggets original artyfacts from the first psychedelic era」を検索
Apple Musicで「nuggets original artyfacts from the first psychedelic era」を検索
